第11話 逃走

「魔王、もうちょっと食べた方が良いぞ」

飛び出して間もなく王の間は崩れ落ちた。

アルヴァーンは痛みをこらえて走りながら魔王の頭をくしゃりと撫でる。

「やっぱり魔王って感じじゃないよな」

腕の中の少女はただの子供だ。

「もっとさ。魔王って『悪い』ってイメージがあったんだよ」

返事は無い。

「だから俺、お前を倒そうと思って準備を始めたとこだったんだよね」

溜め息

「ただの女の子じゃないか……」


 城の外に出た頃にはもう街の火災は治まった様だった。

月が煌煌と輝いている。

魔法の炎は通常の炎より燃える速度が速いと言う。

「もう燃えるものも無いか」

自分が守って来たものはもうなくなってしまった。

またなくなってしまった。


「医者を目指した方がよかったのかもなぁ」

 少女を庭園跡に横たえ、舌を噛み、窒息しないよう上体だけ起こし、口づける。

救命措置とはいえ一日に3回も他人にこうするのは初めてだ。

リヴェリアを縛る布から血が染み出す。止血不十分か。

この娘を助けるにはどうすれば良いのだろう。

アルヴァーンが以前負った魔剣の傷は教会で癒してもらっていたが、果たして魔王を連れて行っても診てもらえるのだろうか。

剣の腕と攻撃魔法には多少心得があるものの、アルヴァーンは治療スキルなどからきしだ。

涙が出そうな悔しさと虚脱感にアルヴァーンは空を見上げる。

巨大な魔法陣が城を含む一帯を覆っている。


終わったのか、終わっていないのか、何もわからない。

これからどこに行けば良い

何をすれば良い

なぁ。教えてくれよ。魔王。


鐘の音が響く。

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