第9話「『それならいらないゴミだぁ!』って大きな掃除機に吸い込まれて異世界に送られちまうらしい」

「――っていうことがあってね。妖怪カメラっていうアプリで妖怪を撮ったんだ。百々目鬼っていう妖怪だったの」


 あの出来事の翌日。

 約束通り遊びに来てくれた晃太郎おじさんに一連の出来事を説明したところで、わたしはフゥと一息ついた。

 自分で話しておきながら、まだあんまり現実感がないや。

 晃太郎おじさんも目を丸くしてる。


「いやはや……すごいことになってるなぁ」

「信じられないかもしれないけど……」

「いや。驚きはあるけど、ウソだとは思わないよ。信じるさ」


 晃太郎おじさんがニカッと笑う。

 わたしはホッとした。

 晃太郎おじさんはこうやって昔からわたしの言うことも何でも信じてくれるんだ。


「それでね。きららちゃん、みんなに写真のことも説明してくれたみたいで。わたしへの誤解は解けたみたいなんだ」

「それは良かった。……でも、妖怪の方は大丈夫かい? 彩衣、ずっと妖怪のことも怖がってたろ?」

「それは……」


 ……たしかに。

 今でもよくわからないものは怖いと思うし、変なものが見えるせいで周りから浮いちゃうし。アプリのせいで写真に妖怪が写っちゃうのも落ち着かないし。

 でも……。


「天真くんやシロのことは……あんまり怖くない、かも。百々目鬼も最初は怖かったけど、ケガレを吸った後はそんなに怖くなかったかな……」


 それに、おかげできららちゃんとも友達になれた……って思っちゃうのは、さすがにノーテンキかな?


「……そうか」


 安心したように笑った晃太郎おじさんが、わたしの頭を優しくなでる。


「それなら良かった。でも無理するんじゃないぞ」

「うん。ありがとう、おじさん」




 おじさんが帰っていって、わたしはうんと伸びをした。

 話を聞いてもらったら、少し気が楽になったかも。

 ……でもやっぱり、できればあんな騒ぎはこれきりだといいなぁ。

 たまたま上手くいったけど、今度はどんな妖怪が出てくるかわからないし……妖怪カメラで撮った百々目鬼の写真は、目がたくさんで、やっぱりちょっと怖いし……。


 コンコン


 窓の方から音がした。同時に部屋の中が急に暗くなる。

 わたしは不思議に思って窓を見た。

 そうしたら、窓一面に広がる、黒くて大きな翼!


「わあ! て、天真くん!」


 天真くんの翼で太陽の光が遮られて、部屋が暗くなった気がしたんだ。

 ていうか、何で窓から来るの!


「もう! ビックリした! ちゃんと玄関から来てよ!」

「ごめんごめん。こっちの方が早いかと思って」


 わたしが開けた窓から、天真くんとシロが入ってくる。

 あはは、と笑う天真くんに悪びれた様子はない。


「急にどうしたの? あ、スマホの修理が終わったとか?」

「それはまだ」


 あっさり否定されて、わたし、がっくし。

 肩を落としたら、天真くんも「なんかごめんな」と苦笑した。


「この辺で不思議な気配がした気がして、気になって様子を見に来たんだよね」

「不思議な気配?」

「うん。今はしないけど……一応彩衣も気をつけてな」


 そういえばスマホを落としたときも、天真くんは不審な妖気っていうやつを感じてたんだっけ。

 それって、わたしの家の近くに怖い妖怪がいるってこと?

 そ、そんなのやだ!


「それからオレ様たち、変なウワサも聞いたんだぜ」

「変なウワサ……?」

「最近、嬢ちゃんの学校の近くで通り魔が出るっていうんだが……」

「え!」


 変なウワサっていうか、フツーに怖い話じゃん!

 妖怪ももちろん怖いけど、通り魔もすごく怖いよ!


「それが奇妙でな。誰もいない下校中、男が突然やって来て、『お前は燃えるゴミか、燃やせないゴミか』って聞いてくるんだと」

「……なにそれ?」

「燃えるゴミって答えると全身燃やされて、燃やせないゴミって答えると水に沈められるらしい」


 あれ、ちょっとだけ怪談っぽくなった……?

 でもなんか変な感じだ。


「燃えるゴミを燃やすのはわかるけど……燃やせないゴミって水に沈ませるものだっけ……? それにそんなこと聞かれたら、みんな『ゴミじゃない』って答えるよね」

「そう答えた子ももちろんいるんだけどな、そうしたら……」

「そうしたら……?」

「『それならいらないゴミだぁ!』って大きな掃除機に吸い込まれて異世界に送られちまうらしい」

「え……ええ――!?」


 そ、そんなのリフジンだ!

 あと「いらないゴミ」っていうのもちょっとよくわからないよね。そもそもいらないものをゴミって言うんだろうし。

 わたしがウンウンうなっていたら、天真くんたちにも考えてることがバレたらしい。

 天真くんは手をヒラヒラと振って小さく笑った。


「まあこの手の怪談にツッコミ所が多いのは昔からだけどさ。ケガレが増えて暴走している妖怪のせいかもしれないから……彩衣も何かわかったことがあったら教えて」

「う、うん。わかった」


 ピンポーン。

 わたしが神妙にうなずいたところで呼び鈴が鳴った。

 お母さんが玄関に出る音が聞こえて来る。

 それから少しして、お母さんが「彩衣ー」とわたしを呼んだ。


「壱也くんが来たわよー」

「……え?」


 壱也くんが? あの学校の人気者の科学者の壱也くんが、私に何の用だろう?

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