第15話「夏祭り!」
クリボのウワサは少しずつ形を変えていった。
通り魔という内容から、クリボに会えたら心が洗われてキレイになる……という感じに。
実はこれ、きららちゃんがSNSでウワサを流してくれたんだ。
きららちゃんのSNSはいろんな人が見ているから、拡散されたらあっという間だった。
天真くんいわく、ウワサが完全に消えるよりも、良い方に変えて流した方がいいみたい。
認知度が妖怪の力になることもあるんだって。
「――っていう感じで、どうにかなったよ」
『そっか。がんばったんだなぁ、彩衣』
「元々のウワサも大げさだったんだよ。今までクリボに会った人たちはみんなちゃんと逃げ切れてたみたい。びしょ濡れにされちゃった人はいるみたいだけどね」
晃太郎おじさんと通話しながら、わたしはホッと息をはいた。
本当に異世界に飛ばされるとか、大ケガしちゃうとか、そういうのじゃなくて良かった。
『彩衣にもケガがなくて良かったよ』
「ありがとう、おじさん」
『それに……壱也くんも信じてくれたみたいで良かった』
「……うん」
おじさんの優しい言葉に、わたしも小さくうなずいた。
……本当に。
今までなら、そんなこと考えられなかった。
変なものが見えるわたしは、ずっと、誰にも信じてもらえないと思ってた……。
それなのに今は、きららちゃんも、壱也くんも信じてくれてる。
「……って、もう五時! ごめんねおじさん、もう切るね!」
『もうすぐ暗くなるのに、何かあるのかい?』
「うん。夏祭り!」
そう言って、わたしは駆けだす。
ちょっと前までは、お祭りがあってもどこかユーウツだった。だって一緒に行く友達なんていなかったから。
でも、今のわたしは違うんだ。
そう思って、大きな一歩を玄関の外へと踏み出した。
リズミカルな太鼓や笛の音。
焼きそばやたこ焼きのソースのにおい。
ほかにも屋台がずらっとひしめいていて。
提灯も熱気を包み込むように赤々と光っている。
ごった返した人たちの笑い声もすごいにぎわい。
全身で。全力で。人も空気も何もかもが浮かれているみたいだった。
「わあ……っ」
これが、お祭り! 夏祭り!
これは写真の撮り甲斐もありそう。
レンズはどれくらいで絞ろうかな。暗くなってきたし感度も上げて撮った方がいいよね。
そわそわしてたら、隣で吹き出す音が聞こえた。
「彩衣。はしゃぎすぎよ」
「きららちゃん!」
隣にやって来たのは、浴衣姿のきららちゃん。
髪の毛もお団子にしていて、かわいい。とっても似合ってる。
「やっぱりきららちゃん、モデルにもなれそうだなぁ……!」
「彩衣だって、似合ってるよ。とってもかわいい」
わたしときららちゃんは、互いに顔を見合わせて笑い合う。
まだ、二人で話し慣れなくてドキドキしてる。きららちゃんが「彩衣」って呼び捨てで呼んでくれるようになったのも。
でも、じんわり、ほっこり。胸があったかいや。
「悪い、遅れた」
「壱也くん!」
次にやって来たのは壱也くん。
壱也くんはTシャツにズボンだったけど、カッコイイからそれだけでも様になってる。
二人がそろったことで、周りもちらちらこっちを気にしてる。
イケメンと美少女だもんね。
「あいつは?」
「天真くんならまだ……」
「ごめん、お待たせー!」
ウワサをすれば。
天真くんがカラコロ下駄を鳴らしながら走ってきた。
わ、天真くんも浴衣だ!
「遅いぞ。お前が集まろうって言ったのに」
「ごめんごめん。浴衣を着てみたけど、雲外鏡だとホントの姿しか映らないからさぁ。ちゃんと着れてるように見えるのか、確かめるのに手間取って」
「あのなあ。遊びじゃないんだぞ」
「そうだけど。せっかくなら楽しみたいだろ?」
そう言ってカラカラと笑う天真くん。
そう。このメンバーで夏祭りに来たのは、ただの遊びじゃない。
パトロール――なんだ。
天真くんいわく、やっぱり最近のケガレの増え方はおかしいみたいで。
人が多い祭りでなら何か起きるかもしれないし、もし起きなくても、何かわかるかもしれないんだって。
……わたしね、今までお祭りがイヤだったのはもう一個理由があるの。
妖怪が見えるのが、怖かった。
でも、今日はみんながいる。だから大丈夫!
「さ、行こう!」
天真くんの元気な掛け声で、わたしたちはお祭りの中に飛び込んでいった。
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