第23話「あれはちょっとしたハプ……プリン? そう、ハプリンってやつだったんだよ」

 あの後、きららちゃんはわたしたちを元気づけるように「さびしくないように、いっぱい遊ぼう! 海にも山にも行こう! ショッピングもしよう!」っていろいろと夏休みの計画を練ってくれた。

 壱也くんも真面目に「宿題をやる時間も考えるんだぞ?」なんて計画を練るのに参加したりして。

 今から夏休みが楽しみだ。





 学校の帰り道。

 何となく立ち止まって、わたしはスマホを取り出した。

 妖怪カメラを起動。

 カメラモードのまま、キレイな夕焼け空を画面に映す。

 天真くんもいないんだから……本当は、もう、アプリごと消してもいいのかもしれない。

 そう思うのに、今でも何となく消せないままなんだ。


 ……ちょっと前まで、あんなに妖怪カメラがイヤだったのになぁ……。

 苦笑していたら、ふと、気づく。


 画面越しに見える、温かなオレンジ色の夕焼け空。

 それといっしょに、見覚えのある大きな黒い翼……!

 目をこすっても全然消えない。

 それどころか、その翼はぐんぐんと近づいてくる。

 そして――。


「あ! 彩衣!」

「天真くん!?」


 わたしの目の前に、山伏姿の天真くんが舞い降りた。


「や。ちょっとぶり」

「え、あ、な、ど、どうして……!」

「おいおい、嬢ちゃん。日本語を話せ」

「シロも……!」


 天真くんの頭の上からひょいと顔を見せたのは、白い毛並みがツヤツヤとしたシロだ。シッポは相変わらずふさふさしている。わたしが呆気にとられて上手くしゃべれないでいると、天真くんは不思議そうに首をかしげた。


「どうしてって……何が?」

「何でここにいるの!?」

「ケガレ自体が消えたワケじゃないし、まだ困ってる妖怪がいるだろうから。まだここで修行中だよオレは」


 あっけらかんと答える天真くん。

 な、何それ!

 でも、だって、でも。


「だ、だって……急にメッセージだけ残していなくなるから……!」

「ああ。今回のケガレとか百鬼夜行のことについて、お山の神様に至急報告しろって呼び出されちゃって。めちゃくちゃ急いで戻らなきゃならなかったんだ」

「返事がなかったのは!?」


 それならそうだって、説明してくれれば良かったのに。

 そう思ってさらに聞いたら、天真くんはあからさまに目をそらした。

 すごーく、気まずそうな顔。

 ボソボソ……と聞き取りづらい声で話してくる。


「それが、実は……スマホをまた壊しちゃいまして……」

「え!?」

「天真のやつ、川に落としやがってよ」

「あれはちょっとしたハプ……プリン? そう、ハプリンってやつだったんだよ」

「ハプニングだろ」

「うっ」


 シロの冷静なツッコミに、天真くんがうなだれる。

 ……なんだかその様子を見ていたら、気が抜けてきた。

 もう。何それ。

 でも天真くんの謎のカタカナ間違いも、なんだか懐かしい気がしてきちゃったな……。

 気を取り直した天真くんが顔を上げる。


「あのさ、彩衣」

「?」

「またスマホが壊れてるけど……その間だけじゃなくて。直ってからも。彩衣が良かったらなんだけど……」


 天真くんが、手を差し伸べてきた。

 笑う。


「妖怪助けを手伝ってもらえないか?」


 まるで出会ったときのセリフだ。

 あのとき、わたしは「困る!」なんてさけんじゃったわけだけど……。

 今度は笑って、その手をつかんだ。


「いいよ。よろしくね、天真くん、シロ」

「こっちこそ。ありがとう、彩衣」

「よろしくだぜ」


「――そうだ」


 ふと、わたしは思いついた。

 天真くんの手をつかんだまま、くるりと身をひるがえして、スマホのレンズを向ける。

 自撮りってやつだ。


 ……今度はちゃんと、自分から助けるって……小さくても一歩、前に踏み出した証明に。その記念に。

 今のこの瞬間を、写真に残しておこう。


 ――リィン……


 シャッターボタンを押せば、鈴の音と共に写真が撮れる。

 わたしと、天真くんと、シロが写った写真。

 人間と妖怪の、きっとデコボコで、ちぐはぐなわたしたちの、フツウじゃない写真。

 とっさに撮ったにしてはいい出来で、わたしたちは思わず笑い合った。



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妖怪カメラ~妖怪助けはスマホのアプリで!?~ 弓葉あずさ @azusa522

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