第4話 死神ちゃんはここで登場します
土曜日にわたしはギルドに向かう。
「死神探偵、出動なり!」
黒と白がベースのパーカーを着て、深くフードを被る。
後はギルドに向かうだけだ。
到着。
「⋯⋯」
受付に並び、呼ばれたら向かう。
「ダンジョンに行きますか?」
頭を前に倒す。
「身分証の提出をお願いします」
わたしは免許証を取り出して受付に渡す。
あ、もちろん偽装なので調べられたら終わりなので、細心の注意が必要だ。
免許証と交換で冒険者カードと武器などが渡される。
武器はないので冒険者カードだけだ。当然偽名。
案内人とプライベートでダンジョンに行く時は別人になっている。
「それでは、お気を付けて」
18歳未満の冒険者は本来、Cランク以上の引率者が必要となるのだが、免許証により二十歳以上となっているわたしはそんな義務は無い。
安全面の考慮としての義務だけど、わたしの力は基本的に人に見せちゃいけないのだ。
ハイエナ森林。
その単語を頭に浮かべながらゲートを潜ると、目の前には森が広がるダンジョンの中に入った。
相変わらず空気が綺麗で、魔力が溶け込んでいる。
「さて、カメラを回すか」
許可さえ得ていればダンジョンでカメラを回す事も許されている。
「ごほん。あーあー、よし、声も大丈夫」
ゲートから少し離れてカメラを回す。
「どうも皆、死神探偵だよ! 今日はコメント欄で見つけた、ハイエナ森林の魔物の挙動がおかしいを調査しますっ! 嘘か真実か、それはわたしの目で確かめるっ!」
ちなみに視聴者からは『信者』と言って欲しいと言われているので、基本的に視聴者様ではなく信者達と言っている。
名前が死神探偵だかららしい。
「まずは魔物を見つけたいね」
ダンジョンに等間隔で配置されている監視役の自衛隊には会いたくないな。
「お、早速魔物を発見しました! 出だしはよしよし」
見つけたのはウルフだ。
この初心者が行くようなダンジョンでは強い部類の魔物であり、わたしは戦いたくない。
つーか、わたしのようなへっぽこはなるべく戦いを避けるのだ。
もちろん、お金が稼げると判断したら魔法を使って倒す。
「ウルフは基本的に群れを成します。だけど単独、時々居ますよね。ああやって狩られやすいウルフ」
これだけでは挙動がおかしいとは言い難い。
さらなる調査のために尾行する事にした。
あ、臭い⋯⋯うん、わたしは死臭なら上手く嗅げるんだけど、体臭とか分からない。
水でも浴びる?
この変に水があるような場所はないか。
諦めた。
「ふむふむ。今のところ不自然なところはないですね」
他の魔物も調べるべきだろうか?
後々編集するし、一時間くらいはあの魔物に張り付いていよう。
土曜日って事もあり、来る人は多く居る。
副業の代わりにやる人だっているしね。
木の上に登って、他の人と鉢合わせない様にしよう。
ついでに邪眼の効果を強めて、ダンジョンを巡る魔力を確認する。
「魔力の流れは問題ないなさそうだな」
世界には見つかってないので、わたしが勝手に『ダンジョンコア』と呼んでいる中心核から魔力が全体に流れている。
その流れに異変は無い。
「ガセかな?」
それから一時間ウルフの行動を観察したが、特に問題はなかった。
「ウルフの生体調査なんて古臭くて意味ないし、死神探偵としても使い道がない。他の魔物を探すか」
次に見つけたのはゴブリンの群れだった。
「ようやく戦ってないゴブリンを見つけた」
観察観察。
どこかに向かっているのか、大勢で同じ方向に向かっている。
カメラに向かっての実況も忘れてはならない。
わたしは配信者なので、チャンネル登録者を増やすためにも魅せる動画を心掛けないと。
「これは不自然だね」
挙動がおかしいと言われている原因はこれか。
ゴブリンは10体くらいなら普通に群れを成したりする。
だが、それ以上となるとリーダー、まとめ役が必要になるのだ。
統率が取れる程にゴブリンには知能がないとされている。
だが、そんなリーダーのようなゴブリンはこのダンジョンは生まれず、だと言うのに十体以上のゴブリンで整列して同じ方向に歩いている。
逃げているのなら、焦っ様子があっても良いはずだ。
しかし、冷静に歩いている所を見ると、ただ純粋に移動しているように見える。
「これは黒だね。おかしい。死神探偵、本格始動だよ」
尾行する事にした。
地中を流れる魔力を見ながら追いかけていると、大きな魔力の塊を発見した。
あれが魔物を引き寄せている原因だと、すぐに分かる。
「魔物は魔力が高ければ高い程強くなる⋯⋯強い奴の庇護下に入って、力を貰いたいのかな」
探偵らしく考察する。
「しっかし⋯⋯あの魔力はこのダンジョンに居て良いレベルじゃないな。これはバグか」
『ダンジョンバグ』あるいは『イレギュラー』と呼ばれる現象。
誰もが知っているだろうその単語はお馴染みであり、本来そのダンジョンでは起こらないことが起こっていることを意味する。
⋯⋯ワクワクするね。
「やっぱり、ダンジョンの謎は面白い。今回のイレギュラーの原因も突き止めないとね」
魔力をここまで鮮明に見れる人をわたしは誰も知らない。
居ないって言う訳では無いと思うのだが、世間には出てないと思う。
だから、
経歴詐称とか普通にしてるけど。
「と、そろそろ元凶がお出ましだね」
魔力の塊が動き出した。
出て来たのは赤い鱗をしたドラゴンだった。
「ちょっと待って。あれはレッサードラゴンだと思うけど⋯⋯普通にここに居なくない? てか、初心者御用達のダンジョンでドラゴン居たらダメでしょ」
バグにしてもやり過ぎな気がする。
なんでこんなのがここでも生まれた?
もしかして『アイツら』が関係しているのか?
だったら、配信者の死神探偵として、紫菜々伊悪善としても調査する必要がある。
『ぐああああああ!』
ドラゴンが叫んで近寄って来た魔物を食べている。
食べた魔物の魔力を吸収している。
「強くなるために魔力を放出して、それに引き寄せられた魔物を食べているのか。中々に賢いな」
とまぉ、わたしではレッサードラゴンに勝てないので逃げるしかないのだが、もう少し観察して行こう。
あれ?
気のせいかな。
なんか、目が合っている気がするんだけど⋯⋯気のせいだよね?
だってさ、かなりの距離あるんだよ?
「あ⋯⋯」
ドラゴンの中を巡る魔力が目に集まってる。
遠くを見る系の
目に魔力を流して強化する技術⋯⋯かなり知能が高いな。
「って、まずいよね!」
気づかれてるなら即刻逃げますっと!
しかし、反応が遅かったのでブレスが飛んで来る。
容赦無しっ!
「⋯⋯仕方ないか。死神ちゃん、出番だよ!」
わたしがそう言うと、幽体離脱したかのようにわたしは第三者視点で自分の体を見る。
「我を見たら誰もが泣き、誰もが噂する。その名も⋯⋯死神ちゃんなり! ちゃんは相性で本名は死神だよ!」
スマホ片手に自撮りのように自己紹介する。
「レッサードラゴン風情が、我に届くと思うなよ! 死神ちゃん、パーンチ!」
恥ずかしいネーミングだ。
「と、顔見せはNGじゃった」
ブレスをパンチして粉砕し、風圧でフードが飛ばないように抑える。
「信者共、我の出番を待ち遠しにしていたことだろう。見よ、これが我の力じゃ!」
もう良いからさ、さっさとやってくんない?
あ、死神ちゃんがイラッとした目で見て来た。
「久しぶりの出番だからハイテンション、今までの分までハッスルしたいんじゃ! まぁだけど、かっこよく行きたいな」
スマホを置いて固定する。
これさ、ちゃんと映るよね?
「しょせんレッサー、されどドラゴン、その魂いただく! 来い、
虚空から、二つの大鎌が柄の部分でくっついたような、変わった形で使いにくそうな大鎌が出現する。
黒と白の刃であり、地と天を意味する。
「貴様に確実な死を押し付けてやる」
レッサードラゴンのブレス。
だがしかし、拳で弾く死神ちゃんには意味もなく、一瞬で肉薄する。
わたしは自分の体と一定範囲に収まってしまうので、一時的にその速度を体験出来るのだが、新幹線レベルに速いよ。
怖い。
「死ぬがよい。
黒い色をした刃の方をドラゴンに向けて死神ちゃんは呟いた。
魔法陣がドラゴンの上に出現し、巨大な黒い粒子の奔流が柱となりドラゴンを包み込む。
⋯⋯やばくね?
待って、少しは手加減して!
せめて塵は残してね!
「塵も残さず消し炭となれえええ!」
止めてええええええ!
レッサードラゴンの素材は高く売れるの!
それに、今回のバグの原因もまだ突き止めてないのに、全部消すの止めてええええ!
わたしの叫びは虚しく、死神ちゃんによって全て消された。
だから使いたくないんだよ、死神ちゃん。
過去の記憶もフラッシュバックするしさ。
「爽快なり!」
はぁ、説教しよ。
──
ついに登場死神ちゃん
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