15ページ目.先輩と部屋にいる

 学校の先輩を家の中に入れるなんて、わたしにとって生まれて初めてのこと。


 それどころか、友達すら自分の家に入れるのは幼稚園のとき以来なのに。


 阿舞野あぶの先輩と一緒に歩く帰り道、なにか見られてまずい物はなかったか、わたしは今朝の部屋の様子を必死に思い出していた。


 朝はやっぱり寝起きなのと、登校の準備に気を取られているせいで、部屋の様子なんてどんな感じだったか、はっきりと思い出せない。


 脳の半分は先輩の話を聞き、もう半分で部屋の様子を思い出してるうちに、わたしの家に着いてしまった。


「あの……、ここなんです……」


 わたしは自宅を指さす。


「へぇ、ふわりちゃん家、一戸建てかぁ。うらやましい!」


 先輩はわたしの家を見上げながら言った。


「えっと……そうなんですか?」


 わたしは尋ねた。


「アタシの家ってさぁ、マンションだから二階とかないんだよねー。歌やダンスの練習も周りの部屋に住んでる人に気を使わなきゃいけないしさー」


 そっか、先輩のようなアクティブな人には、わたしの家の方が良いのかも。


 わたしなんて無言で部屋で絵を描いてるか、スマホ触ってるかぐらいだから、マンション暮らしでも問題ない気がする。


「……ただいま」


 家の鍵を開けて「あの、どうぞ」と先輩を玄関へとお招きした。


「あら、ふーちゃんおかえり」

 

 お母さんが玄関まで出迎えにきた。


「お邪魔します、お母さま」


 先輩は笑顔で、わたしのお母さんに丁寧に頭を下げる。


 わたしが人を連れて帰ってきたことにびっくりしたのか、お母さんの目が丸く見開いた。


「あら、いらっしゃい! えっと、どちらさま? あ、もしかしてふわりのお友達? まあ、ご丁寧にありがとうございます」


 お母さんは先輩を見て驚きながらも、嬉しそうだった。


 陰キャのわたしに友達ができたことを喜んでるのかな。


「えっと、まあ汚い家ですが、遠慮なくどうぞ」


 ちょっとどぎまぎしているお母さんに促され「失礼します」と先輩は靴を脱いで、わたしの家へと足を踏み入れた。


 わたしはお母さんといるのが恥ずかしくなったので、早足で二階の自分の部屋へ先輩を案内する。


「あ、意外と殺風景!」


 わたしの部屋に入った先輩の第一声。


「すみません、つまらない部屋で……」


 先輩はもっと漫画のコミックやポスターが多いオタクっぽい部屋を想像していたのかな。


「しかもきちんと片付いてるじゃん! アタシの部屋より綺麗」


 先輩はぐるりとわたしの部屋を見回す。


 やっぱり他人に自分の部屋を見られるのって、恥ずかしい。


 自分の部屋にいるのに、わたしはリラックスできず、緊張しっぱなしで体が縮こまっていた。


 むしろ、わたしのベッドにさっそく腰掛けてる先輩の方がリラックスしてそう。


 なんだか気持ちが落ち着かないので、早く先輩に絵の描き方を教えようと、わたしは小さなテーブルと、その他必要な物の準備を始めた。

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