第14話 犯人はアナタです

 インターホンを鳴らして、住人を呼び出す。


 『はーい』


 警察手帳を見せながら要件を伝えると、慌てる音がスピーカ越しから聞こえてきた。


 「窓から逃げましたね」


 「まじ? ウチ捕まえて来るわ」


 「行ってらっしゃい」


 わたしは先に目的の部屋に待っておくことにしよう。


 ⋯⋯めちゃくちゃ散らかっていたので、掃除をする事にした。


 『なんで掃除?』


 「話聞くのにこんな場所は嫌だ」


 ◆


 「クソ、なんで警察が来るんだよ!」


 必死に逃げる男。


 魔力を使っての身体強化をしているようで、かなりのスピードがある。


 しかし、追いかけているのは暗殺をメインに扱う組織で育てられた人間だ。


 ただの元犯罪者程度では逃げきれない。


 「逃げんじゃないよ」


 上から雪姫が落下し、同時に壁際まで蹴飛ばした。


 押さえつけて銃口を頭に突きつける。


 「なぜ逃げる? こっちは話が聞きたいだけだ」


 「⋯⋯ほ、本当か?」


 「ああ」


 「⋯⋯女風呂盗撮してたから、逮捕しに来た訳じゃなんだな」


 「部署が違う。興味もない。ほら、戻るぞ」


 銃口を向けながら二人は戻った。


 ◆


 見るからにゴミなのは袋に分別して詰め込み、他は少しだけ整頓した。


 換気もして、ホコリとかもしっかり取り除いた。


 「うん。短時間にしては上出来でしょ」


 『た、他人の家を掃除しても良かったんでしょうか?』


 『良いじゃろ? 親切心じゃ』


 世の中には『ありがた迷惑』って言葉もあるけどね。


 あ、戻って来た。


 それから当時の事を聞く事にした。


 「⋯⋯ええ。覚えてますよ。面の良かった子達はしっかりとね」


 キモイな。


 被害者霊についても知っりと記憶していた。


 本人は話が進むに連れて恐怖に染まった顔をする。


 ⋯⋯確かに、体のホクロの位置を知っているのは流石にやばい。


 一度警察の厄介になっているのに、全く反省している様子がない。


 「これがその時の、リストですね」


 顔写真と名前など諸々がまとめられた、気持ち悪い書類が渡された。


 クビになってからも持っているって、相当にヤバい事をしている。


 「その子はですね。友達って言える人が居なかったと思いますよ。不良に絡まれたタイプなんで。⋯⋯他の行方不明者も同様に陰気と言うか、内気と言うか、物静かなタイプでしたね」


 ふむ。


 共通点は陰キャか。


 「アンタみたいね」


 「わたしは友達も親友も居ますし、バリバリの陽キャJKですよ」


 「そう言っている時点ではダメね」


 なら今後は言わない。


 昼に襲われた事は確定。


 霊の記憶がいじられているとは言え、昼とか夜とか無意識で認識している記憶は膨大な為に細工はできない。


 地縛霊から聞いた内容的に、学校に行った日に居なくなってる。


 それは世間的にも知られている事だ。


 だから学校内で犯行が行われている。


 「学校に幻術系の魔法を使える人は居ましたか?」


 雪姫姉さんが基本的に質問してくれている。


 わたしはそれをボイスレコーダーで録音するだけだ。


 「そんな記憶は無いですね」


 「そうですか」


 幻術系の魔法を使える人が確定したら、その人が犯人だけど、それはわからないか。


 学校がやっている時間でも、幻術が使えるなら案外なんとかなったりするからね。


 「行動パターンって言うか、その子らが頻繁に行くような場所とか、知りませんか?」


 この辺も犯人に繋がる記憶は消されている為、知りたい情報だ。


 これらを知っているのは本人に親しい人達だけだ。


 家族は知らない可能性がある。


 「さぁ。そこまでは。身体の隅々までは知っているんですがね」


 『やべーのじゃ』


 いまさらでしょ。


 「基本的に更衣室に仕掛けてましたから」


 カメラをか?


 「他にはなにかないですか? 性格や行動を特定できる情報は?」


 「いえ。これ以上は⋯⋯」


 嘘ではなさそう。


 それにただの変態犯罪者にこれ以上聴いても意味は無いと思う。


 もしも一人に固執してストーキングして、情報を集めていたら別だけどね。


 とりあえず、ここは臭いのでもう退散したい。


 退散する。


 「どう? なんか有益な情報は掴めた?」


 「なんとも言い難いですね。ただ、共通点が見つかったのはありがたかったです」


 「アンタと似たような人物か。⋯⋯犯人のターゲットに含まれてるかもしれないから、気をつけなよ」


 「そんなの、わたしの学校に犯人が居るって言っているモンじゃないですか」


 そんな訳ないでしょうに。


 「無くは無いだろ。⋯⋯だって、アンタがあそこの学校にわざわざ通っている理由って⋯⋯」


 そう言えばそうだった。


 あまりにも手がかりが無さすぎて、忘れ去るところだった。


 わたしが自分の学力に合わず、学費も高いあの学校に通っている理由。


 あそこの学校には死神教団の奴らが居る。


 確定な情報かはわからないけど、少しの可能性でも探すしかない。


 「確かに。決めつけるに早計だった。今年にまだ行方不明者は居ない⋯⋯わたしが被害者になるかもしれない」


 だけどその場合は⋯⋯寧ろありがたいと言うべきか。


 とりあえず、一旦家に帰った。


 「死神ちゃん」


 『なんじゃ?』


 「犯人はどんな人だと思う?」


 『さあな』


 とりあえず整理していこう。


 犯人はまず、人間の身体を部位ごとにバラバラにした物を繋ぎ合わせた『作品』を造る。


 しかも使われている部位の本当の持ち主、人間はバラバラである。


 付属して霊も同様に仕上げている事から、かなりの愛を感じる。


 使われている部品は全員が女子高生であり、ルックスは高い方。


 繋ぎ合わせていた縫い目がとても綺麗であり、素人では無い事が伺えた。


 魔除けの結界も使っているので、作品を誰かに見て欲しいと想定できる。


 目立ちがり屋。


 女子高生のみをターゲットとしているので、学校関係者が手堅いと判断できる。


 「今回はわたしが陰キャだと想定して、わたし目線で考えてみるのもアリかな?」


 『いやいや。他者認める陰キャじゃろお主は?』


 「わたしが陰キャだと想定して、考えよう」


 わたしの場合は学校が終わったらすぐに帰る。


 だけど今回、学校までは行った情報がある。


 帰りから居なくなっていた。


 そこから学校内で誘拐されたと想定できる。あるいは短い距離の間か。


 几帳面、縫い方がプロ、作品への愛、目立ちがり屋、学校関係者、学校内でも犯行が行える、陰キャでルックスの良い人ばかりを狙う。


 「目立ちがり屋?」


 『どうしてそこに疑問を持つんじゃ? どう見ても、目立つようにしておるじゃろ。難易度の高くないダンジョンに作品を置くんじゃからな』


 より多くの人に見てもらいたい。


 目立ちたいから?


 ⋯⋯もしも少しだけ違ったとしたらどうなる?


 「全部が当てはまる人を、わたしは知っている」


 そして奴らに繋がる可能性のある人物もわたしは知っていた。


 月曜日学校にして。


 五限目には化学の授業がある。


 だからさっさと向かう事にした。


 誰も違和感を持たない。


 「先生、最近話題のニュース、ダンジョンで発見されたモノの犯人は⋯⋯先生だったんですね」


 わたしは飾られた花、そして新たに用意したであろう粘土で造られたフィギュアを見る。


 「風音先生⋯⋯」


 「⋯⋯珍しく昼の時間に来たと思ったら、急に何を言い出すんだ?」


 犯人は目立ちがり屋⋯⋯そうじゃない。


 作品を見てもらいたかったんだ。


 多くの人に。


 目立ちたいんじゃない。


 「風音先生は自分の造った作品を沢山の人に認められて、評価されたかった。今はその感想がネットに沢山転がっている」


 「⋯⋯?」


 それに、風音先生なら医療の知識があっても不思議では無い。


 几帳面な一面も知っている。


 何よりも⋯⋯陰キャわたしが信頼を置いている人物だから。


 「色々と調べたんですよ。行方不明者、今回作品にされた被害者、その共通点は陰気。先生はそう言う人相手に慣れてますよね?」


 とても話しやすい先生。


 「まぁ、これだけだと結局憶測の域を出ません。他の学校を調べた訳では無いので」


 そもそも色んな学校から行方不明者が出ているので、いくら多い学校を調べても犯人の共通点は出て来ない。


 そのくらいの調整はできると思うしね。


 「だけど、決定的に犯人に繋がる答えがある」


 その答えがわたしには視える。


 いや、存在しないから視えないか。


 「風音先生は死神教団の一人で、霊を作品として扱ってる。⋯⋯だから、アナタの周りには霊が存在しない」

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