8ページ目.今日から私は

 わたしが通うことになった群光ぐんこう学園はかなり自由な校風。


 さらに時代や流行にも敏感みたい。


 なので部活も他校に無い変わったものがいくつもある。


 eスポーツ部はもちろん、わたしが入部した漫画部やライトノベル部、マジック部、パティシエ部、コスプレ部、アニメ研究部、ミステリー研究部などなど……。


 日本一、部活動の数が多い高校かも。


 エアバンド部っていうのもあったっけ。


 いかに本当に楽器を弾いているように見せるかを極めるって部活紹介で言ってたけど、それなら実際に楽器を覚えた方がメリットが大きい気がする……なんて、わたしなんかに言われるのは余計なお世話だろうけど。


 そんな部活の中で、わたしに絵を教えてと声をかけてきた阿舞野あぶの先輩はライバー部。


 動画配信でバズるインフルエンサーを目指して活動してる部活らしい。


 いくつかの会社もうちのライバー部には注目してるみたい。


 やっぱり先輩は芸能界を目指してるのかな?


 わたしと違って、顔やスタイルは十分通用すると思うけど……。


 でも芸能界って厳しいって聞くからどうなんだろう。


 って、他人の心配をしてる場合じゃない。


 わたしが目指す漫画家の世界だって厳しいのだから。


 そんなことよりも、今からいよいよ高校生初の部活動が始まる。


 今日からわたしは漫画部の部員だ。


 わたし以外に漫画部の新入部員はいるのかな?


 漫画部なんて人気がありそうだけど。


 でもやっぱり人っていうのは、今流行り物の方へ流れていくのかも。


 そうネガティブなことを思いながら、わたしは恐る恐る部室のドアを叩いた。


 ◇ ◇ ◇


「えー、本日は我が漫画部、新年度最初の活動です。まずは今年の新入部員の紹介から!」


 部室に集まった先輩のひとり、衣川美南美きぬかわみなみ先輩が言った。


 先輩達の名前は一通り教えてもらった。


 衣川先輩は胸のリボンの色が緑なので二年生。


 背の低いツインテールの女の子。


 漫画部の人だから、わたしと同じ隠キャなのかなって思ったけど、結構ハキハキ喋っていた。


「では、新しい仲間を紹介します! 一年生こ稲羽いなばふわりちゃんです! 拍手!!」


 先輩達が拍手で迎えてくれる。


 新入生部員はわたし以外に……、いない。


 やっぱりわたし一人だった(汗)。


 しかも先輩も三人だけだし。


 わたしの悪い想像が当たったみたいで、群光学園では漫画部はあまり人気がないようだ。


「じゃあ新人さん、自己紹介を」


 衣川先輩にわたしは自己紹介を促された。


 人前で話すのは苦手なので動揺するわたし。


「あっ、はい、あの……、群光学園に入学してきました稲羽ふわり……です。よろしくお願いします」


 そう言って、わたしは小さく頭を下げた。


「……それだけ??」


 先輩の一人、三年生の嵯峨元康さがもとやす先輩が言う。


「いえっ、あの……他にはえっと、漫画が好きで…….、それで自分で漫画描いてます……」


 漫画部に入るんだから漫画が好きとか当たり前だろう、わたし。


 うまく言葉を口に出せない陰キャなわたしは自分にうんざりする。


「へぇ、もう描いてるんだ。期待できるね。稲羽さん、どんな漫画描いてるのか教えてよ」


 部長の由良命ゆらみこと先輩がわたしに言った。


 漫画部である以上、これは聞かれるとは思ったけど…‥困ったな。


 とてもあんな女の子同士のちょっとフェチなヘンタイチックな漫画、とても人様に教えられるものじゃない。


「わたしもどんな漫画か、興味ある。知りたい知りたい!」


 衣川先輩も身を乗り出す。


「漫画部の部員として、まずはどれだけの技術があるのか、原稿を見たいな」


 嵯峨先輩も興味津々だ。


「原稿、持ってきてくれる?」


 由良部長に言われた。


 原稿はいま手元にあるんだけど……。


 でも先輩達の頼みは断れないし……。


 まいったな。

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