第21話「やっぱり彩衣、写真を撮ってるときキラキラしてる」
スッ……とわたしの後ろから現れたのは、鏡を抱えた、白い髪の女の人。
一瞬おばあちゃんかなと思ったけど、白い髪以外は若々しい。それに、すっごくキレイな顔。
もしかして。
「雲外鏡さん!?」
「ええ。いかにも。はじめまして、お嬢ちゃん」
「は、はじめまして」
笑いかけてくる表情が大人っぽくて、ドキドキした。
でも、そんな場合じゃない。あわてて首を振って気持ちを切り替える。
「あの、雲外鏡さんにお願いが!」
「けっこう。全てを話す必要はなくってよ。アタシはすべてを暴きすべてを見通す鏡、なのだから」
ふんわり目を細めた雲外鏡さんは、わたしの顔をのぞき込む。
雲外鏡さんの目に映るわたしは、必死な顔だ。
「妖怪を暴き遠ざけるのでなく、むしろ近づかんとするために真の姿を映すというのは……長年生きてきたけどなかなか興味深いじゃないのさ。良いわ。協力してあげようじゃないか」
「! あ、ありがとうございます!」
わたしが頭を下げると、雲外鏡さんはニコリと笑って――姿を消した。
同時に、ポゥ……とわたしのカメラが光る。
そう。
わたしのお願いっていうのは、雲外鏡さんに、わたしのカメラに憑いてもらうことだったんだ。
このカメラの中にもね、鏡が使われているんだよ。
――妖怪カメラを使うのもイヤだったわたしが、大事なカメラに憑いてと妖怪に頼むようになるなんて。少し前まで、考えられなかった。
さあ……!
わたしはカメラを構えて、ファインダーをのぞき込む。
一か八かだけど、お願い……!
祈るようにのぞくと……
ファインダー越しに、火消婆の姿が――ちゃんと見える!
今まではカメラをのぞき込んでも妖怪はぜんぜん見えなかったのに、今は雲外鏡さんのおかげで、しっかり見えるよ!
「小娘……!」
火消婆が異変に気づいて、手を伸ばしてくる!
だけどそれより早く、わたしはシャッターを切った。
カシャ――!
シャッターの音が部屋に響く。
とたんに黒いモヤモヤが火消婆の身体から散らばった。
それは霧のように消えていく。
こっちに手を伸ばしていた火消婆は、パチクリとまたたいた後、……ゆっくりと手を下ろした。
とたんに周りが明るくなる。電気がついたんだ。
ま、まぶしい!
思わず目をつぶったわたしたちの耳に、火消婆の声が聞こえてくる。
「……ふぅむ。これは、
その声は、さっきまでの不気味さから一転、おっとりと穏やかで。
ゆっくりと目を開けると、火消婆が顎を撫でながら笑っていた。
「火消婆、戻ったんだな……!?」
「ヒヒ。まあの。世話になったのぅ」
「本当だよ……!」
天真くんが安心したように座り込んだ。
わたしも、はぁぁ……と大きく息を吐く。
良かった……どうにかなったんだ……。
「あ、スマホも使える!」
「よし。行こう! 彩衣!」
「うんっ」
スマホが使えるようになったら、あとはやることは決まってる。
きららちゃんに連絡して、みんなで協力してケガレを吸い取るんだ。
目はまだ少しシパシパするけど、急がなきゃ!
「彩衣」
出ていこうとするわたしを呼び止めたのは晃太郎おじさんだった。
おじさんは、笑う。
眉を下げて、少しだけ泣きそうに顔を歪めて。
「……あんなに、妖怪が嫌いだと泣いていたのに」
そう言って、わたしの頭に手を伸ばした。ポン、と触れてくる手は、いつもの大きくて温かい手。わたしが大好きな、優しいおじさんの手。
「……頼もしくなっちゃって。大きくなったなぁ」
「……うん」
「おじさんとちがって、彩衣は変われたんだなぁ……」
「うん……。みんなのおかげだよ」
「そうか。……そうか」
しみじみとつぶやいたおじさんは、わたしから手を離した。それから深く頭を下げる。
「彩衣、悪かった。おじさんが言えるセリフじゃないんだが……お願いだ。妖怪や人たちを助けてくれ」
「うんっ。みんなとなら、大丈夫だよ!」
ニコ、っと心からの笑顔を返して。
わたしは今度こそつなぐ屋を飛び出した。
わたしと天真くんは空から百鬼夜行を撮りに行った。
きららちゃんは自分でも撮ってくれているし……なんと、SNSでも妖怪カメラを紹介したんだって!
きららちゃんのSNSはたくさんの人が見てるから、どんどん拡散もされていく。
多分よくわかっていない人が多いんだろうけど、それを見て、今の状態に気づいた妖怪たちもいるみたい。
妖怪たち同士でケガレを吸い取り合い始めたんだ。
おかげで、どんどん黒いモヤが減っていく……!
ちなみにわたしが今構えているのはスマホ……じゃなくて、雲外鏡さんの憑いた一眼レフだ。
一眼レフは、カメラの一種。でもね、レンズを変えることができるんだよ。
その中でも広角レンズは焦点距離が長くて……つまりたくさん広い範囲を撮れるんだ。
それで撮って、撮って、撮りまくる!
うぅん、夜景と妖怪の妖しさが合わさって、すごい写真が何枚も撮れてる気がする……!
思わずため息が漏れたら、わたしを抱えてくれていた天真くんが笑った。
「やっぱり彩衣、写真を撮ってるときキラキラしてる」
「……だって楽しいんだもん」
「うん。いいと思う」
――その笑顔もまた、写真に撮りたいなんて……そんなこと、思ってる場合じゃないんだけどね!
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