第3話 早く、カメラの世界に逃げるんだ!

 グループ学習で話していた通りに、放課後、わたしときららちゃんは壱也くんの家にやって来た。


「入っていいぞ」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します……」


 壱也くんの家はいつもキレイに片付いてる。

 でもプログラミングが好きだから、大きなパソコンとかよくわからないコードがいっぱいあったりもするんだよね。

 ちなみにプログラミングっていうのは、コンピューターに命令して色んなことをしてもらうことらしいんだけど……わたしには難しくてよくわからない。

 壱也くんってやっぱり頭がいいんだよね……。


「これがぼくの作った掃除ロボット、クリボだ」


 壱也くんが持ってきたのは、茶色くて四角い箱型の機械だった。

 高さはわたしの膝より少し低いくらい。側面に栗のシールが貼ってる。

 あ、もしかして、「クリボ」だけに栗……ってこと?


「クリボ? なぁにそれ。名前?」

「……ああ」


 しまった、という顔をして壱也くんが目をそらす。


「そういえば壱也くん、昔から家電に名前つけてたもんね」

「い、いいだろ別に」

「ふふ、そうなんだ。ちょっと意外。壱也くんってばかわいい」


 クスクスと笑ったきららちゃんがスマホでクリボの写真を撮る。


「この写真、SNSに載せてもいい?」

「いいけど……星宮のインスタとかツイッターって、ペットの写真が多くなかったか? ぼくのロボットを載せても浮くんじゃないか?」

「いーの! 壱也くんのすごいロボット、みんなにも見せたいんだもん」


 にっこり笑ったきららちゃんが慣れた手つきでスマホをいじる。

 そのとききららちゃんの包帯がゆるんでるのが見えた。ほどけちゃいそう。


「あ、きららちゃん、包帯が……ヒッ!」


 言いかけたわたしは、思わず口を手のひらでおおった。

 そうしなきゃきっと絶叫してた。

 だって、きららちゃんの包帯に隠れてたのは――人の目玉、だったんだから!

 ギョロリとした目玉がきららちゃんの腕に埋まって、わたしを見ている……!


「彩衣?」

「彩衣ちゃん?」


 わたしの様子がおかしいことに気づいたのか、壱也くんときららちゃんが不思議そうにわたしを呼んだ。

 壱也くんの目と、きららちゃんの目と一緒に、腕に埋まった目がいっせいにわたしを見て……だめ、怖い!

 たまらず、わたしは壱也くんの家を飛び出した。

 壱也くんが「彩衣!」とさけんだけど、振り返ることなんてできなかった。

 夕焼けで辺りがオレンジ色になった道を必死に走る。走る。

 早く。早く家に帰るんだ。家に帰ってカメラをのぞこう。昨日は変なものが見えたけれど、きっと今日は大丈夫なはず。早く、カメラの世界に逃げるんだ!

 でも、その時だった。あの声が聞こえたのは。


「見つけた! 昨日の子!」

「え?」


 振り返ると、大きな黒い翼の男の子。

 そして、肩の上の狐……。


「妖怪!?」


 そう悲鳴を上げた瞬間、ふわりと体が浮く。その子が、わたしの体を抱いて、空高く飛んでいた。


「危ないから、しばらく動かないでくれ。今から、オレたちの家に連れていくから」


 わたしは悲鳴を上げている暇もなかった。

 妖怪に捕まっちゃった、もう、ダメだ! 死んじゃう!

 ……そう思って、気絶してしまったから。

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