第27話 大きな前進

 死神ちゃんのクセなのだが、エネルギーを節約する為に、相手よりも少し強い程度で魔力を使い強化する。


 そのため、いきなり覚醒して大ダメージを与えられると、その後が不利になる。


 今回もその例に違わず、内部に負った再生が困難なダメージはしっかりと死神ちゃんの動きを鈍らせていた。


 そうなると、現状死神ちゃんを押している悪魔化如月の方が有利だ。


 この状態で死神ちゃんの意志を突き通し、如月を悪魔化から助けるのは、かなり難しいだろう。


 「どうしたの? 随分とおしとやかになったね!」


 防御に徹している死神ちゃんの狙いは再生である。


 それをわかっている如月も魔法での猛攻撃をしかけている。


 完全に悪魔化になる前に、魂を切り離さいと如月を助ける事は不可能。


 それ以前に、今の状態を如月本人が耐えられるかが問題だ。


 悪魔は笑いながら戦っているが、魂の方には徐々にヒビが入る。


 器が悪魔に適応してないのだ。


 本来とは違うプロセスで、ここ現世で悪魔になろうとしている反動だろう。


 「ホワイトノバ!」


 白い爆発が死神ちゃんを中心に広がる。


 「行くっ!」


 ある程度再生したらしい死神ちゃんが攻撃に転ずる。


 長引けば耐性がつくだろうから、徐々に形勢は逆転するだろう。


 しかし、如月の魂がそこまで耐えられない。


 「僕とここまで戦えたんだ。それだけで誇って良い!」


 一般の探索者のランクで言えば、この悪魔はSに該当する強さだ。


 Sランクが最大とされているが、そこまで到達できる探索者は少ない。


 条件が厳しいからだ。


 逆に言えば、それほどの存在が平凡なダンジョンで暴れているのだけど。


 既にいくつかの探索者をわたしは目撃しているので、これ以上騒ぎが大きくなるのも避けたい。


 「我が悪魔なんぞに、負けるかっ!」


 死神ちゃんが加速する。


 「ちぃ」


 悪魔も少しだけ真顔になり、連撃を対処する。


 このまま押せれば良いんだけど、そんな都合良くはいかない。


 「もう慣れたよ!」


 悪魔が攻撃の合間を縫って、攻撃を繰り出す。


 「それはこっちもじゃ」


 ダンジョンでも破壊するかと言う攻防の中で、ダメージが蓄積されているのは死神ちゃんの方だ。


 どんどんと動きが鈍っている。


 ⋯⋯さすがにおかしい。


 ここまで消耗が激しいのはさすがにおかしい。


 「はぁはぁ。なんじゃ。急に体が、重く」


 「お? 魔力切れかな?」


 「そんな訳、あるか。身体強化程度で、そこまで消耗する訳が無い」


 悪魔の額にある縦線が⋯⋯開いた。


 そこにはギョロりと蠢く目玉があった。


 「第三の、目?」


 「正解。これは吸魔の魔眼。相手の生命エネルギーを吸収するんだ」


 それを閉じながら使っていたのか? それとも、少しだけ、本当に僅かだけ開けていたとか?


 クソ。


 気づかなかった。


 第三者視点で戦いを観戦していたのに、全くと言って良い程に気づかなかった。


 「さぁ、終わりにしようか」


 これはまずいな。


 普通にまずい。


 「ふっ。まだ終わらんよ」


 死神ちゃんが笑った。


 え、なにか対策あるの?


 「ここはダンジョン、ここまで広範囲に暴れたんだ」


 ⋯⋯ああ、そう言う事か。


 ダンジョンに居るのは探索者だけじゃない。魔物もそうだ。


 そして、倒した魔物の魂を吸収すれば死神ちゃんの力は回復する。


 「あえて留めていた魂、ここで使う!」


 「な、なんだこの光は!」


 死神ちゃんから邪気が溢れ出す。


 「め、目が」


 さすがにキャパオーバーなのか、第三の目はあっけなく弾けた。


 「さぁ、正式な終焉エンドに行こうか」


 死神ちゃんが空を舞う。


 危険だと感じ取ったのか、焦った様子で悪魔は死神ちゃんに詰め寄る。


 「散れ、終わりなき終焉エンドループ


 神々しい闇色の光が半径六メートルを包み込む。


 その光に晒された悪魔は灰になりながら身を削って行く。


 「止めろ! この人間の身体が、どうなっても良いのか!」


 「そのくらいの調整、造作もない」


 断末魔を出しながら、悪魔は完全に消失した。


 魂にこべり着いていた悪魔印象を消滅させた事により、如月は元に戻った。


 だけど⋯⋯記憶は大丈夫なのだろうか?


 「そこまでの調整は難しい⋯⋯と言うか、我は眠い。少し休む」


 うん。


 「わかった。おやすみ」


 よく頑張ったね、死神ちゃん。


 さて、わたしはわたしでどうするべきだろうか?


 ダンジョンを修復させる、なんて力わたしに無いし、かと言って如月を運ぶ力も無い。


 誰かに見られたりもしたら、加害者はこのわたしにされかねない。


 ⋯⋯どうしようもなくね?


 「お、おーい。起きてくれ〜。あーでも戦いになるとわたし勝てないから起きないで〜。いやでも、移動して欲しい⋯⋯寝ながら誰もいない場所に移動してくれ〜」


 くっ、全く反応がない。まるで屍のようだ。


 ⋯⋯生きてるよね?


 身体は頑丈そうだし、仕方ないよね。


 「爆ぜろ」


 近くで大きな爆発を起こして、その風圧で移動する事にした。


 この程度で死ぬような身体じゃないだろう。死んでもすぐさま魂を戻せば蘇生できる。


 ダンジョンの原型が存在する場所に移動して、回復を待つ事にした。


 それから六時間⋯⋯そのでは既に夜だろう。


 『お、そろそろ起きそうじゃ』


 死神ちゃんは既に回復して、しっかりと視界に写っている。


 「ここは⋯⋯僕は⋯⋯」


 「覚えている?」


 「⋯⋯君は⋯⋯あぁ、覚えてる。僕は、なんて事をしたんだ。地獄行き確定だな」


 「その様子だと、死は救済って思ってなさそうだね。⋯⋯それと、一度悪魔になりかけて治ってるから、その辺の耐性やらなんやらで弾かれるから、天国に行くと思うよ」


 宗教とか関係なく、天界の方に運ばれると思う。


 人殺しを悪行と決めているのは、結局は人間だからね。


 地獄やら天国やら、どっちかに行くかは魂次第だ。


 要は内面だ。人を何百人と殺していようが、魂が綺麗、性格が良ければ天国行きだ。


 そんな人が人殺しをするとは思えないけど。


 「君はこれからどうする?」


 「⋯⋯アバラギのところに行く。僕じゃ手も足も出ないけど、何もしないよりかは良いと思うんだ。生かしてくれてありがとうね。こんな、どうしようもない、バカで愚かなクズをさ」


 「アイツら絡みで家族を殺した辛さに共感したんだと思うよ⋯⋯別に死に急ぐ必要は無い」


 ⋯⋯アバラギって呼ばれる男、そんなに強いのか。


 全力の死神ちゃんでも相手取るのは難しいな。


 回復を優先させるべきか。


 「もう君は死神教団の事も、人を沢山殺した事も忘れて、一般人として生きれば良い。その手伝いはする」


 「それはダメだ。これは僕が、僕自身がやらないといけない。殺した人は戻ってこないけど、少しでも許して貰えるように⋯⋯」


 どんな事をしても、自分を殺した相手を許せる人間はいないと思うけどな。


 わたしの母や父は別として。


 「だったらわたしに協力して。わたしはヤツらを潰す。情報が欲しい。覚えている事全部、教えて。それ以外に君にできる事はないよ。自分の考えが間違っていると反省したなら、情報を吐いて、普通に生きれば良い」


 「そんなの⋯⋯ダメに決まっている」


 「決まってない。法は罪を裁き、更生を願ってのモノだ。人一人殺しても釈放される。君は捕まれば死刑だろうけど、更生した。なら問題ないだろう。力は現在だから、その力を正しい事に使えば良い。どうする?」


 如月は少しの間考える。


 「⋯⋯分かった。僕じゃどうしようもないし、協力する。一緒に、やろう」


 「それは嫌だ」


 「え」


 「わたしは君を信用してないから」


 「えー」


 こうして、わたしの目標まで、大きな一歩を進める事に成功した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死神ちゃんの力でイージーダンジョン〜死神陰キャは配信と裏社会でなら最強だけど、絶賛友達増やし中です〜 ネリムZ @NerimuZ

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ