第11話「水拭キノノチ除菌ヲ開始シマ…………む?」

 逃げ出したわたしたちを、クリボはすかさず追ってきた。

 わたしたちは、とにかく走る、走る!

 足を止めたら吸い込まれちゃう!


「くそ、どうにか警察に連絡して……!」

「だめだよ、壱也くん。警察は難しいと思う……!」

「何でだ? 通り魔だし、ぼくのクリボを盗んでるんだぞ!」

「あの子はつくも神なんだよ……!」

「……はあ?」

「壱也くんのクリボが妖怪になって暴走してるの!」

「お前はまた訳のわからない……」


 思いっきりしかめっ面をした壱也くんは、ぐっと言葉を飲み込んだみたいだった。

 ゆるゆると首を振る。

 それから、真面目な顔。


「仮にそうだとして。お前は、アレをどうにかする方法を知ってるのか?」

「うんっ……」


 息を切らしながら、わたしはうなずく。


「このアプリで、クリボを撮れば……!」


 わたしはさっとスマホをクリボに向けた。

 だけど――クリボの動きが、すばやくって!

 何度か試してるんだけど、もう、ブレブレ! 全然定まらない!

 これじゃ、ケガレを吸い取れない……!


「ゴミ……!」

「きゃあっ」


 避けたクリボが、反撃とばかりに掃除機を振り回す。


「まずい、このままじゃ商店街だ!」

「そんな! これ以上巻き込めないよ……!」

「わかってる! けどどこに逃げれば……!」

「ぼくのクリボは水洗い・水拭きもできるんだ。商店街が水浸しになったら――」


 そう言った瞬間、壱也くんの言葉を実行するかのように、クリボから大量の水が噴き出してきた!


「ぶっ」

「んぶぶっ」


 す、水圧がすごい!


「水拭キノノチ除菌ヲ開始シマ…………む?」


 大量の水のせいでクリボが一瞬わたしたちを見失う。

 その一瞬、誰かがわたしたちの手を引いた。


「こっちだ! 一緒に逃げるぞ!」


 ……天真くんだ!

 壱也くんもビックリしたみたいだけど、異常事態なことはわかってるんだと思う。

 何も言わないで一緒に走ってくれた。





 天真くんに連れてこられたのは古い建物だった。看板に「つなぐ屋」って書いてある。わたしが初めて天真くんに連れてこられた場所だ。


「ひ、ひどい目にあった……」


 何とか逃げ切ったわたしたちはぜぇぜぇと息を切らした。


「ここって……」

「オレが居候させてもらってる骨董屋さん。いやー、二人とも大変なことになってたな。様子見に来て良かったよ」

「うん……助けてくれてありがとう、天真くん」


 お礼を言われて笑った天真くんは、一見、翼もないし山伏姿でもない。涼しそうなパーカー姿だ。まるでフツウの男の子みたい。


「おい、彩衣。誰だこいつ」

「あ、天真くんは……」


 壱也くんに聞かれて、わたしは迷う。

 ……何て説明すればいいんだろ!?

 だけどわたしの迷いなんかお構いなしに、天真くんが自己紹介してくれる。


「オレ、天真。彩衣の友達! よろしくな」


 ま、まぶしい笑顔! しかも爽やか!

 ためらいもなくわたしと「友達」なんて言う天真くんに、わたしはなんだかドギマギしちゃった。

 こないだやっときららちゃんと友達になれたくらいだもん。

 友達経験値が低すぎるわたしには刺激が強いというか……。

 壱也くんは眉間みけんにすごいシワを寄せてる。

 こ、これは疑ってる顔だ……。


「……彩衣、こいつに騙されてないか?」

「そ、そんなことは……」

「だいたい……! な、何だよその羽!?」


 顔をしかめていた壱也くんが大きく後退あとじさる。

 え!? 壱也くんにも天真くんの翼が見えるの!?

 ビックリして壱也くんと天真くんを交互に見る。

 でもね、壱也くんが指差したのは、天真くん自身からちょっとだけズレてて。

 天真くんの少し斜め後ろの――鏡だった。

 その鏡には、たしかに天真くんの背中に大きな黒い翼が見える……!

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