二章の八

「にゃー、わぎゃー!」

「ぬ、ぬわー!?」


 ……ねこさんとアコが二人でゲームをしているのを見守りながらあくびをする。

 ゲーム下手だな……。まぁあまり慣れていないのだろうけど。


 協力してゾンビを倒すゲームをしていた二人だが、呆気なくやられてしまっていた。


「ふ、ふふ、なかなかやるね。ゾンビも。しかし、それも、ゲームの中だからイキれるだけ。現実なら私のドラゴンパンチで一発だから」

「……何がなんだか分からずにびっくりしている間にやられました」

「お疲れ。アコはまだしも……ねこさんはあんなに自信満々だったのに下手だったな」

「は、初めてやるゲームだったので仕方ないです! そう言うなら白川さんもしますか?」

「いや、アコが怖いみたいだしもういいだろ。アコの小説の資料にしたいものはないのか?」


 アコに尋ねると、アコは少し考えてから頷く。


「……ライトノベル作品って、普通にデートするんでしょうか? 何か事件に巻き込まれる印象ありますけど」

「まぁ、普通のデートを普通にしましたってだけだと話にしにくそうだしな」


 アコの目は俺のことをじっと見ていて、それは俺に対する期待のように見えた。


「……やっぱり、ねこさんのお姉さんを探すか」

「ええー、土曜日に遊ばないなんて違法行為だよ。裁判官がやってきて「判決! 死刑!」って言ってくるよ」

「越権行為すぎる。というか、ねこさんの頼みを聞くのに本人が邪魔をするな」


 まったく、と思いながら腕を組む。


「とは言っても、あのゲームぐらいしか手がかりはないしさー。来そうなところで遊んでいるうちに見つかるぐらいが一番だよ」

「まぁ、それはそうなんだけどな」


 と、俺が言っているとアコが小さくぴょこんと手をあげる。


「どうかしたか?」

「お姉さんは、なんで自分で写真を撮っているんでしょうか? その、人がいない画像が欲しいというのは分かるんですけど……AIで写真から人を取り除くことって出来ると思うんです。特にアレだけのものを作れる人なら、尚更」

「……まぁ、それはそうかもな。二次元の写真から三次元のフィールドを作ってるってことは建物とかを風景としてではなくちゃんと認識して処理してるだろうし、人も同じような技術で出来そうに見える。…………単に、家にねこさんがいるからな可能性もあるな。連絡も無視されてるらしいし」

「な、仲良し美人姉妹だし! まぁ……親とは少し微妙な関係みたいだから、家出したいだけなのはあるかも」


 まぁその可能性もあるが……家出の言い訳としては無駄に手間がかかっていると思う。


「……現状、全然手がかりがないですね。……先輩は何か分かりましたか?」


 期待するような視線をアコから向けられるが、俺は名探偵ではないので何も分からずに首を横に振る。


「いかんせん手がかりがなぁ……。そもそも、AIで生成するのって大量のデータを使うものなのに、近場だけで済ませようとしているのだいぶ無理が……。近場だけで、か」

「近場がどうかしたの?」

「……あのゲームのフィールド、結構この街に似ていたと思ってな。システムとしては色んなフィールドを作れるのに不思議というか」


 架空の街を作るというよりも、この街のパチモノみたいなものが出来てしまっている気がする。


 加えて……また近場で写真を撮ってこの街の再現度をあげようとしているようにも見える動きだ。


「この街っぽいものを作っている……? とすると、なんのために? ……何か不自然だな」

「おっ、白川さんの推理フェイズ入りましたか?」

「謎の煽りやめろ。……けど、何か意図はありそうだな。当初思っていた「どんな地形でも簡単に生成出来る」というよりも「この街を再現する」という風に思える」


 謎と言えば、自分がプレイするわけでもないのに自宅のパソコンに定期的にデータを送っているのも謎だ。


「……あれ? そういや、あのゲーム動かすのってめちゃくちゃ処理能力がいるんだよな? ……それの開発、持ち運べるノートパソコンとかで出来るものなのか?」

「……あー、どうだろ? 結構性能いいの持ってるはずだけど……開発用となると厳しいような」

「ホテル暮らしじゃなくて、どこかの会社とかに泊まり込みで作ってるんじゃないか?」

「……いや、お姉ちゃん自由人だからどこかに所属するとは……それに、当然、私と同じ歳だよ?」

「じゃあ、近くに賃貸を借りてるとか。何にせよ、思ったよりかは腰を据えてそうだ」


 自由人とは言えども、何か目的があるなら部屋を借りるぐらいするだろう。


「……ふむう、だとしても、やっぱり手がかりはないね」

「まぁ、それはそう。……未成年が見つからないんだから、自分で出ていったのだとしても警察を頼っていい気もするが」

「……それをしたら、家から出にくくなるので。心配なだけで、自由にはやってほしいのです」

「難しいことを言うな……。何かしら発想を転換しないとどうにもならなさそうだな」


 俺がそう言うと、アコは「発想を転換……」と口にして、じっとねこさんの方を見る。


「……本当に、この山田さんは山田さんなのでしょうか?」

「いや、どう見てもねこさんだろ」

「一卵性の双子ならすでに入れ替わっている可能性があります」

「……言うほど入れ替わっている可能性あるか?」


 どう見てもねこさんだし、細かい会話も普通に通じている。呆れながらねこさんを見ると、慌てたように首を横に振る。


「わ、私は本物のねこさんだねこ」

「……急に怪しくなってきたな」


 いや、ねこさんだろうけど。流石に顔が一緒でも気づくだろうけど。


「私は本物のねこねこだねこ」

「アコが混乱するから」

「まぁ、私の自認はねこねこドラゴンだけど、お母さん雑談だから赤ちゃんの頃に入れ替わってる可能性とかはあるね。双子コーデとかさせてたみたいだから、目を離した隙に反対になってる可能性はあるねこ」

「流石にないだろ……。……発想の転換……探すのとは逆に、あちらから探してもらうのはどうだ?」


 俺がそう提案するとねこさんは不思議そうに首をこてんと傾げる。


「あー、仲はいいんだよな? 例えば、ねこさんが「彼氏が出来た」みたいな嘘を吐いたら、気になって様子を見にくるとかないか?」

「…………あ、それはアリかもです。お姉ちゃん、結構過保護なところあるから、ねこ」

「その語尾やめない? まぁ、そういうことならちょっと嘘ついてみてくれ」


 ねこさんは「んー」と考える仕草をしてからピンと指を立ててイタズラな笑みを浮かべる。


「せっかくなら、白川さんを彼氏役にして配信しましょう! お姉ちゃんも見てくれてるみたいなので」

「……それすごくヤダ、ねこ」

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