第6話 わたしが見つけたのは違う人間の体を合成した作品です

 ま、まさかこの時がわたしにも到来するとは思わなかった。


 「ついに来た、わたしの時代が」


 『そんなに大袈裟に言うなよ』


 黒川さんからのメールで、『会えませんか?』と来たのだ。


 黒川さんとは、わたしを母の別名の持ち主と勘違いして接触して来た、暗殺者である。


 「ママ見て見て、ママの後輩の友達から遊びの誘いが来たよ!」


 「そうね。良かったね⋯⋯でも、友達なのに敬語?」


 「恥ずかしがってるんだよ!」


 三人からの謎の目は無視して、待ち合わせ場所に直行した。


 その場所には既に黒川さんがおり、動きやすい服装で来ていた。


 わたしは死神探偵の格好である。


 私服はこれくらいしかない。


 「や、や!」


 「あ、紫菜々伊さん。来てくれてありがとう」


 もちろん、友達ですから。


 って、言わないと。


 「あ、あた、あたりま⋯⋯」


 「僕は強くなりたいんだよ。だから、特訓に付き合って欲しい!」


 特訓?


 わたし相手に?


 意味ないと思うな〜わたし弱いし。


 来たのはダンジョンだった。


 ギルド内部に居る組織の協力者を通しているので、問題なく二人で入れている。


 魔物相手に修行するらしい。


 魔物は人間よりも本能的な部分が強かったりするので、訓練にはちょうど良いのかもしれない。


 今回は中級者が来るようなレベルのダンジョンであり、黒川さんは気配を殺す。


 すぐさまオークと言う二足歩行の豚と言う魔物を発見して、背後に近寄った。


 オークの特徴は鼻であり、とても嗅覚が鋭いので簡単に索敵される。


 しかも、奴が嗅ぐのはただの臭いでは無く、魔力の臭いだ。


 魔力の臭いを隠せる人は限りなく少ない。


 なぜなら、超レベルの高い技術であり、人間離れした操作技術だからだ。


 地黒さんはできるのであの人はやばい。


 「ちぃ!」


 なので、当然気づかれた。


 『お主が居る必要あるのか?』


 死神ちゃんが核心を突いた。


 「多分、死神ちゃんの力に期待してるんだよ。ダンジョンの修行は命懸けだからね。地黒さんに条件としてわたしの同行を入れたんだと思う」


 『都合良く使われてるな』


 「良いよ。地黒さんは父親みたいなモンだし、⋯⋯それに魔物の売却料はもちろん貰うからね」


 死神ちゃんはわたし以外には見えない状態であり、一心同体なので心の中で会話は可能だ。


 しかし、口で会話する方が楽しいので、このままでする。


 「はああああ!」


 魔力操作はそこそこ上手いけど⋯⋯上級者の暗殺者と比べたらまだ、下の下かな?


 黒川さんの現場経験がどのくらいあるか分からないけど、死臭の濃さ的にそこまで修羅場は潜ってない。


 あまり霊も取り憑いていなかったので、恨みを買っている様子もなかった。


 ちなみに微かに取り憑いていた霊魂はありがたく回収させてもらった。


 死臭は死への関わりが深いほど、死がまじかなモノ程濃く感じて、この二つは微妙に臭いが違う。


 そろそろ終わりかな。


 「はぁはぁ。ど、どうだ!」


 急所を何回も刺しているけど、ナイフなので中枢までは届いていなかったようだ。


 だから長引いたのか。


 魔力で身体能力を強化できても、ナイフの射程を伸ばすことはできないらしい。


 自分の身体能力や耐久力を上げられるのが三流、武器に魔力を流して形状を変えたり火力を上げるのが二流、体内の魔力を違う物質に変化させるのが一流、ってのがわたしの持論。


 実際は魔法が得意な人など、魔力操作の才能は各々別なので、一概にこれができるから一流とは言えない。


 「とりあえず、黒川さんには休憩してもらおう。その間にわたしもお金を稼ぐ」


 『この程度でへばるとは、あの娘はまだまだじゃな。主よりかは体力があるようじゃが』


 うるさい。


 わたしの右手に黒い炎が顕現する。


 魔力を違う物質へと変化させ、そこに邪気を組み合わせる。


 死神ちゃんは魔力は魔力、邪気は邪気って感じでしか使えないけど、わたしはこの二つを合わせることができる。


 「地獄の炎ヘル・フレア


 血の匂いに誘われた豚共を焼き尽くす黒煙が天に立ち込める。


 焼ける肉の匂い。


 わたしはこの匂いが嫌いだ。


 例の日を思い出すから。


 「と、命が尽きたなら素材を回収しないと。天国の氷ヘブン・アイス


 奥が透き通る透明の氷、それらで炎を包み込んで消した。


 魔力を空気中に分散させるイメージで操作すれば⋯⋯氷は砕けて死体を回収できる。


 辛いのはここから。


 「解体しますか」


 『こっちは魂をいただきまーす!』


 「す、すごい! すごいよ紫菜々伊さん! これが死神女帝の娘の力!」


 ⋯⋯違う。


 これの大半は死神ちゃんの力だ。


 わたしを死神ちゃんの依り代として選んだのは、パパの娘で邪気に適合する身体だからだ。


 つまり、都合の良い存在だった。


 ママの娘だと言うのは関係ない。


 死神ちゃんがいるから、膨大な魔力と邪気をこの身に宿して操れる。


 わたしは特別じゃないし、強くもない。


 ママの潜在能力も何もかも受け継いでないんだから。


 『それは違うぞ悪善あん。お主だから、我の依り代に成れたのだ。お主以外が依り代になっていたら、我の召喚には失敗してる』


 わたしの自我がわたしの体の中で死神ちゃんと共存している時点で失敗でしょ。


 『そうは思わんがな』


 「と、つ、次は⋯⋯」


 「えっとですね。もっとゲートから離れた、奥の方に行こうと思います! オークにも気づかれないように暗殺できるようにならないと!」


 それは当分無理だと思うけどな。


 気配じゃなくて臭いだし。


 わたしは魔力を邪気で包み込んで隠すことができるけど、黒川さんはそうはいかないし。


 ま、そんな忠告が言えるほどわたし達は仲が良くないので奥に向かう。


 『お前さ〜時々変に良い訳するよな。主に心の中で。純粋に言う勇気がないって考えろよ』


 うるさいわい!


 語尾どうしたしっ!


 それから奥に進んでいるけど、魔物の気配はしなかった。


 不思議なことに、近くに生命反応もあんましない。


 「さすがに不自然だよね?」


 「うん。聞こえる」


 「聞こえる?」


 死神ちゃん、聞こえてるよね?


 この⋯⋯断末魔が。


 『ああ。右側かな?』


 わたしも同じ。


 黒川さんと共に向かう。


 「(い、いきなり紫菜々伊さんの気配って言うか雰囲気が変わった?)」


 向かった場所にあったのは⋯⋯おぞましい『何か』だった。


 「こ、これっ!」


 「ツボ⋯⋯とは思いたくないな」


 わたし達は死体などに慣れてるから、あまり取り乱さない。


 だけど、一般の冒険者が見たらこれは絶叫モノだ。


 人の体のパーツを使ってツボのようなモノを作っているのだ。


 頭は女性のモノだった。


 「⋯⋯見つけた」


 と、ボソリと呟いてしまった。


 だけど、これは興奮してしまうだろ。


 見つけた。


 いや、見つかった?


 奴らへの手がかりが。


 これは欲しい。


 絶対に欲しい。


 『我に任せておけ』


 死神ちゃんが手刀を振るう。


 「君たち、何してるんだ?」


 さっきの生命反応がこっちに近寄っていたのか⋯⋯全然気づかなかった。


 冷静にならな⋯⋯フードをしっかり被っておこう。


 最悪だ。


 まさかこれ⋯⋯ダンジョン事件だったのか。


 あたりまえか?


 警察⋯⋯ダンジョン科だっけ?


 通称ダンケン。


 ダンジョンを巻き込んだ事件を調査し解決するところだ。


 まぁ、わたしとは毛色が違う感じ。


 わたしはダンジョンの『謎』彼らは『事件』だ。


 複数人での移動で制服⋯⋯つまりこのツボモドキは『事件』だ。


 「嬢ちゃんら。悪いことは言わねぇ。今日見たことは忘れな」


 ⋯⋯わたしの知り合いは居ない様で安心した。


 いたら年齢的に疑われるところだった。


 引率者が居ないことを⋯⋯。


 組織のスパイなら居たけどね。


 「それでは⋯⋯」


 黒川さんと離れる。


 目的は果たしたしね。


 「あの二人、なんか平然としてましたね」


 「冒険者の死体を何回か見たことのある口じゃないか? さっさとコレ回収して、鑑識に回すぞ」


 そんな会話が聞こえた。


 今回の事件は絶対にニュースになる。


 ダンケンだけが把握している事件じゃないから。


 そしてダンジョン内で起こったこと⋯⋯死神探偵の出番だろう。


 それに⋯⋯犯人を追い求めることが奴らに繋がるなら、それは紫菜々伊悪善としての必然な行為だ。


 とりあえず、黒川さんが納得するまで付き合って、帰ったらじっくり聞き込みをしよう。


 死神ちゃんが握っている、さっきのツボの横に括り付けられて立っていた、『バラバラの女性のパーツをくっつけた霊』にね。

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