第16話【開催決定! 第一二四三回百鬼夜行】
たこ焼きを食べたり、ラムネを飲んだり。
射的をしたり、型抜きをしたり、かき氷を食べたり。
パトロールを忘れていたわけじゃないけど、「せっかくなら楽しみたい」って言う天真くんの言葉の通り、わたしたちはお祭りを堪能した。
みんなでたこ焼きを分け合うのも、かき氷で変わった舌の色を見せ合うのも、わたしにとってはすごく新鮮で。ドキドキして。
正直、コーフンしちゃってたんだと思う。
だから……。
「はぐれた……!」
「人、多いもんなぁ」
わたしと天真くんは人の波に流されて、二人を見失っちゃった。
今はね、神社の階段で休憩中。
「きららちゃんは、壱也くんと一緒みたい。こっちに来てくれるって」
「そっか。良かった」
スマホに入っていた連絡に、わたしと天真くんはホッと一息。
「そういえば、シロは? いないの?」
「ああ。別ルートで見回ってるよ」
「そっか……」
それきり、しんと静かになる。
……よく考えてみれば、はじめて天真くんと二人っきりだ。
な、なんか緊張してきた。
こういうときって何を話せばいいんだろう?
えっと。えっと……。
「彩衣。ありがとな」
「え?」
話題を探していたら、天真くんの方から口を開いてくれた。
「妖怪カメラで妖怪を助けるの、嫌がってたのにさ。こうして手伝ってくれて」
「あ……う、ううん。天真くんのスマホを壊しちゃったわたしが悪いんだし……」
反射的にぶんぶんと手を振る。
そりゃあ、たしかに「やだ」とも「ムリ」とも思ったよ。
でもその理由は、わたしの勝手なものだから……。
「前も言ったけど、写真だけが居場所だったから、写真にまで妖怪が写ることに抵抗があったけど……でも今は平気なんだ。みんながいてくれるから」
「……そっか。あ、そういえばオレ、彩衣が撮った写真、見てみたいな。妖怪カメラ以外のやつ」
そう言われて、ドキドキしてしまった。
「ええっ。だめだよ!」
「何でだ?」
「わたしが撮る写真っておかしなものが多いみたいなの。いいなあって思うものは何でも撮るんだけど……。植物とか、空とか、看板とか、犬とか……こないだは変わった階段とか、あ、水たまりとか」
全部、そのとき、何かを感じたものたち。
キラキラだったり、ドキドキだったり、ワクワクだったり……。
わたしの心が、あ、って声を上げたときにシャッターを切った写真たち。
だけど……。
「変なのばっかり撮ってるって、笑われたこともあって……。それで写真を撮るのが好きって言いにくくなっちゃったんだ。やっぱり、わたしなんかが写真を撮るのは、きっとおかしいんだよ」
そう。フツウじゃないわたしは、きっと、何をやったって……。
「何かを好きなことに資格なんていらないよ」
天真くんがあまりにはっきり、きっぱり言ったから。
わたしは思わず顔を上げた。
「オレは写真のことを考えてるときの彩衣、キラキラしてていいと思う」
「え……」
照れくさそうに笑った天真くん。
わたしは、何て言ったらいいのかわからなくて、ただ、何度も瞬きするしかできなくて。
そうしてたら、天真くんはフクザツそうに目を伏せた。
「……ただ、彩衣が妖怪を見れるの、もしかしたら写真を撮ってたのも影響してるかも」
「え!?」
「これは山のみんなの受け売りなんだけどさ。多分多くの人は、妖怪を見てるのに見てないんだよ」
ナゾナゾ?
バカみたいにポカンと口を開けてしまったわたしに、天真くんが苦笑する。
「例えばさ。ここに時計があるとするだろ。それで、いろんな人に見てもらう」
「うん」
「何時だった? って聞いたら、答えられる人がほとんどだと思う」
「そうだね」
時計を見たなら、そりゃあ、今の時間はわかるよね。
「でも、例えば文字盤がどんな風だったか……算数字だったか英数字だったか、秒針の形や色はどうだったか……さっき見たばかりのものなのに、たいていの人はそんなに細かく色とか形とか覚えてないんだって。見よう、覚えよう、って意識しないと記憶に残らないんだ」
「あ……」
だから、見てるけど、見ていない……?
妖怪も同じで、いるのに、それを見てるのに、みんな、見えていない……?
「小さいときにオレたち妖怪が見える人は他にもいるみたいだけど、たいてい時間が経つにつれ意識から消えていく。彩衣が今でも見えてるのは……ずっと写真を撮ってきたから、被写体をよく観察するクセがついてるんじゃないかな。だから他の人が見ようとしないことにまで気付きやすいんだ」
「そんな……」
妖怪を見たくなくて、フツウになりたくてのめり込んでいった写真だったのに。
それが余計に妖怪を見えやすくしていたなんて。
呆然としていたら、天真くんが空をあおぎ見た。
「オレは山奥で修行してから、人間界に降りて来たんだ」
「うん……」
「もちろん山奥は、電波なんて飛んでない。だけど
「とりあえずすごくて便利な力ってこと?」
「そんな感じ。それでさ、みんなから街で楽しく過ごしてる話を聞いて、うらやましかった」
急に話が変わった気がして、わたしは少し困惑した。
でも天真くんが真面目な雰囲気だったから、黙って耳をそばだてる。
「だけどいざ来てみたら、わかんないことばっかりでさ。スマホの使い方も慣れないし、速くて怖い乗り物がいっぱいあるし、空も飛びにくいし。本当にケガレでおかしくなってるみんなを見るのも、……ちょっと、怖かった」
「……天真くん……」
それは、もしかしたらはじめて天真くんが見せた弱音だったのかもしれない。
いつも明るくて、どこか
でも、そっか。
仲間や友達がおかしくなっちゃったら、それは怖いよね。シロもいるとはいえ、知らない場所でがんばらなきゃいけないのは、不安になるよね。
しんみりしたわたしを見て、天真くんが笑う。
「でも彩衣が手伝ってくれたから。帰ろうとは思わなかった。心強かった。だからありがとな」
「そ、そんな。わたしは別に……」
「好きなことに資格なんていらないし。彩衣に妖怪が見えるのは、写真を撮ってたからかもしれなくて、それは彩衣を困らせていたかもしれないけど……」
一度言葉を切った天真くんが、わたしの顔をのぞき込む。
「オレは、彩衣が写真を好きで、妖怪のことを見てくれて、嬉しかったよ」
それは、真っ直ぐな言葉で。
天真くんの目も、真っ直ぐにわたしを見ていて。
……その強い目と言葉に、何でかな。
わたしは写真を撮りたいって……写真に残したいなんて、場違いなことを考えたんだ。
「彩衣ー!」
「天真くんもー!」
階段の下から壱也くんときららちゃんの呼び声が聞こえた。
いきなりだったから、わたしと天真くんは同時に肩をビクッとさせちゃった。
「はあ……良かった、合流できて……」
「わ……二人とも息切れてるけど、大丈夫?」
「ああ。さっき星宮とも話していて、気になることがいろいろ出てきたんだ。それで早く話しておきたくて」
汗をぬぐった壱也くんは、難しい顔。
隣のきららちゃんの顔も心なし緊張してる。
何だろう。
そんなに急いで話したいことって、一体……。
「実は祭りに来る前、クリボにも手伝ってもらって、アプリの解析をしてたんだ」
「アプリって、妖怪カメラ?」
「そうだ。アプリの利用実績とか仕組みとか……そうしたらおかしなことが見えてきた」
「おかしなこと?」
「そのアプリを利用した場所で妖怪がおかしくなっている可能性がある。厳密には場所というか……撮られた妖怪が、というか……。それにこのアプリ、撮った写真がとあるサーバーに自動で送られるようになってるんだ。図鑑との照合のためかとも思ったが……」
壱也くんは、そこで一旦言葉を止めて。
カチャリとズレたメガネを戻した。
じっ……とわたしと天真くんを見てくる。
「これは仮説の域を出ないが。妖怪カメラはケガレを吸い取ることができるが……逆説的に、ケガレを送り込むこともできるんじゃないか? まるでウイルスみたいに」
「ケガレを……送り込む……!?」
キョーガクで、言葉が上手く出てこない。
最近、妖怪にケガレが多い理由が妖怪カメラのせいだったっていうの?
だって、わたしたちは妖怪を助けるためにこのアプリを使っていたのに……。実際、ちゃんとケガレを吸い取れてるのに。
天真くんもビックリして目を丸くしている。
「天真。このアプリを作ったのは誰なんだ?」
「し、知らない。オレも山のみんなから教えてもらっただけだし。でもみんなも街の妖怪から聞いたって言ってたし……そんなの知らないと思う」
「そうか……。もしかしたらアプリを作った奴が何か企んでいるのかもしれないと思ったんだが……」
「これ、使わない方がいいの?」
「ん、いや。ひとまず通常通りの使い方をすれば問題ないはずだ」
そう答えたけど、いろいろと気になるのか、考え込んでしまった壱也くん。
次にズイッと前に出てきたのはきららちゃんだ。
「あのね。こっちもヘンなものを見つけちゃったの」
きららちゃんはスマホを取り出した。
SNSを開いて、一つの書き込みを見せてくる。
【開催決定! 第一二四三回百鬼夜行】
何十年と中止が続いた百鬼夜行ですが、明日、七月十日十八時から開催します。
全国各地から集結する妖怪たちの底力、見せちゃいましょう。
日時:七月十日 十八時~
場所:たそがれ小学校
#百鬼夜行 #たそがれ小学校 #妖怪 #妖怪好き #あやかし #もののけ #かつての妖怪好きな人と繋がりたい
わたしと天真くんは顔を見合わせた。
何、これ……!?
百鬼夜行って、たしか、たくさんの妖怪が集まるやつ……だよね?
でも、それが明日あるなんて!
しかも、わたしたちの学校で!
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