第20話 アモン

 自他共に認める大悪魔であるアモンはあり得ない、かつてない焦りを感じていた。

何故、どうしてこの卑小個体たちは指し手と同じ、だが異なる力を使う。

指し手は一代に一人のはずだった。それが力持つ方の決めたルール。

アモンの性質は侵食。時間をかけて染み込んだアモンは例えここを焼かれようと滅ばない。筈だ。


 部屋全体が、黄金に侵食されていた。

指し手のまだ見たことのない能力、床に突き立てた金の剣は覚えもないのに怖気を掻き立てる。

指し手の前ではいつの間にか降りてきたさっき仕留めそこねた小さなものが小癪にも結界を張っていた。


「おかしい、おかしいっ」

切れ端共を放つ。獣など足元にも及ばない強く愛らしいアモンの写し身たちは醜い人形より迅速に生物を破砕し取り込む。


筈だった


「何だお前は、お前たちは」

体が重い。

切れ端は払う動作で切り捨てられた。

男の腕1本半程度の長さの刃が、剃刀の刃の如く切れ端を斬り捨て、アモンの存在を刮げ取る。

「何だそれは」

知らない、こんなものは知識に存在しない。

卑小な、卑しいヒト如きがアモンに傷をつけている。

この存在を認めてはならない。


常に慎重に動き、罠を張り、獲物を待ち、充分な狩りをしてきたアモンは魔族以外を知りはしなかった。

知る必要もなかった。

公爵に出会ったことはないが今のアモンならば見劣りはすまいと自負するほどに、アモンは知らず増長していた。


+++


リヴェリアの長い詠唱が終わる。

「哀れなモノよ。眠りなさい」


鐘の音が響いた。

リヴェリアを起点として空気が揺れる。

「嘘だ」

ばき

薄い黄金の環が拡がる。

ごき

「はは、は、まだ」

壁を抜け、土を伝い、音と環は幾重にも拡がっていく。

めき

白い肌から柔軟さが消えていく。

「まだ、だ」

「終わりだよ」

動けなくなったアモンに、かつて聖剣と呼ばれたものの似姿が突き立てられた。

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