第21話 冒険者神隠し事件、解決しなさそうだ
学校で七義先生を見た。
少しだけ吹っ切れたような、清々しい見た目をしていた。
「先生、なにか、ありました?」
「ん? ああ。娘はまだ二人居るからね。頑張らないとって。まだ辛いけど、娘達の為に前に進む元気が出ただけだ」
七義先生の後ろで揺れ動く二人の女性の霊達。
多分だが、事故で死んだ奥さんと娘さんだろう。
死んで尚、優しく傍に居るところから、家族愛を感じる。
少しだけ、案内人の仕事を勝手にしようかな。
「⋯⋯ッ!」
先生が誰も居ない後ろを見た。
両者の霊に一言づつ述べれるだけの邪気を与えたのだ。
わたしには先生の辛さがわからないけど、きっと大丈夫だろう。
コメント欄で承認欲求を満たしていたら、とあるコメントが目に飛びついた。
「冒険者が神隠し?」
「お、なになに?」
『なんじゃ?』
アヤメさんが覗き込んで来る。
死神ちゃんはなぜかわたしの膝に座ってくる。
パソコンの画面が見えないけど、死神ちゃんが見えているなら、記憶としてわたしの方にも流れて来る。
問題ないけども、なぜ座る?
身長とか全く同じなんだぞ?
『対抗意識』
「は?」
死神ちゃん、今なんか感情の流れとかブロックしてるから、何考えてるか全くわからん。
ま、良いや。
さてさて、コメントの詳細でも確認しますか。
とあるダンジョンで冒険者が次々に行方不明となり、ニュースになっているから調査して欲しい⋯⋯ね。
不思議だな。
ダンジョンで冒険者が行方不明になるなんておかしな話じゃない。
ダンジョンの中でも災害と呼ばれる現象、あるいは魔物は出て来る。
「ニュースを調べてみるか」
装備品などが見つからず、数々の冒険者が行方不明⋯⋯その数23人。
既に上級冒険者の調査が入っているが、未だにイレギュラーの現象は発見できず。
さらには最初の上級冒険者は帰ってこない⋯⋯と。
「確かに、これは少し怪しいな」
それが一人二人ならともかく、ここまでの人数が出てるのは怪しい。
魔物なら、遠くから発見して知らせに帰ってくるだろうし。
しかも、上級冒険者が調べているのに何も出て来てないのが不自然だ。
「ダンジョンの謎を解明するのが死神探偵だ。行きますか」
「お、私も行くぞ」
『いらんのじゃ』
「ん〜助手告知とか色々としてないし、まだ準備やキャラ設定も終わってないので、まだアヤメさんの出番はないですね。死神ちゃんと行って来ます」
「むーせっかくの護衛的立ち位置が台無しな気がする」
「死神ちゃんくらいに強くないと、意味ないですよ」
「辛辣〜」
ニュースに流れていたダンジョンに到着した。
早速スマホを起動して撮影、適当な冒険者を探して尾行する事にした。
「ん? なにかに見られている気がする」
「誰も居ないぞ。気のせいだろ」
「ん〜でも視線が」
なかなかに感の良いアサシンが居るモノだ。
だけど、死人レベルに気配を消せるわたしを見つける事はできないな。
『気配を消す技術はお主の方が我よりも高いよの〜』
なんかバカにされた気がする。
スキル、ボッチ的気配遮断ってか?
やかましいわ。
尾行を続けて二時間ほどが経過したけど、それらしい事は一切起こっていない。
「バグの魔物でも出て来てくれたら、信憑性が増すのに⋯⋯何も無いな」
ただ冒険者のチームが魔物を発見しては連携して、倒しているだけの淡々としたモノだ。
面白みもない。
ここでピンチになり、颯爽と助ける死神探偵。
戦える探偵カッケーとなり、SNSで発信、死神探偵優しい〜のリプの嵐。
そんな妄想をする。
「妄想は乙女の特権だよね」
『厨二病の特権の間違いじゃろ。あとは現実逃避したい人間か』
一瞬で死神ちゃんと入れ替わり、わたしを目視でたまたま発見して寄って来た魔物を殴って飛ばして貰う。
ここのダンジョンの魔物は大して金にならないので、放置だ。
「ふぅ。結構良い成果だな」
「そうだね。レッドボアを六体も倒した」
「それに、途中転がってた死体から魔石も手に入る、ラッキーもありましたからね。普段よりも報酬は良さそうです」
バランスの良い四人チームが和気あいあいと会話をする。
神隠しとは一切関係なさそうだったので、そろそろ違う冒険者に変えるべきか。
「それにしても、殴りの一撃で倒す人が居るのかね?」
「もしかしたら戦闘狂の魔物かもしれませんね」
「死体放置は勿体ない。レッドボアは肉も高値で売れる」
「ほんとにな」
さて、次は北の方に行こうかな。
まずは冒険者を探して⋯⋯お、一応発見した。
あとは観察して、神隠しに関係ありそうなタイミングが来るのを祈ろうか。
「暇だな。そう言えば死神ちゃん」
『なんじゃ?』
「死神ちゃんの力を回復させる方法ってさ、魂の回収以外にないの?」
『ないの』
「ふーん」
魂を回収するって話なら、ひたすら魔物を倒せば良いかもしれない。
だけど、それだと本当に効率が悪い。
かと言って、強い魔物を倒しまくるのも数がそう居ないし、やりすぎると目立つのでやりにくい。
目立って不正登録がバレる危険性がある。
『まぁ、魂の質が良ければ回復は早まるの。関係が深かったり、強い者の魂だったり』
やっぱり、魔物を育てて倒し、魂を回収する方法が楽で良いのかもしれない。
わたしが否定したやり方だけどね。
『急にどうしたのじゃ?』
「純粋な興味と暇つぶし⋯⋯もしもさ、地黒さん以上の強敵が奴らに複数人居たら、わたしと死神ちゃんが勝てないからさ」
『⋯⋯否定はしない。あまり想像したくないがな。地黒じいさんを頼れば助けてはくれるだろうけど⋯⋯頼りたくないんだろ?』
うん。
散々お世話になってるから、奴らに関してはあまり手伝いをしてもらいたくは無い。
「ん? 急に動きが変わった?」
冒険者達を観察していたら、急に解体の手を止めて、同じ方向に歩き出した。
「⋯⋯ッ! 頭の中にノイズが」
『広範囲の無差別洗脳じゃな。レジストできるからしるとけど、流すか?』
お願い。
『来い。救済を与える』
その声と共に身体が勝手に動く感覚に襲われ始める。
「はは。これが神隠しの正体か。死神ちゃん、レジストお願い」
『はいよ』
頭の中に声は響かなくなり、身体の自由も取り戻せた。
先程強く感じた方向に進む事にした。
さっきのは呪いの類だった気がする。
性質的には、風音先生の呪いと同じだったような⋯⋯まさかっ!
「今回の事件って、死神教団の奴らが関係している?」
それだったら配信はできないな。
全力で叩きのめす必要があるから。
「転移ポータル⋯⋯認識阻害がある」
わたしには関係ない。
わたしの肉眼では確かに認識しにくいが、死神ちゃんはしっかりと認識できる。
だからわたしもわかる。
転移ポータルの魔法陣に乗ると、魔力が勝手に引っこ抜かれ、それによりポータルが起動した。
光に包まれ、消えた先は慣れた臭いが空間内に広がっていた。
血の臭いだ。
「あれ? 今回救いを求める人が来るの早いな。次が来る前に終わらせちゃうか」
「⋯⋯君は、誰?」
「あれ? すごく冷静だね? 不思議だ」
女の子かな? 男の子かな?
わかんない。
だけど、全く霊が取り憑いてないな。
「死神教団⋯⋯」
「ん? 僕は死神教、ヤマを進行する。枢機卿、如月だよ。あれ? もしかして信者?」
死神⋯⋯ヤマ?
山?
は?
何言ってるのこの子?
『頭がおかしいのじゃ』
「ん〜まぁ良いや。ポータルを通って来たなら、救いを求めてるんだよね? それじゃ、救済を始めるよ」
救済と言いながら、高速で首を刎ねて来たよこの人。
⋯⋯だけどまぁ、死神教団関係者で、しかもかなり上の立場だってのはわかった。
なら、やる事は捕縛だ。
全力でね。
「はい完了。君もこの世の苦しみから開放された」
「バカバカしいのじゃ。何が救いじゃ。単なる殺人じゃろ」
「何? なんで生きてるの?」
「我は死神ちゃん、我に死と言う概念は通じん」
頭をキャッチして、首にくっつければ再生する。
「転移後にダンジョンのポータルは破壊してある。誰も来ん。存分に戦うのじゃ。情報を吐き出せば、楽にしてやる」
「救いを拒む人は何人も居たよ。中にはAランク冒険者だっけ? そんな人も。でもさ、最終的に皆僕に救われてるんだ。だから君も、抵抗しなくて良いんだよ!」
如月が加速した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます