第18話「そもそも妖怪は基本的にカメラには写らな……」

 火消婆の背後から歩いてきたのは、たしかに晃太郎おじさんだった。

 何で。どうして。晃太郎おじさんがここに?

 どうして、優しい晃太郎おじさんと、悪い妖怪の火消婆がいっしょにいるの?

 わたし、大混乱。

 晃太郎おじさんを尊敬している壱也くんもギョッとしてる。


「嬢ちゃん。こいつは誰だ?」

「晃太郎おじさんだよ。わたしのお父さんの弟でね、昔はわたしと同じように妖怪が見えて、相談に乗ってくれてて……。わたしにカメラを教えてくれたり、壱也くんにプログラムを教えてくれたのもおじさんで……」


 シロに答えながら、イヤな予感がした。

 そうだ。おじさんもプログラムができるんだ。

 それって。それって、まさか……。


「……彩衣の家の周りでずっと変な妖気があったのは、あなただね」


 天真くんが警戒するようにわたしたちの前に出た。

 おじさんは穏やかに笑う。


「おじさんには妖気ってのがわからないから答えてあげられないけどね。妖怪カメラを使っていたし、それで君たちが何かを感じていたならそうかもしれない」

「おじさんが、妖怪カメラを……?」

「ああ。そもそもあれを作ったのはおじさんだからね」


 そんな……。

 まさか、って気持ちと。

 やっぱり、って気持ちが入り混じって、ぐちゃぐちゃだ。


「まあ、妖怪カメラはまだ試作なんだけどね。あれはケガレを吸い取るものだけど、本当にやろうとしていることはむしろ逆だ。ケガレを増幅させ、妖怪の理性を溶かすんだ。そうすると妖怪は本能のままに動くようになる」

「何で、そんなこと……!」


 おじさんを問い詰めようとしたら――急に学校の中や外が騒がしくなった。

 窓の外に目を向けたら、スタッフや子供たちが悲鳴を上げて逃げ回ってる。


「な、何あれ……」


 みんなを追いかけているのは、たくさんの妖怪たち!

 これが百鬼夜行!?

 止めないと。でも、どうやって?

 晃太郎おじさんの言うとおり、妖怪カメラがないと、わたしたちには何もできないよ。

 歯噛みした天真くんが翼を広げる。


「シロ! オレたちでどうにかみんなを止めてこよう!」

「無茶言うなよ、天真! 数が多すぎる! いくらオレ様たちでも、正気じゃない妖怪を相手にするなんて限度があるぜ!」

「それでも、やるしかないだろ!」


 天真くんがさけぶと同時に、廊下の向こうからも妖怪たちが押し寄せてきた……!


「ヒッ……!」


 妖怪たちが正気じゃないって、すぐにわかった。

 どの妖怪たちも、目がランラン、ギラギラで。

 黒いもやもやを身体にまとって。

 中には口から吸って、吐いて、どんどん黒くなっていくやつもいる。


「これからもっと妖怪が集まってくる。彩衣たちもあきらめて避難した方がいいんじゃないかな」

「そんなこと言われて、はいそうですかって引き下がれるもんか!」

「そ、そうよ!」


 晃太郎おじさんの言葉に、壱也くんときららちゃんが反論した。

 わたしだって同じ気持ちだ。

 怖くて、足はガクガク震えそうだけど……それでも、このままじゃ良くないって、思うから……!


「くそ。妖怪カメラのかわりになる何かがあればいいんだが……」

「かわりにって、シロ。そんなもんあるわけ……」

「そうだよ。そもそも妖怪は基本的にカメラには写らな……」


 言いかけて、ふと、引っかかる。

 考えて。よく考えて、わたし。

 そもそもあのアプリの仕組みは何だった?

 天真くんはたしか……。


『写真って、まことを写すワケだろ。あと写真を撮られると魂が抜かれるっていうだろ?』

『その応用みたいなもんらしいよ。このアプリを使って妖怪を撮ると、ケガレを吸い込んで元に戻してくれるんだ。妖怪の真の状態を写して撮る、ってのがポイントとか何とか』


 ……そう。

 だからやっぱり、妖怪を……それも真の状態を撮る必要があるわけで……でもそれがフツウのカメラじゃムリなわけで……。

 ……あ!


「天真くん! 壱也くん! そういう妖怪、いなかった!?」

「え?」

「化け物の真の姿を映す、って……!」

「あ!」


 わたしたちは顔を見合わせて。

 声をそろえた。


「「「雲外鏡!」」」


 きららちゃんだけがキョトンとしている。それはそうだ。わたしもさっきまで名前が出なかった。でも、壱也くんが天真くんの本当の姿を知った雲外鏡。

あれならもしかしたら……!

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