第25話 悪魔になっちゃった
「そうか、それがトリガーか」
まさかわたしと近いような理由が隠されているとは驚きだ。
色々と煽って喋らせた結果、相手が死を救いだと思い込んでいる理由が、自らが両親を手にかけた事がきっかけだった。
家族を自らの手で殺したのはわたしも同じである。
違いがあるとすれば、拾ってくれた人間の違いだろう。
わたしは地黒さんからありのままの現実を聞かされて、色んな人が励ましてくれた。
そのおかげで現実と向き合って、今を少しの幸せを噛み締めて生きている。
死を罪だと認めている。
対して如月はどうだろうか?
殺した経緯はまだわからないが、死神教団の誰かに拾われた。
そして殺しは救いだから、君は家族を救ったと教えこんだ。
小さい頃に受けた言葉は本当に心に残る。
バカだ、お前はできない、なんでできないの、などと言うマイナスの言葉を浴びせると、本当にその子はできなくなる。負は連鎖する。
その逆も然りだ。
それと同じように、いやそれ以上に疲弊した心に救いとなる甘い言葉をかけるだけで、子供はすんなりとそれに縋る。
縋るしかないのだ。
自分を肯定してくれる存在から離れたくないから。
「⋯⋯育った環境が違えば価値観も変わる、か」
わたしの言っている、死はただの終わり、この考えも結局わたし個人の意見にしかすぎない。
それを強制するのも押し付けに当たるだろう。
「でも、死が救済ってのはやっぱり、自己中を通していると、間違っていると言いたい」
死と言う概念を司る力を持った今だからこそ、言える言葉だってある。
死があるから幸せを感じるんだ。
死ぬから幸せを感じるんじゃない。
似ているようで違う。
「僕のやっている事は正しい事なんだ。間違っているのはお前だ。勘違いするな!」
未だに攻防は続く。
既に空間も破壊されており、来ていたダンジョンに出ていた。
転移ポータルは人工的にダンジョンの地下に用意した空間に繋げるためのモノらしい。
ゆえに今、ダンジョンの外で戦っている。
二人の戦いは一般の冒険者では手出しできない程の規模になっている。
炎を出せば大地を焼き付くし、氷を出せば氷の城が完成する。
そんな規模の魔法での撃ち合いである。
しかも、その間には大鎌での連撃も含まれている。
轟音と火花は今までに見た事ないレベルに大きくなっている。
この戦いこそが災害と思えてしまう程には、凄まじい何かがある。
「お主は家族を殺した事を後悔しているのじゃ! その後悔と向き合う事こそが、成長に繋がるのじゃ!」
「うるさいうるさい! お前に何が分かる! 何を知っている! 僕の事をお前が分かる訳ないだろ!」
強い一撃が入るが、既に死神ちゃんには意味をなさない。
相手に合わせて身体強化する魔力の量を増やしているからだ。
「確かに、我にはお主の気持ちなど到底理解できない。じゃが、身内を殺し、後悔して苦しむ気持ちは理解できる」
わたしの事を言っているのだろう。
両親を殺した後にわたしに宿った死神ちゃんだが、気持ちなどを共有しているので当然、理解できているだろう。
「気休めにしかならんかもしれん。間違っているしもしれん。じゃが言う。お主は本当に家族を殺したのか?」
は?
「は?」
わたしと如月の意見が一致した。
何言っているの死神ちゃん?
如月は自分の手で家族を殺して、この苦しみから解放されるような都合の良い言葉を死神教団の誰かが言って、従っているんだよね?
だから、死は救いじゃなく、今はやっている事は間違っていると伝える必要がある。
なのに、本当に殺したとかそんな疑問を言う?
どうしたのさ死神ちゃん。
「死神教団って奴らは魂に直結する記憶を呪いで妨害している。教団に関する記憶や知識などはその呪いに行くようになっている⋯⋯もう一つの人格と言っても間違いでは無い」
確かに⋯⋯そうだね。
風音先生も、昔と今では少しだけ雰囲気ってのが違う気がする。
それはわたしの気のせいかもしれない。
でも、そこまでの事ができるなら、記憶の改ざんだって案外余裕なのかもしれない。
呪いで魂の記憶に結界を張り、元ある記憶をシャットダウンして、植え付けた記憶を本人の記憶だと思ってしまう。
言語化が難しいが、ざっくり言えば記憶の改ざん。
あいつらなら問題なくできるだろう。
「だからその時の光景をこと細かく思い出すのじゃ。本当に、間違いなく、自分の意志で殺してしまったのか?」
わたしは自分の意思ではないと信じたい。
混乱してしまい、やってしまったと思いたい。
⋯⋯もしかしたら混乱じゃなくて、そのような刷り込み的な洗脳が施されていた可能性もあるけどさ。
「あぁ? いきなり、何を言って」
「お前を拾って、殺しは救いだとお前の望む言葉をかけてやった。⋯⋯そんな人間がどこに居た! 違う、どこから来た! 時系列はしっかりと把握しているのか!」
「そんなの当たり前だろ! 殺したすぐに決まってる!」
⋯⋯ッ!
そうか。わかった。
殺した瞬間にその死神教団の奴が居るのはおかしいんだ。
そんなの、そいつらが仕組んでないとできるはずがない。
都合の良い⋯⋯都合が良すぎるからの疑問点。
如月はいつ家族を殺して、いつ死神教団に誘われ、死が救いだと思い込まされた?
「お前はどのようにして家族を殺した。どうして家族を殺した。覚えてるのか? その細かいところを?」
「あ、当たり前だろ。えっと、確か⋯⋯えっとえっと」
すぐに出てこないなら、死神ちゃんが言った内容が正しいのかもしれない。
ただ忘れたい出来事だから覚えてない、それだったらもっと忘れているはずだ。
色々と覚えているのに、そこだけ覚えてないはさすがにない。
殺した事実を知ってるなら、どのように殺したかも記憶される。
「⋯⋯なんで」
「思い出せないのじゃろ。お主は本当に家族を殺したのか、本当に死を救いだと思っているのか!」
「そうだよ、そのはずだ。だって、だって⋯⋯」
「お主はどうなんじゃ。人から聞いたから、そんな意見は聞いておらんぞ。お主自身がどう思っているのか、その本音を聞きたい」
「僕は⋯⋯」
攻撃もしないで頭を抑えるだけ⋯⋯本当に混乱しているようだ。
攻撃意思がないなら、死神ちゃんも無理して攻撃する事は無い。
このまま矛を収めて貰い、本陣について少しでも情報を聞きたい。
「確か、あの日は⋯⋯家族で遊園地に行って、帰ってきたら⋯⋯そして、あぁそうだ」
何かを思い出したようだ。
ん?
なんだろう。あの、如月から出ている黒いような紫のような、モヤは。
呪力?
まさかっ! 死神ちゃん!
「わかってる!」
あれは死神教団が如月に与えている呪いだ。
発動されたら自害されるし、あの中に記憶が埋まっているはずだ。
発動させずに、分離させて、記憶の部分だけ如月に戻す。
「なかなかに高度じゃが、問題ない!」
死神ちゃんが手を伸ばすと、出ていた呪いのモヤは引っ込んだ。
あ、やばいわこれ。
罠ですね、はい。
「あ、あああああああああああああ!」
「う、なんじゃこの魔力は!」
死神ちゃんが後ろに大きく跳んで下がる。
溢れ出る、背筋を凍らすような魔力と殺気。
「まるで⋯⋯悪魔じゃ」
肌は黒く変色し、角が額から立派に伸びて、右目が何かしらの模様に包まれる。
「そこそこ上の立場そうだったのに⋯⋯結局奴らにとっては道具か。反吐が出る」
死神ちゃん、余裕ぶってはいられないかもしれないよ。
かなりの邪気を感じる。
魔力もだ。
死神とはまた違う、本当に悪魔のような存在かもしれない。
「人間が悪魔に⋯⋯ありえない話では無いが、それには死と言うプロセスがいる。生きている人間がいきなり悪魔になる事は無いはずじゃが⋯⋯」
普通じゃないんだろうね。
⋯⋯来るよ。
「速い!」
「あああああああ!」
ただのパンチが、地形を破壊する。
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