第6話「やっぱり、妖怪に憑かれてるな」

 翌日。

 学校に行くときららちゃんがクラスの子たちと笑い合っていた。

 あれ、右腕にも包帯が増えてる……?


「きらら、昨日の写真も良かったよ!」

「猫はかわいいし、壱也くんのロボットもうらやましい!」

「あたしも拡散しといたからね」

「きららちゃんってば、クラスでもネットでも人気者ぉ」


 そんなワイワイとにぎやかな言葉たちに、きららちゃんは「そんな……」とか「ありがとう」とか返しながら笑顔。でも、どこか、元気がないような……。

 その笑顔をボーッと見ていたら、後ろから声をかけられた。


「彩衣」

「ひゃい! ……あ、壱也くん……」

「昨日はどうしたんだ。急にいなくなるなんて」

「あ、と、それは、その、あはは……」


 そうだよね。いきなり走り出して、絶対変に思うよね。

 でも、非科学的なことは信じないって言ってる壱也くんに妖怪のことなんて話せないし……。

 ああっ、また壱也くんのメガネが光ってる!

 わたしが壱也くんの放つ圧に震えていると、気づいたきららちゃんもやって来た。


「来てたんだ、彩衣ちゃん。おはよう」

「あ……きららちゃん。えっと、おはよ……」

「ね、ちょっとこっち来て」

「え?」


 きららちゃんはわたしをぐいぐいと教室の外に引っ張っていく。

 壱也くんが「あ、まだ話の途中だぞ!」って言ってきたけど、お構いなし。

 もうすぐ授業が始まるから廊下に人は少ない。

 それを確認したきららちゃんはこっそりと……。


「ねえ……見たの?」


 急に低くなった声に、わたし、ギクリ。


「な……何を?」


 聞き返した声は、バカみたいにひっくり返った。

 そんなわたしを、きららちゃんは大きな目でじぃっと見つめてくる。

 あ、穴が開いちゃいそう

「……ううん。何も見てないならいいの」


 ニコ、と笑うきららちゃん。

 その笑顔はかわいいのに。どこか怯えているような、怖がっているような。

 わたしは上手く笑い返せない。

 くるりとわたしに背を向けて教室に入っていくきららちゃんの包帯を、わたしは見つめるしかできなかった。




 事件は放課後に起きた。

 みんな、思い思いに話しながら帰る準備をしているとき……。


「この写真も投稿しちゃお」


 きららちゃんがニコニコと笑いながらスマホをいじった、その瞬間。

 むず……っと、きららちゃんの脚の表面が動いたんだ。


「……!」


 気づいたわたしは、あわてて口を押さえる。

 だけど……気のせいじゃない。

 みち、みち……っと小さな音を立てて、脚の皮膚が裂けていく。


「き、きららちゃん……!」


 と思わず声をかけようとした、その瞬間。

 はじめは一本の線みたいだった切れ目が、ふいに大きく開いて。

 そこから、ギョロリと目玉が出てきた。


「きゃあああああ!」

「いやっ、痛いっ!」


 わたしの悲鳴と、きららちゃんの悲鳴は同時だった。

 きららちゃんが足を押さえて机に突っ伏す。


「え? なに、どうしたの、きらら」

「足? 足が変なの?」

「だめ! 見ないで!」


 そうさけんで、きららちゃんは教室から逃げ出す。

 ど、どうしよう!

 とにかく……追わなきゃ!

 わたしは急いで廊下に飛び出した。




 学校を出たところで空から天真くんが飛んできた。その頭の上にはシロもいる。


「彩衣!」

「あ……天真くん!」

「オレ様もいるぜ」

「シロ!」


 どうしていいかわからなくて、心細かったからかな。昨日はじめて会ったのに、なんだか懐かしい気がしてしまう。

 天真くんの翼は、きららちゃんの腕や足の目玉より、ずっと綺麗で頼もしく見えた。


「天真くん、きららちゃんが……」

「ああ」


 一緒に走りながら、天真くんは深刻そうにうなずいた。


「やっぱり、妖怪に憑かれてるな」

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