21ページ目.アセガール
わたしは待ち合わせ場所であるエントランスで、先輩が来るのを待つ。
やがてやってきた先輩に廊下から手招きされ、
「周りの子にふわりちゃんの体操服着てることバレないかって、ちょっとドキドキしてヤバかったよ」
そう言って、先輩はわたしが貸した体操服を笑顔で手渡してくれた。
「あの、わたしもお借りしていた体操服、お返しします……」
体育の授業中に着ていた先輩の体操服を、わたしもおずおずと差し出す。
「おー、ふわりちゃんが着たアタシの体操服だ。これで少しでもふわりちゃんの漫画の参考になったのなら良いけどっ!」
「あ、はい。とても参考になりました。キャラクターの気持ちがよくわかったっていうか……。でもわたしの汗で先輩の体操服を汚してしまって……。すみません」
わたしは身体を縮こませて頭を下げる。
「そんなん気にしなくていいよ。っていうか、そんなこと言ったら、アタシなんてふわりちゃんの体操服着てるの忘れて、いつも通りアクティブに動き回っちゃって、汗かきまくっちゃったんだよね。マジごめんね」
先輩が可愛くウインクして手を合わせる。
「いえいえ、そんな。こちらこそそんなこと気にされなくて大丈夫です。先輩がいつも通り授業に専念して頂けたのなら良かったです」
わたしは焦って顔の前で、手を高速で左右に振る。
「これでふわりちゃんの漫画にもリアリティ、出るんじゃない? 漫画のことを実際にやったわけだから」
「はい、その通りです。どうもありがとうございます」
わたしは先輩が着ていたわたしの体操服を胸に抱いて、頭を下げた。
◇ ◇ ◇ ◇
家に帰ってから、わたしは先輩の着ていた体操服を手に持って、洗濯機の前で佇んでいた。
体育の授業中、これを先輩が着て動き回ってたんだ。
そういえば、先輩の授業の内容は何だったんだろう。
何をしていたのか、聞くのを忘れた。
もしかしたら、わたしと同じバレーボールだったかもしれない。
これを着て笑顔でボールを追いかける先輩。
そんな姿がわたしの中に頭に浮かんでくる。
やがて、わたしは無意識のうちに、先輩が着ていた体操服に顔を埋めていた。
……なんだか酸っぱいにおいがする。
いつものわたしの体操服のにおいじゃない。
動き回らないわたしの体操服に、今までこんなはっきりとしたにおいがついていたことはない。
刺激臭だけど、でも嫌な匂いじゃなかった。
このまま嗅いでいても平気だった。
……って何やってだろ、わたし!
ハッと我に返って体操服から顔を離す。
えっ、わたし、いま、先輩の匂いを嗅いでた!?
待って! その、ど、どうしよう。わたし……、もしかして本物の変態になっちゃったのかも!?
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