第15話 わたしは自己中だ
嫉妬、怒り、様々な負の感情で人には霊が取り付く。
それらの感情で生み出された霊は霊魂を持っていない浮遊霊に似た存在となっている。
どんな聖人でも誰からも嫌われていない、憎まれていない、妬まれていない、そんな訳では無いのだ。
確かに、霊媒師などに取り除かれた人達なら霊は居ない。
「風音先生、アナタは霊を改造できる。自分の周りにいる霊を全て作品、あるいは実験体にしたんじゃないんですか?」
「ねぇ? 本当に何を言っているのかわからないのだけど。まず、死神教団ってなによ?」
「死神教団は死神をこの世に君臨させ死を支配しようと目論む集団です。そのための犠牲を厭わない。老人だろうと赤ん坊だろうと⋯⋯たとえそれが自分の娘であっても」
思い出すのはあの日、わたしが家族を失った日だ。
あの時、パパにわたしは自分の部屋に居るように言われて、素直にそれに従った。
その後にぞろぞろと人が入ってくる音が聞こえて、大人の声が沢山あった。
火の燃える音、何かを叩く音、色んな音や声が聞こえた。
それでも、わたしは呼ばれるまで待ったのだ。
しかし、いつまでも呼ばれる事はなく、退屈していた時だった。
断末魔が響き渡ったのだ。
わたしは驚き、怪しみ、好奇心に従う小さな子供であり、その場所に向かった。
扉を開いて見た光景は、暗殺者のママがパパに致命傷を与えていたところだった。
最後の生き残りであり信者のパパは死に際にも、何かを呟いていた。
まるでなにかに取り憑かれていたように。
理解できなかった。
理解したくなかった。
ママもこの状況を理解できないようにただ、パパを見下ろしていた。
最期にパパと目が合った。
その顔は涙を流し、ほのかに笑顔だった。
ママと目が合う。
互いに混乱と現実逃避を始める。
わたしの中であったのは、大好きなパパが大好きなママに殺されたと言う事実のみ。
だからだろう。
無意識に、最後にわたしの命を刈り取るであろう鎌に手をかけた。
そこからは無意識だった。
最愛の人を自らの手で殺め、最愛の娘に現場を見られた母は呆然と、わたしの攻撃を受けたのだ。
復讐心かなんなのかわからなかった。
ただ、パバを殺したママをわたしが殺した。
魔法陣のようなモノの上で。
ママを殺したその瞬間に、わたしの中に死神ちゃんができあがり、ママの仕事仲間、組織のメンバーである地黒さんに拾われた。
そこからなんでこうなったのか、必死に調べて死神教団の存在に気づいた。
きっとわたしのような人は沢山いる。
こんな辛い気持ちを増やしちゃいけない。
人の命を軽く見ているアイツらを野放しにはできない。
そう決意した時には既に一年が経過し、その頃からわたしは死神ちゃんを愛称で『死神ちゃん』と呼ぶようになった。
「アイツらは目的のためなら自らの仲間も差し出す。何よりも、死への干渉が少しだけ可能なんですよ。先生のように霊を改造したみたいに」
だからアイツらの末端を捕まえようとした時、自ら死んで魂すらも自ら生贄にその場で捧げた。
今まで奴らの末端を追い詰めたのは計127回、その全てがその場で実滅している。
「先生、なんで奴らに属しているんですか? 洗脳でもされてるんですか?」
あんな奴らには関わるべきじゃない。
敵であろうとも利用してくる。
しかも、弱い訳じゃない。
中には強い奴だっている。
組織でわたしを世話をしてくれた六人が死神教団の奴らに敗れ、魂を奪われた。
蘇生不可能、残留思念すら無い。
だから若手にはこの案件には関われせない、それが組織の方針だ。
「理解できないな。死神教団と言う単語を初めて聞いた。仮に、もしもの話だが、自分がその死神教団とやらのメンバーで、今回の事件の犯人だとして、君はどうしたい?」
「それを言うのは先生が認めてからです」
「悪いけど、自分は君の追い求めるような大層な人間じゃないよ」
「そうですか」
あくまでも認めないと言うなら、わたしにも考えがある。
ただの脅しだけど。
先生は作品を誰かに見て欲しい、評価して欲しいと言う欲求が強い。
今回はそれが爆発した感じだ。
保健室の花を変えたり、粘土の作品を持ってきたり。
とにかく自分の作品を見て欲しい。
今は先生の作品を日本中の人が注目している。
きっと喜んでいるだろう。
「先生の作品は今後、永遠に世の中に出る事はないです」
わたしはSNSで作品を取り上げているモノを見せつける。
「先生には今後一生、監視が付きます。作品をダンジョンに持って行こうとする度にすぐさま、人目に付かずに回収されます」
地黒さんの力を借りれば可能な事ではある。
「さらに、自衛隊やダンケンの人達も全力で動くでしょう。ゲートを通過したら自衛隊の検問もあるかもしれない。ギルドで即刻捕まるかもしれない」
きっとギルドに協力者が居るだろうから、それは無いかもだけど。
「それにダンケンはいずれアナタに辿り着く。既に教員関係者は割れている。行方不明者の学校を全てを調べている。共通する教師ならすぐに判明するでしょう」
撹乱するように一箇所を集中的に狙っている訳ではないので、すぐには見つからないだろう。
「そこから当時の教師、生徒全てに事情聴取をするでしょう」
人海戦術が奴らの基本だ。
「共通点を見出し、被害者生徒が行きそうな場所、良く行っていた場所を調べるでしょう。そしたらすぐにわかりますよ。保健室に来ていたってね」
「だけど、それだけじゃ犯人には辿り着かないでしょ? 誰も自ら認めないんだから」
先生はダンケンを知らない。
「アイツらは外道に対しては如何なる手段も問いません。犯人を捕まえるためなら、地獄にでも堕ちる連中です。それに、家宅捜索されたら終わり⋯⋯何よりも、ここのダンケンは死神教団も追っている」
と、話が逸れていた。
「とにかく、もう二度と先生の作品は日の目を浴びない、それだけは確定事項です」
「まったく。何を言ってるのかさっぱりわからないよ」
先生はわたしに肉薄した。
そして両肩をがっしりと掴んでくる。
「紫菜々伊さん。私は君を信頼していた」
「わたしもです。だから⋯⋯ぐっふ」
腹から感じる熱さ。
「本当はもっと綺麗に締めたかったんだけど⋯⋯仕方ないよね。警戒されてたし」
何かしらの方法で刺されたようだ。
わたしはその場に倒れる。
「まったく。事を急ぐ必要が出たな。君のような綺麗な人はもっと、綺麗に保管したかったのに」
わざわざ本性だすんですか、ここで。
「油断しすぎだぞ悪善」
「⋯⋯ッ! どうして! 心臓を突き刺したし、毒も流したんだぞ!」
「悪いな先生、我に一般的な死と言う概念は存在しない。その程度ならすぐに再生するし、毒なら取り除ける」
「そんな馬鹿な話があるか!」
「あんだから仕方ない。実際あのままのらりくらり言い逃れてたら、次の授業が始まっていただろうに⋯⋯選択ミスじゃよ。先生だと決め手とする証拠は無かった訳だし」
主に推測と、わたしのような人が頼れそうな人が風音先生しか思いつかなかった。
被害者の共通点から洗い出した結果だ。
死神ちゃん、捕まえて。
「そらよ」
「くっ」
瞬時に相手の体勢を崩して床に倒す。
変わって。
「なぬ?」
お願い。
「仕方ない」
わたしは戻る。
「風音先生。わたしはアナタを心の底から信頼してました。何回も保健室に運ばれて、その度に話してくれたから。お願いします。死神教団から足を洗ってください。アイツらと一緒に居ると、いずれ先生も死んじゃいます!」
「それは⋯⋯」
『悪善⋯⋯』
わたしの額を涙が伝う。
もう、自分が信頼した人が死ぬのは見てられない。
「⋯⋯」
ドクン、心臓の鼓動が鼓膜を掠める。
「死神ちゃん!」
『ああ!」
わたしだって学習しているんだ。
この距離なら間に合う。
「
邪気に包まれた魂を回収し、それを死神ちゃんの邪気で包み込む。
これにより呪いの発動を停止させる。
魂の抜けた先生は文字通り、抜け殻の様に倒れる。
死神ちゃん、呪いを分解して。
「あと少しで終わる」
呪いを消した魂は先生の体に戻る。
「⋯⋯ッ! わ、私は⋯⋯」
呪いの解析は終わった。
狂気の増幅や死に対する価値観をバグらせるなど、都合の良い呪いが多かった。
「先生、わたしは先生に捕まって欲しくない。良くない事だとはわかってます。それでも、わたしはアナタを守りたい。死神教団のスパイになってください。その代わり、わたしは風音先生を全力で護ります」
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