第24話 僕は間違ってない
僕のやっている事は何も間違ってないはずだ。
誰だって生きるのは辛いし、そんな苦しみから開放されたいと願っているんだ。
なのになんで⋯⋯
「⋯⋯なんでお前は、何も知らないくせに偉そうに言うんだ!」
「なら教えてくれよ、真っ当な理由をな!」
互いに鎌で攻撃し、火花と衝撃波を生み出す。
死を嫌がるなんて、そんなのおかしい。
「死を無理くり与えて、本当に救いだと思っているのか!」
なんだよ、何回も何回も同じ事ばっかり言ってさ。
皆そうだ。
皆、皆薄っぺらい上辺だけの綺麗事を並べて、何もしようとしない。
困った人や助けを願う人に手を差し伸べる人、伸ばす人がこの世にどれだけ居ると言うのか。
不平等だ。
助けられた人は助けを懇願する人の気持ちを結局理解できない。
一時的に救われて、完全に救わられと勘違いして、過去を振り返らないからだ。
一度経験したからなんだと言うのだ。
そんなんで今、困っている人の気持ちは全く理解できないんだよ。
だけど、死は違う。
死は生命に平等に降り注ぐんた。
死は平等なんだ。
だから死を拒むのはおかしいのであり、救いになるんだ。
死ぬのが怖い、幸せが掴めなくなる?
そんなちっぽけな理由でこの平等であり一番の快楽、幸福から目を背けるのは間違っている。
「僕が正しいんだ。僕は間違ってない。間違った価値観を持っているのは、お前なんだよ!」
「嘘を言うな! 殺しは殺しだと、お前も本当はわかっているんだろ! わかっているけど、自覚するのが怖くて、目を背けているんだろ!」
そんな訳ない。
そんな事があるはずがない。
あってはならない。
アバラギさんが言っていた事なんだよ、死は救いだって。
だから間違ってないんだ。
アバラギさんが言う事は全部正しいんだから。
「ほら、しっかりと現実見ろよ! 厨二病か!」
「誰が、厨二病だ!」
魔法を飛ばしながら蹴りなどで工夫を凝らして攻撃を繰り返すが、全てを躱されるか防がれる。
最初の時とは全く違う。
「なんなんだ、お前は!」
相手の方がどんどんとスピードが上がっていき、一撃の火力も相手の方が高くなる。
防御しても、ただのパンチですら重機のように重い。
「お前の、大切な人が死んだら悲しいだろ、寂しいだろ。実体が無くなってしまったら、撫でられる事も、ハグされる事も無くなる。物理的温もりと愛情を全く感じられなくなるんだ!」
ぐさり⋯⋯何かが心に刺さった気がした。
精神支配系の魔法か? 厄介なモノを使う。
「応えろよ。母は、父は、それとも恩師か! 一人でも良い、死んで悲しいや寂しいと思える人が居るか!」
「居る訳ないだろ。死んだら救われたんだ。むしろ幸福に思っているはずだよ。だから、そう、だからこそ僕は間違ってないんだ」
「⋯⋯ッ!」
僕のやっている事が間違っているとしたら、それは世界そのものが間違っているに他ならない。
「死ぬ方も怖いし、その人が死ぬのが怖いって思う人も居るんだよ。なのに、それでも死は救いって言えるの?」
「ああ、そうだよ。その人達まとめて死ねば、全員救われる。死は平等に、降り注ぐ!」
そうじゃないとダメなんだ。
もしもアバラギさんの言っている事が間違っているのなら、僕はただ『両親を殺した』だけになってしまう。
借金に苦しんだ両親を僕は救ったんだ。
そして僕はアバラギさんに拾われて、今最高に幸せな人生を送っている。
誰かを救済できるところに居るんだ。
「ならなんで、なんでわたしには死が訪れないの?」
「⋯⋯は?」
相手がいきなり止まった。
「わたしの父は母が殺してしまった。わたしは母を殺してしまった。わたしは最大の禁忌、血縁を殺したんだ。なのに、そんなわたしなのに、首を斬っても心臓を潰しても、マグマに飛び込んでも極寒の地で寝転んでも、魔物に食われても、死なないのはなんでよ!」
「⋯⋯何を、言って」
そんな馬鹿げた話はあるはずがない。
再生するのは分かるさ。
だけど、再生できない程に消耗されたら普通、死ぬ。
マグマの中なら全てが溶けて死ぬ、魔物の胃なら吸収されて死ぬ。
なのに、まるで試したけど死ななかったような言い方じゃないか。
「⋯⋯」
目が⋯⋯本気だ。
本当に彼女は自分の死ぬ方法を試しているのか?
「どれだけ悲しいかわかるか。家族が一日で死んで、ひとりぼっちになったわたしの気持ちが! 飛びついても、何も感じない。触れるのに、触れている感覚が無い。温かみも冷たさもない。ただ、言葉や表情での愛情しか受け取れない!」
⋯⋯同じ、なのか。
彼女と僕は同じ、親を殺した事のある存在だと言うのか?
「自分の罪がどれだけ重いのか、わたしは理解している。目を背けたりなんて絶対にしない。母を殺したのは間違いなくわたしだ。それは間違ってない。それは母を救済した事にはならない。ただ、死なせてしまっただけだ」
「そんな訳ない。喜んでいただろう。その人も⋯⋯」
「ああ。父は喜んでさ」
「ほら⋯⋯」
「それは死じゃない。死に喜んだ訳じゃない。実験に成功したから喜んだんだ。母は喜んでない。ただ、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。ずっと毎日謝ってるんだぞ!」
「⋯⋯実験?」
まさか⋯⋯。
「ああそうだよ。あんたら死神教団がやっていた儀式の、成功作がこのわたしだ!」
固有の死神様を信仰してない、有象無象のゴミ溜め共の、無類の死神教がやっていた神降ろしの儀式は成功していたのか?
それが、その子だと言うのか?
「まて。なぜ、死神教に作れたお前が、僕達と敵対する?」
「わからないのか? お前達が家族をむちゃくちゃにした原因だからだよ!」
⋯⋯死を誰も喜んでないから、僕達を憎んでいるのか?
それもまた違う。
「ふぅう。話が逸れた。それで、お前はこれでもまだ死は救いだの平等だのほざくのか。わたしにはその死が与えられてないんだぞ。どれだけ死を望んでも、それをやった原因はお前らだ」
「⋯⋯なら、僕達の仲間になれば良い。君は選ばれた人間って事だ。君の居場所はここにある」
「ある訳ないだろ。わたしは罪深いよ。でも、それでも幸せを感じいるんだ。それに罪悪感はない。良い環境で育てられたよ、君と違って」
猛攻が加速した。
僕の方にダメージが増える。
良い環境で育てられた? 僕と、違って?
はは。何を言っているんだ?
「僕の方が良い環境に決まっいるだろう。人を救えるんだぞ?」
「じゃあわたしを救ってみせろよ」
女は抵抗を止めた。
「良いよ」
僕は彼女の首を落とした。完全に救済完了だ。
「ほら、意味が無い」
「は?」
だけど、首と体が離れている状態で彼女は普通に喋った。
首を乗せて、完全にくっつく。
「ほら、次に試してみてよ」
心臓を潰した⋯⋯生きている。
毒を鎌に流し込む。これは町を軽々破壊する程のドラゴンですら致命傷になりうる猛毒だ。
管理が大変で、自分も皮膚に当たるだけで大きな被害を受けるので、普段は使わない。
それを口から流し込んでやる。
「ほら、死なないだろ? 死は平等じゃないんだよ。死は救いじゃないんだよ。わたしは死では救われない。わたしを暗がりから救ってくれたのは、いつだって周りの大人達だ。我を救ってくれたのは、人間の優しさだ」
「う、嘘だ。死は平等なんだぞ!」
切り刻む⋯⋯なんで、なんで蘇るんだよ!
「お前は不死身だと言うのか?」
「違うさ。我は不死身じゃない。死と言う概念が無いだけじゃ」
一体下っ端連中は、何をしたって言うんだ。
「どうだ? これでもお前のくだらん価値観は正しいと言い張るのか?」
「⋯⋯嘘だ。死は救いなんだ。平等なんだ。じゃないと、そうじゃないと、僕はなんで家族を殺したか分からないじゃないか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます