22ページ目.無境界のRINKA

 新人のわたしの漫画が、今年の漫画部を代表する作品に選ばれた。


 さらにその漫画にリアリティを出すために、偶然知り合ったライバー部の有名人、阿舞野あぶの先輩に手伝ってもらい、わたしの漫画の内容を実践した。


 皆さんが応援、協力してくれてるのに……。


 実はアイデアが貧困なわたしは、漫画のこの先の続きの展開を、はっきりと持っていない。


 つまり具体的な話は、主人公達が体操服交換をするところまでしかできていないのだ。


 先輩から「漫画の次のシーンもリアリティを出すため、やってみようよ」とウキウキで言われて、当然断れないわたしは「はい」と答えてしまった。


 アイデアに行き詰まっているくせに。


 もしかしたら、もうわたし自身ではアイデアが湧いて出ないかもしれない。


 でも基本ぼっちで漫画を描いているわたしには、頼る相手も相談する相手もいないし……。


 漫画家って絵を描く力だけじゃなく、優れた脚本家でもなくちゃいけないのね。


 自分の好きな内容を描いているのにネタ切れなわたし。


 自分の才能の無さに気分が沈む。


 にぎやかな教室での休み時間。


 独り、浮かない顔で席に座っていると、


「どしたん? ふわっち」


 と声をかけられた。


 ふわっち??


 そんなあだ名で呼ばれたのは初めて。


 声の主の方へ目をやると、声をかけてきたのは、隣の席のボーイッシュなショートヘアが特徴的な海野凛夏うんのりんかさんだった。


「あ、あの……」


 突然の事で言葉が出ないわたし。


「あ、ごめん、嫌だった? 勝手にあだ名つけちゃって。席が隣なのに稲羽いなばさんって呼ぶなんて、堅苦しい気がしたからさ」


 そう言って、彼女は笑った。


「いえ、別に、嫌じゃないけど……」


「あたし、人見知りしない性格だから、人との境界線が無くて距離感が変って、よく言われんだよね。それにしても、ふわっち、今日はいつもにもまして超暗い顔してんじゃん。なんか悩み事?」


 海野さんはわたしに聞いてきた。


 自分では気づかなかったけど、わたしってふだんから周りが気にするほど暗い顔してたんだ。


「いえ、そんな、特に悩み事なんて……」


 実際はあるけど。


「そう? それなら良いけど。ところでさ、この間のふわっちの漫画、読ませてよ!」


 そう言って、海野さんが手を差し出してきた。


 へっ!?


 ってか、えーっ!


 たじろぐわたし。


 何でみんな、そんなにわたしの漫画が気になるのぉ……。


 

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