第14話 偽神降誕

空の満月より明るい光。


「いらっしゃったか」

ごうん

崩れた城の方から一直線に錨のような巨大な鎌と黄金の鎖が飛来し、地面を破砕した。

鎌を起点としてアルヴァーンと女の周囲まで金の粒子が広がっていく。粒子に触れたイバラはさらさらと砂のように崩れ落ちていく。

「魔王……」

リヴェリアは巨大な鎧の肩に乗っていた。鎧は地面から突き出た泥のイバラを無いもののように破砕して歩く。

少女は座ったまま片手に鎖の端を握りしめている。

「アリア。アルヴァーン。ありがとう」

リヴェリアは身長より遥かに高い鎧の肩からひらりと飛び降りた。

少女の顔には疲労が色濃く現れていたがしっかりと鎖を握っている。

破れたドレスの上には黒い上着を羽織っていた。

アルヴァーンはリヴェリアに駆け寄る。

「魔王。傷はもういいのか」

「本当に、あなたは……」

リヴェリアはアルヴァーンの手に握られた剣を見る。

『殺しソコねたか』

地面を揺らし声がする。

「さっき程度の攻撃では死んでくれないわね。流石に」

リヴェリアは呟く。

物騒な独り言の応酬である。

『改訂はオこナワレルべきだ。魔王、何故分からない』

「知らないわ。初代様にでも聞いてちょうだい」

リヴェリアは石……ではなく肥大化した悪魔に答える。

アルヴァーンはやはりさっぱり会話の意味が分からない。

「アリア。援護をお願い。ウォーロックも」

「心得てございます」

女、アリアがリヴェリアの前に膝をつく。

「御意」

鎧が喋った。

「ベルセイス。倒されてもらうわ」

鎖が消え去りリヴェリアの手に剣が生まれる。

黄金の片刃剣。

アルヴァーンは自分の手にある剣を見る。

「どうしてこれは消えないんだ?」

「私に聞かないで」

リヴェリアは首を横に振った。

地面から青い光が滲み出る。再び形を作るが大きさは最初の比では無い。青い巨人。

「やっぱりこの青いのは……ベルセイスなのか」

「だから同じ声で喋るのでしょう。肉体は悪魔だけどね」

人間が石に食われて別な種になるなど聞いたこともない。人食い石ってなんだ。

アルヴァーンの知る限りそもそも神や悪魔なんて祭壇の上にしかいないものだが。

「私達が保管していたものを使うとできるのよ。詳しく知ろうとしないで」

リヴェリアの剣と呼応するようにアルヴァーンに握られた剣も燃え上がる。

「あなたを殺したくないから」

「ひっ姫様!!それってどういう」

「アリア。姫はやめて」

リヴェリアは数ステップを置いて恐ろしい早さで悪魔に肉薄した。

「神には見えないわね」

『神に刃向かうとは愚かな』

悪魔は膨張してリヴェリアを飲み込む

「魔王!!」

いつの間にかアリアの姿もなかった。

「余裕がないから。もう遊んであげられないわ」

悪魔が片膝をつく。右足にあたる部分がごっそりとなくなっていた。

数歩離れてアリアがリヴェリアを支えている。

風の魔法で金の粒子を飛散させたのだろう。

完全に視認出来なかった。恐ろしい。

リヴェリアは剣を振るいアリアが風で刃を伸ばす。巨人はどんどん削られていく。

『我は認めない』

悪魔が手にあたる部分を大地につく。

それだけで地面がえぐり取られ竜巻のように持ち上がった。

『そう…だsiahfoagdufiafaifgailufgfgafsifgydisaufgiabdauifadifugauifgaygsdyauveaaywvovbhzuobvuoeyiblisyyyferwhfhygfyhsdfubfuksfyykdhbvusovuidbaviaoudbvioduvdyugfefiihvnulllkxvdvdy』

何を言っているのか分からなかった。

「なんだ。なんなんだ」

空からつぶてを降らすつもりか。それともまた足下を狙うつもりか。

しかし身がまえたアルヴァーン、アリア、リヴェリアの意に反して巻き上げられた土塊はぱらぱらと勢いに任せて落ちるのみだった。

「!????」

同時に巨人が霧散した。

「今度は霧にでもなるつもりか?」

アリアが剣を構える。

「いえ、自意識をそこまで拡散させては彼も精神を維持できないはず。今のも本体では……ゴホ……」

リヴェリアは剣を地面に刺し片膝をついた。身体が震えている。

「!!」

「ごめんなさいアリア。弱い主で」

「ひ…陛下。ご謙遜はおやめくださいませ」

アリアがリヴェリアの背をさする。

鎧は空を見上げたままアルヴァーンに話しかけた。

「人間」

「なんだ……?」

「どうして君は陛下の剣に触れていられる」

「なんでだ?普通に持っているだけだぞ?」

「……」

鎧の中身は伺い知れない。

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