第26話 死神ちゃんの意志
「死ね死ね!」
如月が悪魔化して、シンプルに身体能力が向上した。
「豪炎!」
激しい炎の魔法が周囲を覆い隠す。
「服が燃えそうじゃ」
死神ちゃんが余裕と言わんばかりの表情と共に呟き、相手の攻撃を鎌で防ぐ。
邪気を拳に纏わせて、火力を向上させる。
如月がいきなり豹変したのは、あの呪いが原因だろう。
どっかで見ている気配はしないけど⋯⋯まさか呪いそのものに自我があるのか?
そうじゃないと説明がつかない程に、完璧に騙された。
呪いのオーラを出してわたし達を焦らせた。
「黒旋風!」
黒い竜巻が死神ちゃんを覆う。
その風は肉を切り裂く程に速い。
防御に徹している死神ちゃんの肉が少しだけ削られる程には威力がある。
まぁ、その体はわたしなので、わたしの体が傷ついているのだけど。
「はっ!」
邪気を周囲に解放する事により、竜巻を破壊する。
鎌を構え直して、再び如月に肉薄する。
「遅い」
如月は薄ら笑いを貼り付けながら、高速で移動して死神ちゃんの背後を奪った。
振り下ろす、大地を切り裂く破壊力を秘める鎌。
ノールックで合わせて、鎌で死神ちゃんは塞ぐ。
月にあるクレーターのように地面がえぐれる。
「この重さ、なら、まだ、耐えられる」
「なら、これはどう? 重力増強!」
「くっ」
重さが上昇して、死神ちゃんがさらに埋まっていく。
抜け出そうとしても、上手く体が動かせないでいるようだ。
や、やめてよ死神ちゃん。負けるなんてさ。
「我が負ける⋯⋯はず無かろう!」
さらに魔力を体内に巡らせて、無理くり重い重力の中から脱出する。
「容赦なき死神ちゃんキック!」
体勢を正すよりも速く動き、神速のようなスピードで蹴りを放つ。
「遅いって!」
それを右手の甲で防いだ。
だけど、完全に防げている訳では無いので、手の甲にはしっかりと蹴られた痕が残っている。
如月の片目が充血を始める。
「長い状態その悪魔化が続くと、死ぬぞ」
「死ぬの? 僕が? あはは、あははははは! なら、今度は僕が救われる番だね!」
「その状態で死んでみろ! さらなる地獄がお前を苦しめた後、悪魔に堕ちるぞ! 今すぐ、その悪魔状態を解除しなければ、後戻りできんぞ! もう、人間に生まれ変われんぞ!」
死神ちゃんが真剣に叫ぶ。
だけど、その魂の叫びは虚しく、如月には届かない。
返って来たのは嘲笑うような嘲笑である。
「なんで戻る必要がある! ヤマ様に魂を捧げれるんだよ? これ程素晴らしく嬉しい事がこの世に、全世界に存在するのか! いや、無い。あってはならない。さぁどっちが救われるまで戦おうか」
人格が変わった、そんな風に感じてしまう程には変わっている。
如月は今まで、『ヤマ様』とは口にしていなかった。
戦いを望む感じもなかった。
悪魔の方に意識や価値観の方が侵食し始めているのだろう。
若い頃から呪いを魂に植え付けられていたと考えたら、徐々にそれでいて確実に魂は悪魔に侵食されていた。
「本当に、厄介じゃな」
「ほらほら、このままだと負けちゃうよ!」
如月の猛攻撃を防ぐので死神ちゃんがギリギリである。
それだけ如月のスピードが上がっている事を意味している。
「簡単にはいかぬか」
「君は簡単に倒れそうだね!」
右斜めから飛来する斬撃を防ごうと、武器である鎌を動かす。
すると、相手の斬撃がいきなり軌道を大きく変えて、反対の左斜めからの袈裟斬りが飛んでくる。
さすがに予想外の動きである。
死神ちゃんの次の防御への動きがコンマ一秒遅れてしまう。
そんな大きな時間をロスしてしまった場合、当然のように腕は手首から切断される。
流れを崩さない連撃として、蹴りが腹に突き刺さる。
それでも吹き飛ぶ事はなく、裏拳のパンチが死神ちゃんの顔面を捉える。
吹き飛ぶ死神ちゃん。
大丈夫?
「大丈夫じゃ。⋯⋯ごほ」
口から大量の血を流す。
「悪魔の攻撃は、なかなかに響くな」
強がっているけど、かなりのダメージを受けてる。
アバラが数本折れたけど、なかなか再生しない。顔のダメージを腹の方に移したようだ。
それだけ大きなダメージを受けた事になる。
そうだとしても、死神ちゃんには普通の攻撃なら瞬時に再生しただろう。
つまりは、普通の攻撃じゃないのだ。
「もう弱いな。本当に弱い。そんな魂じゃ、ヤマ様はガッカリするよ」
「ふざけ、るな。我が、お前程度に、屈するか!」
「でも仕方ないじゃん。弱いんだから」
ゆっくりと立ち上がったところに、無慈悲な後ろ回し蹴りが飛んで来る。
腕を間に挟んで防ごうとするが、再び軌道がぐにゃりとズレて、腹に突き刺さる蹴りが炸裂する。
「かはっ!」
再び吹き飛び、地面に転がる。
あの悪魔化如月は相当に強い。
逃げるか。戦略的撤退だ。
今の死神ちゃんじゃ如月を倒せない。
止めてあげたい、解放させてあげたいとは思うけど、今日あったばかりの、現在進行形の敵である如月に同情はしない。
死神ちゃんの方が優先だ。
悪魔に完全に魂が侵食され、この世で生まれた悪魔になろうとも、如月を助けるよりも死神ちゃんの安全を優先する。
だから逃げるよ、死神ちゃん。
「いやじゃ!」
なんで?
このままだと危ないんだよ?
それだったら、一度逃げて力をさらに回復して、再戦する方が現実的だ。
今度は既に、相手は如月であり如月では無い悪魔だ。
存分に戦えるし、最初から全力の攻撃を出せる。
大技には時間がかかるが、それなら不意打ちを考えれば良い。
邪気によるマーキングはできた。
今は逃げてもなんの問題もない。
「逃げない。絶対に。問題大ありじゃ!」
わからない。
「死にかけてイカレ始めちゃったか〜。大丈夫。そんな問題も丸々、ヤマ様が解決してくれる。さぁ、僕に救済されると良いよ」
「誰が、お前なんぞに、殺されるか。我に死と言う概念は存在しないんじゃ!」
「ああ。死はないさ。ただ、破壊するだけ!」
如月が出した技は土の魔法である。
地面から飛び出し突き刺そうと死神ちゃんに向かう。
鎌を大振りで振るって、その魔法を砕くと、その隙を狙って懐に如月が飛び込んでくる。
「ほらよ!」
邪気を混ぜた拳を死神ちゃんに突き刺す。
「我は逃げぬ」
死神ちゃんの手の平に今までとは違う、白い邪気が纏わりつく。
さっきまでは、得意な黒い邪気を使っていたのだが、今は悪魔に特攻のある白い邪気を使っいる。
だからだろう、相手の攻撃を完全に防いだ。
「なんだ、この焼けるような痛みは!」
痛みを感じた如月はバックステップ。
「なぜ、お前は天使共が使う聖気を使える!」
「我は死を司る神、死神ちゃんだ。だからこそ、天上天下の力を使えるのじゃ。死は平等と言ったな。死は平等じゃない。なぜなら、我が決めるからじゃ」
「ふん。少し驚いたが、大した量では無い。お前に勝ち目はないよ」
死神ちゃんが白い邪気を放出しながら戦う。
相手は強がっていたが、あからさまに近接攻撃を嫌がっている様子であり、魔法攻撃を優先している。
なんで逃げないのさ。
「だって、同じなんじゃろ。お主もあやつも、どっちも親殺しをしている。拾ってくれた人や育った環境で、価値観は大きく変わる。復讐心を抱くソナタ、感謝を抱くアイツ、似ていないようで似ている」
そうかもしれないけどさ。
それで如月を助けるまで、頑張るって話にはならない。
「お主がどれだけ苦しんだか我は知っている。何回も、何回もその時の記憶を見た。後悔の記憶を。どれだけ自分を恨み、憎み、殺したか」
わたしはそれでも生きているけどね。
「だから、その少しでも、我の気休めでしかないけど、罪滅ぼしがしたいんじゃ」
別に死神ちゃんが悪いんけじゃないし、死神ちゃんと出会った時にはもう、遅いんだからさ。
気にしなくて良いのに。
「気にするのじゃ。我と言う存在がいなければ、悪善は今まで通りに、家族と幸せに暮らしてた⋯⋯そう考えてしまうとな。どうしても、見捨てられんのじゃ。如月が利用されていると知った今、助けたいと思う。救える範囲は救うんじゃろ!」
⋯⋯はぁわかったよ。
かなり勝率は低いけどね。
「独り言が、多いねお嬢さん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます