第5話『妖怪にケガレがたまっていたら、撮ってみよう』

 家に帰ってきたわたしはベッドにゴロリと横になった。

 わたしのスマホには『妖怪カメラ』のアプリが入っている。

 気になって触ってみると、パッと表示が切り替わった。


『妖怪にケガレがたまっていたら、撮ってみよう』というカメラモード。

『気になる妖怪がいたら図鑑で調べてみよう』という図鑑モード。


 表示されているのは、その二つ。

 試しに図鑑モードを選んでみる。


【一反木綿(いったんもめん)

 夕暮れ時にヒラヒラと飛んで、家に帰るのが遅い子どもをおそう】


 それは、昨日、見たのと同じものだった。


「へえ……。一反木綿っていうんだ。って、人を襲うの!?」


 もう。だから、妖怪なんて嫌いなんだ!


【雲外鏡(うんがいきょう)

 古い鏡の妖怪。つくも神。化け物の正体を映し出す】


 つくも神……って何だろう?

 化け物の正体を映し出すなんて、もしかして便利なものなのかもしれない。

 古い鏡の妖怪ってことは、昔のお姫様とかも使っていたのかな。


【烏天狗(からすてんぐ)

 山伏装束で、自在に飛翔することが可能。剣術と神通力に秀でる】


 あ、これが天真くんだよね。

 あの変わったカッコ、山伏装束っていうんだ。

 たしかに空飛んでたなあ……。


 それにしても、こんなアプリ、誰が作ったんだろう。

 そんな風に思いながらスマホを見ていると、突然、カメラのシャッター音が鳴り響いた。


 カシャカシャカシャ! カシャカシャカシャ!


「わあ!」


 それは、スマホの着信だった。

 カメラが大好きすぎて、電話の着信音もシャッター音にしているんだよね。


「あ、晃太郎こうたろうおじさんだ!」


 スマホに表示された名前にまたビックリして、わたしはあわてて電話に出た。


「晃太郎おじさん、どうしたの?」

『久しぶりだね、彩衣。元気だったかい?』

「う、うん……! まあまあだよ」


 電話の向こうからは、穏やかな声が聞こえてくる。

 おじさんの名前は、清海晃太郎さん。

 お父さんの弟さん。

 実はね、晃太郎おじさんも……昔はわたしと同じように変なものが見えたんだって。

 だからわたしの話も信じてくれたし、相談にも乗ってくれる。

 それにとっても優しいの!

 今使っているカメラも晃太郎おじさんが「お古でいいなら」ってプレゼントしてくれたものなんだ。

 おじさんはわたしが撮った写真も「彩衣は物をよく見て撮れているな」って褒めてくれて……おじさんがそうやって褒めてくれるのも、写真を撮るのが好きな理由だったりするんだよね。

 しかもプログラミングも得意で、壱也くんもおじさんを尊敬してるくらい、とにかくすごい人。

 ……そうだ!

 今回のことも晃太郎おじさんに相談してみよう!


『特に用があったわけじゃないんだ。彩衣がどうしてるかと思って。でも元気なら良かったよ』

「あの、あのね、晃太郎おじさん」

『うん?』

「えっと……その、妖怪のことでね、相談があって」


 でも、どうしよう。いろんなことがありすぎて、いざ話そうとすると上手く説明できない。


「ええと、あの……その……」

『彩衣、落ち着いて』

「ごめんなさい……」

『はは、謝らなくていい。近々そっちに遊びに行こうと思ってるんだ。もし今すぐ電話で話すのが難しいなら、そのときに直接聞こうか?』

「いいの?」

『もちろん』

「ありがとう、晃太郎おじさん!」


 お礼を言って、通話を終える。

 わたしはふー……と長く息を吐いてベッドに寝転んだ。

 おじさんに相談できれば、きっと、きっともう大丈夫。

 おじさんはすごいんだから。

 だから……。


『彩衣といっしょにいた女の子がいるだろ』

『その子、多分だけど、妖怪に憑かれてる』


 ……天真くんの言葉を思い出して、わたしはゴロンと寝返りを打った。

 スマホをぎゅっと握りしめる。

 今日入れた妖怪カメラは妖怪の悪いところをなくすんだよね。

 だけど本当かな。妖怪の言うことを信じていいのかな。

 それに妖怪に憑かれたきららちゃんは、一体どうなっちゃうんだろう……。

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