第4話 呪い

「アル。立派な勇者になりなさい。貴方は人を助ける人になりなさい」

 彼が小さい頃から、母は彼にそう言い聞かせた。

それが彼が生まれる前に獄死した父を意識しての発言かどうかは知らないが、アルヴァーンは言葉に従い真っ直ぐに育った。勇者に、他人に胸を張って善い人だと名乗れる人間に、少年はなりたかった。

 彼は本を読むことが好きだった。母は喜んで勇者の活躍する冒険図書を少年に与えた。それは、アルヴァーンの理想であり彼の世界そのものだった。

 剣を学び、下働きをしながら慈善活動に明け暮れた。剣の腕は、自分でもなかなかのものになったと思う。師匠に言ったら殴られるだろうが。

 そして、隣町に土砂の片付けを手伝いに行っている間に母は死んだ。殺された。物取りの犯行だったらしい。

 アルヴァーンはそのまま旅に出た。旅の途中で故郷は土砂崩れで消えた。


 それでもアルヴァーンは真っ直ぐに生きた。

生きてきた。


 この国に来たのは3ヶ月前だった。

従騎士連合組合にオルガノ・ヴィスターチェの自警団を斡旋され、彼は剣一降りだけを携えやってきた。

 過ごした時間は微々たるものだが、美しい国だった。

 優しい人々が住まう国だった。


アルヴァーンは地面を掻いた。

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