第13話 アリア

 声は背後から聞こえた。

次の瞬間石からアルヴァーンの腕が抜けた。ジュゥと音を立てて皮膚の再生が始まる。

逆に石は大きなダメージを受けたようで地面にべしゃりと崩れた。

「!?」

「カス、何故貴様がそれを持つ」

振り返ると少し癖のある赤い巻き髪の女がいた。

否、ただの女ではない。頭には立派な黒い二本の角を生やし瞳は赤く煌々と輝いている。服は体に張り付くような不思議なデザインで上下ともに黒い。片腕には幅広い緑の剣。刃はわざと潰されているように見えた。

「魔族…?」

「口を利くなゴミ」

 質問を投げてきたお前が言うのか。とアルヴァーンは若干非難の眼差しをむける。

『マばまままま』

「大分壊れておるか。人間の分際で分をわきまえぬからそうなるのだ」

 女は剣を構えた。アルヴァーンには一別もしない。

『ロスコロスコロスコロスコロス』

「はははははははははははは!!あはははは!!そうだ。お前達はそうあるべきだ。来い!!」

石と女の戦いが始まった。

剣と石が当たる度火花が散る。石から苦悶の叫びが上がった。

しかし、何発女の剣が石を殴りつけ刺し貫いても叫びが上がるだけで初期のように石は崩れない。

「おい、効いてるのか」

「口を利くな虫。殺すぞ」

物騒な女だ。アルヴァーンはなんとか膝をついて立ち上がる。

「お前と良い魔王といいなんなん「殺す」

「……」

アルヴァーンはこれ以上は無駄と悟り無言で加勢することにした。

黄金の剣で石の身体をこそぎ落とす。剣を見ると女は目に見えて狼狽した。

「祝福を受けたのか?貴様」

女は軽く目を見開く。

「祝福?」

石が放射状に鋭い腕を発射する。

アルヴァーンはそれを切り落とし、女は弾く。

「人間如きを……一体何をお考えなのだ……」

声には憤りが混じっている。

二人は石本体から距離を取りながら腕を殴り、切り落としていく。

しかし、何故か攻撃の手は一度止まり音も無く石は元の形に戻る。

大きな一撃を射って来るか。

アルヴァーンは強化魔法をつぶやく。

精神力もそろそろ限界に近い。額の汗が垂れる。

「貴様雑魚にしては少しやるようだな」

女が石を見据えたまま呟くように言う。

「そりゃどーも」

どうやらもう口をきいてもいいらしい。

「わたくしの剣にはひめ…陛下のお力で強化してある」

「今姫「黙れ…性質は触れた対象に”痛み”を与えるものだ」

「だから切れなくても悲鳴あげてんのかあいつ」

「しかし、剣自体はただの剣にすぎない。ただの剣ではアレは切れない」

「……あいつ自体が魔剣に近いってことか」

「そうだ。貴様は何故かひ、陛下の剣を持っているがアレを殺しきるには魔王陛下のお力が必要だ。理由は言わぬ」

「!!魔王は満身創痍だぞ!?戦闘に参加させられる状態じゃ……」

「わたくしの仲間が到着している。お命さえあればどうとでもする。治療が終わり次第陛下は必ずいらっしゃる」

「……つまり?」

「時間稼ぎを手伝え」

「了解」

女は軽く目を見張った。即答が予想外だったのだろう。

普通にしていれば角の生えた美人なのになとアルヴァーンは明後日な感想を思い浮かべる。

「貴様は変な人間だな」

「お前も変わった魔族だな」

「これ以上なれ合う必要もなし。不本意ながら援護はしてやる」

「あ、ただし」

「なんだ」

「終わったら名前を教えてくれよ」

「気が向いたらな。……来るぞ」

石が地面に落ちた。そのまま地面に吸い込まれるように消える。

次の瞬間足下が波打った。

「ぐあ」

「くっ」

ボロボロになっていた石畳が持ち上がる。

青黒い泥の剣がその下から次々と突き出して来た。

アルヴァーンと女は身体を捻って初撃をかわす。泥に石が混ざっているのだ。刺さればただでは済むまい。

「物量で攻めて来るのかよ」

地面からは新たな泥の剣が、突き出した泥の剣からは枝葉のように更に小さな棘が突き出される。

周囲はイバラの森の様に黒い棘に覆われていく。

「薙ぎ払え!!」

風圧で棘をもろとも吹き飛ばすが新たな棘が次々と襲いかかる。

「きりがない」

「耐えろ」

身体が悲鳴を上げる。服がぐっしょりと重い。

細かい傷が増えていく。傷口は治癒せずじわじわと広がる。

アルヴァーンは一瞬ローレライと呼ばれていた騎士の最後を思った。

「術で一気に吹き飛ばす」

「頼む!」

女は地面に手をついた。

「狂いしボニファスティ・イグルティカ、拡散せよ!!」

円形のサークルが大量に光り輝き地表に爆風が吹き荒れる。

「避けろよ」

「うあぉ」

とっさにアルヴァーンは跳躍し回避するがカマイタチのような風の刃が女を中心に地面を削り取って空に舞い上げる。

「お前これっ巻き込まれたらただじゃ済まないだろ」

「警告はした」

しかし平地になった地面からまた剣が突出する。

「どんだけ染み込んでんだ」

「質量等もともとこいつらに関係ないからな。人間だった時の自意識が増大を抑制しているのを物質を取り込むことで無効化しているのだろう」

「一体なんなんだよ!!!」

「悪魔だ」

「はぁ!?」

「お前程度の頭で理解しようとするな。お前の剣はこいつを削れるんだからそれだけに集中しろ」

「神とか悪魔とか意味がわかんねぇよ!!!」

「理解しようとするなと言っている。」

ガシャガシャと女の剣は泥のイバラを砕くが、やはり直接本体に触れなければ意味が無いのか泥の勢いは衰えない。

流石に女の横顔にも疲労が伺えた。

剣を振るうと同時にアルヴァーンの強化魔法もかけているようだった。

お陰で体力は限界に近いがまだ剣を振るえる。

アルヴァーンの手の中で、少しだけ剣が輝きを増した。

「!!」

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