第10話 勇者
「アル」
後ろから声をかけられた。
「ノーティスか」
色の薄い髪と涼やかな眼差し。森の民の血が入っているため尖った耳としっかりした体躯のアーチャー。
アルヴァーンの友人の一人だ。
同時に、彼は紛れも無い勇者だ。
「聖剣と、勇者の称号を返上したと聞いたぞ」
「ああ」
「どうしてだ?」
怒っている。いや、心配してくれているのか。両方か。
「王様に仕官するって言うのはやっぱりまだ考えられないし、俺には向いてないよ。それに……」
「そんなに次の大陸戦争に参加させられるのが嫌か」
「……」
パーティは組んでいなかったが一緒に仕事をしたことは多い。
ノーティスにはお見通しか。
「俺は魔王を倒したいと思う。勇者として」
「それなら……勇者のままだって戦後なら幾らでも……」
「勇者なんて誰かに『勇者』だってお墨付き貰うようなもんでもないだろ?」
「君は私たちのやって来たことを否定するのか?」
「違うさ。俺程度のやって来たことはまだまだ勇者って言われるには足りないと思うんだよ」
「君と言う奴は……」
「俺は劇的じゃなくてもいいんだ。ゆっくり俺の理想の勇者を目指すよ。幸いオルガノで自警団に誘ってもらったし」
「君は馬鹿だよ。それに卑怯だ」
「ああ」
「またな。友よ」
「ああ、また」
まだ、勇者には足りない。
「何をもって勇とするか、何のために生きるのか。」
師匠と呼んだ女性は言った。
「それが決まるまではお前は勇者ではないのだ」
戦争が嫌いなのは本当だ。
しかし故郷を守るため戦うのは間違ってはいないと思うし、自分がその流れに組み込まれることにも異議はない。
ただ。アルヴァーンにはもう拠り所はない。故郷もない。
なにも ない
ただ漠然と人々のためと謳う言葉のなんと軽いことか。
荒ぶる竜を殺した。
怒れるトロールを殺した。
盗賊を退治した。
言われるままに。すがられるままに。
ベルセイスの恐慌が始まってすぐ町の人に頼まれた。私達の王様を助けて、と。
城に近づいた所で兵士に頼まれた。狂った王を殺してくれ、と。
その通りで悲鳴が上がった。この子だけは助けて、と。
どれも果たせなかった。
俺はなんのために今戦うのだろうか。
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