第5話 やっぱりこう言う人が依頼人であって欲しい

 「あははは! 終わった終わった! 塵も残ってないよ!」


 「笑いすぎだ」


 「だってさーアバラギさん。あそこまであっさり殺られるなんてさ、笑うでしょ! やっぱ、新入り幹部に任せるべきじゃなかったんですよ! 僕がやれば完璧でしたよ」


 「そうでも無いさ。失敗も成長の元、如月きさらぎ、お前は優秀だ。だから一度の失敗で絶望する。肝に銘じろ、失敗から学べ」


 「はいはい」


 黒い光の柱を眺めながらアバラギと如月はダンジョンから出ようとする。


 (にしてもあの力は⋯⋯アバラギさんに似てるな)


 如月が少しだけ考え込み、アバラギについて行く。


 ◆


 わたしは家に帰り、眠った。


 眠ると暗い空間に出るのだが、設備は充実した場所となっている。


 そこでゴロゴロしている、見た目は完全にわたしの死神ちゃんに近寄る。


 「死神ちゃん、なーんで手加減しなかったの?」


 「き、来たのか半身よ」


 「な、ん、で、手加減しなかったの?」


 まずは正座させる。


 「し、仕方ないだろ! 我が暴れられるのは時間が少ないんだ! もっと我を使ってくれ! そしたら、今日のようなことは⋯⋯」


 「今日のことがあるから普段から使わないのよわかる? レッサードラゴンの素材は高く売れたんだよ! それに原因だって結局不明だったし!」


 もしかしたら、奴ら⋯⋯死神教団と関わる何らかの情報が手に入ったかもしれないのに。


 この子が全てを台無しにする。


 「死神ちゃんは知ってるよね、わたしが奴らを根絶やしにしたいって! なんで協力してくれないの!」


 「きょ、協力はしてる! むしろ、我をあんまり使おうとしないのはそっちだろ! 普段からストレスを発散させてくれていたら、一気に爆発させたりはしない!」


 子供の言い訳かっ!


 「我は主が好きだ。だからこうやって手伝っているんだ」


 「結構怪しい」


 わたしの記憶からアニメをテレビで垂れ流している死神ちゃんをどう信じろと言うんだ。


 まぁ、同じ体を共有している訳だから、敵対している訳では無いんだけどさ。


 「あ、そうだ悪善! 我は今日手に入れた魂によりかなり力を回復したぞ!」


 「すごく興味が無い!」


 「なんだと! 力が回復したら悪善が強くなる、我も強くなる、我の母体としてもう少し力を使えるようにしてくれんと⋯⋯せめて邪眼の力をフルで使える程に」


 邪眼には色々と機能があるらしいけど、わたしは魔力を見たり霊を見たりする程度だ。


 って、話を逸らされそうになってる!


 軌道修正してひたすらに説教した。


 精神世界なのになんでこんなに疲れるんだろうか。


 不思議だ。


 動画の編集をするか。


 「結局謎の解明はしないで全て粉砕しちゃった、星。こんな感じかな」


 『主の性格からは考えられない字幕じゃの』


 な、なんで死神ちゃんが幽霊のようにわたしの隣に居るのよ。


 いつもはわたしの精神世界でぐうたらしているじゃんか!


 『力が回復したと言ったろ? こんくらいはできるようになった。はよ投稿せい』


 「きちんと時間を考えてるの。それにSNSでも告知するし。まだ公表しないの」


 『難しいの』


 にしても、三年間やってかなり伸びたな。


 最初の方はひたすらにダンジョンを探索して謎を見つけて、時々来るコメントに一喜一憂してたな。


 そんな初心の気持ちも既に忘れ、今では大人気配信者と呼ばれる程までに成長した。


 『今日はどうするのじゃ?』


 「そうだね。普通にお金を稼ごうか。案内人の給料も少ないし」


 翌日、学校に向かう。


 学費の高い私立高校。


 移動中わたしは昨日投稿した動画のコメント欄を眺めていた。


 『今日も謎可決、さすがです!』

 『強ええええ!』

 『死神TUEEEE!』


 『レッサードラゴンワンパンとかさすがにやばい』

 『今回のイレギュラーは初心者を沢山殺すモノだ。アナタは沢山の人を助けた』


 などなどのコメントが見受けられる。


 『CG乙。こんなん作って時間を無駄にするなら勉強しろよ』


 殺すっ!


 『お主、本当に感情が顔に出やすいな! 面白いがキモイぞ! そいつ、我が殺そうか』


 そんなバカなことはしない。


 人の命は平等に死ぬべきでは無い。


 『死と言う概念を超越した我々にはありえない思考じゃな』


 その語尾やめない?


 メスガキ臭がする。


 『そうか? まぁ、癖じゃな。直そうと思ったら直せるけど⋯⋯アイデンティティじゃ』


 しょうもな。


 にしても、鏡よりも正確に自分の顔が分かるので、あまり視界に入らないで欲しいな、死神ちゃん。


 『今日は主が一方的に親友だと言っている人は挨拶に来ぬな』


 一方的じゃないし。


 なんでだろ?


 熱らしい。


 とある移動教室で化学の先生、七義先生とすれ違った。


 軽く会釈をする程度で終わるけどね。


 「⋯⋯二人の女性の霊?」


 『片方は若いな』


 ま、良いか。

 

 六限目は数学である。


 五限目の体育でぶっ倒れたので、保健室で休んでいたが回復したので教室に向かうことにする。


 「あら、もう大丈夫なの?」


 「はい。ありがとうございます」


 『主が唯一学校でまともに会話できる相手が保健教師とはな』


 風音先生は良い人だ。優しいし包容力がある。


 色々と丁寧だし几帳面だ。


 数学の先生は嵯峨根さがね先生と言う難しい漢字をしている優しいイケメンだ。


 クラスの女子から人気であり、こんなわたしにも優しく話しかけてくれる。


 だけど、いつも挨拶を返そうとすると人が集まってしまう。


 その度に申し訳ない気持ちに襲われるのだ。


 今晩、案内人の仕事が入っているので、依頼人の場所に地黒さんと向かうことになった。


 今回はご老人らしく、家まで出向くのだ。


 『後ろに尾行している奴らが二人居るな。殺すか?』


 その思想は嫌いだ。


 『すまぬ』


 と言うか、その二人は地黒さんの護衛なので絶対に手を出しちゃいけない。


 絶対にわたしの知り合いだから。


 あんまり地黒さん以外の組織関係者と関わりたくない。


 あの日、死神ちゃんがわたしの中に芽生え、父が殺され、母を殺した、たった数十分の時間を聞かれるから。


 あの時から、わたしは死神教団を追っている。


 「どうぞ。中にお入りください」


 本当に老人さんだ。


 他に人は居ないみたい。


 座布団に正座する。


 この体勢でわたしは何分耐えられるだろうか。


 「それで、今回のご要件は?」


 「あ、アナタを頼れば死者と会話できると聞きました。お願いします。妻と、妻と会話をしたい。病気で倒れ込んで、それ以来ずっと寝て、そして⋯⋯くぅ。最後は喧嘩別れをしてしまったんです。ずっと、後悔しているんです。お願いします、妻に、妻に謝罪をしたい」


 「そうですか。案内人はこの子です」


 地黒さん、フードがズレるので頭に手を置くのは止めて欲しいです。


 ⋯⋯そっか。


 今回はありがたいな。


 クズじゃない。絶対に。


 「思い出を、聞いても良いですか?」


 聞かせてあげて。


 少しだけ思い出話をしてもらう。


 話が進む度に老人は涙を流して、話が中断される。


 ただわかったのは、心の底から愛していることと喧嘩別れで終わった後悔だった。


 「それでは始めます」


 遺影近くに立っていた妻の霊を可視化させる。


 「お、おぉ。リョウコ、リョウコおおお。すまなかった。ワシの、ワシの軽率な発言でお前を傷つけて。許してくれとは言わない。ただ、長い間ワシの傍に居てくれて、ありがとう」


 感謝を述べた。


 寝ている間でも聞こえていたんだろうけど、やっぱり直接言うのとは違うのかな?


 「良いんですよ別に。何回も聞きました。先に逝って、ごめんなさいね」


 「ワシもすぐに⋯⋯」


 「ダメですよ。孫達を見守ってください。認知症にならない様に日々を気をつけて、運動も忘れちゃダメですよ。元気に居てください。私のように、事故で死なないで」


 事故か⋯⋯なにかに潰されたんだろうね。


 霊は死んだ直後の印象などによって身体を形成するケースが多い。


 今回の場合、頭上から何かで潰されたんだろう。


 だから⋯⋯ずっと顔がない。


 だけど、声は聞こえるし、二人とも愛する人だと認識している。


 認知症だったのか、とにかく心配している感じがする。


 「私の相手は大変だったでしょう。後は余生を楽しんでくださいな」


 「あぁ、お前の分まで、孫を可愛がるさ。引くぐらいな」


 感情移入できる訳では無いが、こう言うのを見ると羨ましく思える。


 わたしはきっと、誰かを愛することは永遠にないだろうけど、感情は大切にしていきたい。


 未練の無くなった霊はすぐに成仏してしまう。


 今回も同じだ。


 案内人の仕事はここが重要となる。


 「リョウコさん⋯⋯アナタの魂を案内します。依頼人との繋がりを作って⋯⋯そしたら死後、あの世で巡り会うことが可能です」


 「ほ、本当か!」


 「はい。早死する訳ではありません。あくまで早期契約です。魂を半分いただけるのであれば、二人を同じ場所に送ることをお約束します」


 二人は見つめ合い(多分)、決断を下した。


 契約は成立した。


 リョウコさんは成仏し、依頼人は家に息子夫婦を呼ぶらしい。


 元々同居を勧められていたが、奥さんとの別れができなかったらしい。


 そして風の噂でわたしを聞きつけた⋯⋯と。


 会社や学校からの距離的にここに住むのがちょうど良いらしい。


 その前にリフォームするらしいけどね。


 「リフォームや依頼料も払える。中々の金持ちだったな」


 「そうですね。ブランド物で固めるのではなく、必要な物にとことんこだわるタイプだった感じがします。生活が便利になる機械が沢山ありましたし⋯⋯家紋もありましたから」


 代々引き継ぐ何かがあるんだろう。


 「今回の報酬だ」


 「20万⋯⋯もっと多く貰えませんか?」


 「六割やってるんだから文句を言うな。下手な新入社員よりも貰ってるんだからな」


 「そうですけど⋯⋯生活が厳しいんですよ。家のローンや税金や生活費諸々」


 「じゃあ、こっちで住むか? そしたら生活費は浮くし、同年代の同性も多い。学校も近いだろ」


 「遠慮しますよ」


 両親をあの家に括りつけているので、あの家から出られないのだ。


 死神ちゃんの力を回復させるの、案外考えものかもしれない。

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