第12話「機械は、また作ればいい」
「な、何だよ、その羽!?」
そう言って天真くんの背後の鏡を指差した壱也くん。
その鏡に映る、天真くんの黒くて大きな翼……。
振り返った天真くんは「あ、やべ」ってつぶやいた。
「あちゃー……これね、雲外鏡」
「うんがいきょう……あ!」
聞いたことがあると思ったら……そうだ、妖怪カメラの図鑑に載ってた!
【雲外鏡(うんがいきょう)
古い鏡の妖怪。つくも神。妖怪の正体を映し出す】
わたしが開いた図鑑を、壱也くんものぞき込む。
「これがその鏡だ……っていうのか? それで、この男の正体がデカいカラスだっていうのか?」
「デカいカラスじゃなくて、カラス天狗! それとこっちは白狐のシロ」
ひょいと天真くんが頭を下げると、服の中に隠れてたのか、もぞもぞとシロが這い出てきた。
「ったくよー、天真はツメが甘いぜ。せっかく人間のフリしてたってのに、バレるの早すぎだろうがよ」
「き、キツネが……しゃべった……!?」
いつもクールな壱也くんが、目をまん丸、口をパクパク。
こんな壱也くん、クラスの子たちはなかなか見れないだろうな……。
「今はオレ様たちのことより掃除機お化けの話だ。早くしないとここまで来るぞ」
シロに言われて、ピリリ、わたしたちにも緊張感が戻る。
「そ、そうだ。ぼくのクリボだ。彩衣はつくも神になってるって言ってたけど……どういうことだ?」
「……珍しいケースだとは思う。昔は掃除道具がつくも神化することはよくあったけど、本来は長い年月が必要だし……。あれ、作ったの、君?」
「あ、ああ」
「すごいたくさん実験や試行錯誤を重ねたんだろうね。フツーだったら百年かかるはずの進化を、数年で達成したんだ。それならまだ若い掃除道具がつくも神になってもおかしくない」
それでもやっぱり珍しいケースだけどな、とシロがぼやく。
……でも、そっか。わかる気がする。
フツウの人ならじっくり時間をかけなきゃできないことを、壱也くんの努力や才能が上回ったんだ。
やっぱり壱也くんはすごいや。
だけど壱也くんは、複雑そうな顔。
「……あれが本当につくも神になったクリボだとして。どうしたらいいんだ?」
「妖怪カメラでケガレを吸い取れればいいんだけど……」
天真くんがわたしを見る。
わたしはあわあわと首を振った。
「図鑑で見ることはできたんだけど……その後は速くて、どうしてもブレちゃって……。少しでも止まってくれればいいんだけど……」
「……そうか」
ふー……と壱也くんは深く息をついた。
「天真。この辺に池はあるか? できれば大きめの」
「裏の公園にならあったはずだけど。どうする気?」
「あいつを本体ごと池に沈めるんだ」
そう言った壱也くんの声は、真剣だった。
「あれがクリボなのは、わかった。……まだ信じがたい気持ちはあるけど、あんな機能を見せられたらな……。しかもお前らみたいな羽が生えたやつやしゃべるキツネまでいるんだし」
苦笑した壱也くんは、わたしたちをゆっくりと見回す。
「機械なんだ。――壊せば、止まるよな」
「そんな……!?」
「ある程度の耐水性はつけてたけど、さすがに沈めばひとたまりもないと思う」
壱也くんは、こぶしをぎゅっと握って。
「人の役に立てるように、キレイに掃除ができるようにって作ったクリボなんだ。人の迷惑になるようじゃいけない。そんなのぼくも、……本来ならクリボも望んでないはずだ」
――そう言って、握ったこぶしをゆっくりとといた。
「機械は、また作ればいい」
……それは、そうかもしれない。
壊しちゃえばきっともう動かないし、これ以上迷惑をかけることもない。
機械だから、きっと壱也くんならまた作れる。
でも。……でも。
つくも神化しちゃうほど、いっぱい考えて作った機械なんでしょう……?
名前をつけて、愛用していたものなんでしょう……?
それを壊すなんて、本当に平気なの……!
バァン! とすごい音がした。
玄関のドアが開かれたんだ。
クリボが入って来るのが見える……!
「可燃ゴミ……不燃ゴミ……除去……」
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