第22話「……なんか、ちょっと。さびしい、な」

『七月十日、十八時半ごろ、局地的に停電が起こりました。停電はすぐに回復しましたが、原因がわからず調査を進めています。

 また、同日同時刻にスマートフォンが繋がらなくなる事例が多発しました。

 電波障害の疑いがありますが、通話やネットが繋がらないだけではなく電源がつかないという通報も多く、調査は難航しています』



 ネットではそんな風に早々にニュースになっていたみたい。

 でも、妖怪とかケガレとか、そんな話はさすがに載ってない。

 いろいろとウワサは飛び交っていたみたいだけど……妖怪カメラじゃないと写真にも動画にも残らないし、決定的な証拠がないもんね。


「おじさんはこの後どうするの?」

「騒ぎになってしまったけど、警察に行くのは難しいだろうね。おじさんにすら証明も説明もできないからな……。そうだな、罪滅ぼしの旅に出ようかな」

「旅?」

「妖怪カメラは使い方次第で、まだできることもあるだろうから。今度はいろんな妖怪や人を助けてこようと思うよ」


 そう言って笑う晃太郎おじさんは、いつもの、わたしの大好きな晃太郎おじさんだ。きっとおじさんなら、妖怪カメラ以上にすごい物を作って助けてあげられるんだろうなって思う。

 でも、遠くに旅に行っちゃうのは、やっぱりさびしい……。


「……帰ってきてくれる?」

「もちろん。また何かあったら電話してくれ。……まあ、おじさんはもうお役御免かもしれないけどね」

「そ、そんなことない!」


 相談できる友達は、たしかに増えたけど。でも、晃太郎おじさんは、やっぱりわたしの大好きな晃太郎おじさんなんだ。お役御免とか、もう嫌いになったとか、そんなことはない。

 だから強く否定したら、おじさんはうれしそうに「そうか」と笑った。

 そうして頭を撫でてくれたから……わたしも精一杯笑ってみせた。





 それから、一週間。

 その間も学校はいつも通りで、グループ学習の発表も無事に終わった。

 環境問題がテーマだったけど、実はクリボにもたくさん手伝ってもらっちゃったんだよね。おかげで、「よく調べたなー」って先生にも褒められちゃった!

 そのときの壱也くんといったら!

 澄ました顔をしてるけど、どう見ても嬉しそうだったんだから。


「ねえ、彩衣。夏休みの予定ってもう決まってる?」

「きららちゃん。ううん、まだ何も……」

「じゃあ、いっしょに遊ぼ! 彩衣が写真で撮りたそうな場所見つけたんだ!」


 発表も終わってすっきりしたきららちゃんが、笑顔で誘ってくれる。

 こんな風に人と遊ぶ約束をするなんて今までなかったから、わたし、ドキドキ。

 前までは、きららちゃんや壱也くんといっしょにいるのは、グループ学習が終わるまでの辛抱だなんて思ってたのに。

 今ではグループ学習が終わったのがさびしいくらい。

 でも、こうしてまた遊ぶ約束ができてうれしいな。


「ね、壱也くんも行くでしょう?」

「別に……どっちでも」

「じゃあ決定! ふふ、楽しみだね。彩衣の写真、早く見たいなあ」

「うん」


 ニコニコ、無邪気に笑いかけてくれるきららちゃんはやっぱりかわいい。

 壱也くんはどこか素直じゃない言い方だったけど、多分照れてるだけなんだろうなぁ……って最近は少しわかってきた。


「あとはー……天真くんかな。彩衣から誘ってくれる?」

「……」

「彩衣?」


 きららちゃんの質問に、わたしは思わず黙り込んだ。


 実はね。天真くんは、晃太郎おじさんといっしょにいなくなっちゃったみたいなんだ……。

 晃太郎おじさんと話した翌日、天真くんがどこにもいないなと思ったら……わたしのスマホに「スマホなおった! ありがとうな!」というメッセージが届いてた。

 たった、それだけ。

 「もう来ないの? どこにいるの?」って返信してみたけど、反応はない。

 それから天真くんも、シロも見ていない。

 ぜんぜん、別れのあいさつもできなかった。


 ――そんな事情を話したら、きららちゃんはフンガイしたみたいだった。


「何それっ。天真くん、せめて直接言えばいいのに!」


 元々、わたしが天真くんのスマホを壊しちゃって、それを修理している間だけ……っていう話だったんだ。

 だから、天真くんは悪くない。間違ってもいない。

 ただ。

 ただ……。


「……なんか、ちょっと。さびしい、な。……ちょっとだけだけど」

「……うん」


 壱也くんがポツリとこぼしたつぶやきは、わたしと同じ気持ちで。

 そう。

 仕方ないってわかってるはずなのに……やっぱりなぜか、さびしいんだ。

 天真くんもシロも、今ごろ、何してるんだろう……。

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