3ページ目.過去日記

 入学式の日、ぼっちのわたしは独りでまっすぐ家に帰った。


 部屋に着くなり、今日着たばかりの高校の制服のまま、ベッドに倒れ込む。


 環境の変化に弱いわたし。


 新しい環境だと気疲れでぐったりしちゃう。


 今までは何とかなったけど、今後こんなんで生きていけるのかな。


 ふっと不安がわたしの頭を襲う。


 って、入学式初日で微病びやみするなんて。


 でもいつまでもこうして病んでいては時間がもったいない。


 日課の漫画を描く練習はしなきゃ。


 わたしは手を伸ばしてタブレットを取り、電源を入れてイラストアプリを開いた。


 漫画は紙にも描くけど、最近はデジタルで描くことの方が多い。


 わたしは今日この目で見た、教室の様子を絵にし始めた。


 わたしは描くことを日記がわりにしてるのだ。


 新しい担任の先生。


 春日咲耶かすがさくや先生。


 ショートカットでボーイッシュな感じ。


 女子からもモテそう。


 そして初々しい制服に身を包んだクラスメイト達。


 その中で緊張で身を固くしているわたし。


 わたしは記憶を頼りにペンを走らせ、タブレットに描写。


 うん、これだけ絵を描くのが好きなら、やっぱりわたしが入部するなら漫画部だね。


 ってか、それ以外取り柄ないし。


 運動オンチのわたしが運動部なんてあり得ない。


 声も小さいから合唱部とかも無理。


 演劇部は……、絶対ない。


 わたしのトラウマである過去の記憶が蘇る。


 わたしが前髪を伸ばすようになったきっかけ。


 わたしが人目を怖がるようになった原因。


 小学校の演劇で自分の出番のとき、多くの観客の目に圧倒されて、頭が真っ白になって、それで台詞が出てこなくなって泣いてしまった。


 あのときの恥ずかしくてつらい記憶。


 それ以来、人の視線を遮るようにわたしは前髪を伸ばし始めた。


 わたしはやっぱり、なるべく人と関わらない部活動がいい。

 

 そんなことを考えながら、ベッドに寝転がりながら絵を描いていたら、新環境の精神的な疲れのせいか、だんだん眠くなってきちゃった。


 わたしは夢の世界は好きだ。


 自分の世界に籠もれるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る