第3話 わたしは別に優等生じゃないです

 『ヨクモダマシタナァ!』


 『ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ』


 『ニクイニクイ』


 『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙』


 「来るな、来るなあああ!」


 手で追い払おうとしても意味が無い。


 悪霊達の怨念がわたしに来て、当時の映像がフラッシュバックする。


 監禁され、何人もの男に囲まれ、暴力などなど、まともな食事も与えられない。


 最終的に死んだら、ダンジョンに投棄された。


 ダンジョンまで死体を運んだ事を考えると、ギルド内部に協力者と言うか共犯者が居ると思う。


 ダンジョンに死体を放置したら、魔物が食べるから証拠は残らない。


 組織でも良く使う手だと聞く。


 ギルドの半分は腐ってるって噂は本当かもね。


 『お母さん、怖かった』


 最後の被害者⋯⋯助けを呼んでも誰も助けてくれない。


 悪霊になりながらも、あんなに流暢に喋れるのはびっくりだ。


 「そんな。嘘でしょ、騙されていたの? 一年も、家族してたのに⋯⋯」


 一年?


 うわぁ、重なってる。


 とんだ詐欺師だな。


 「殺るならチャンスですよ。アナタ方が今ここで殺人と言う罪を犯しても、誰もそれを犯罪とは言わない。地獄の閻魔様も許してくれると思いますよ」


 わたしがそう火種を送ると、爆発した様に燃え上がり、カナエさんも悪霊となった。


 「なんでこうなるんだよ! ただ、遊び半分で依頼しただけなのに!」


 ほぉう?


 遊び半分か。


 そりゃあいけないな。


 ここは裏社会だぞ?


 ただの犯罪者程度が踏み入れて良い場所じゃないし、何よりも舐められた態度をされると地黒さんはブチギレる。


 逃げ出す依頼人。


 「何処に行くって言うんだよ」


 地黒さんが蹴飛ばして悪霊の元に行かせた。


 さすがは地黒さんだ。


 おっかない蹴りを繰り出している。


 「やめろ、くるなあああああ!」


 結局、悪霊達は依頼人を死に相対すると判断した用で、依頼人は死んだ。


 カピカピの骨に成ったので、相当な恨みだと思う。


 「悪霊は恨みが晴れると成仏する、少しだけ手伝いますね。わたしは『案内人』なので」


 この人達はただの被害者だ。


 地獄に行く必要は無い。


 元々悪霊じゃなかったカナエさんだけ残った。


 「カナエさん。わたしなら娘さんと同じ場所に逝かせる事ができます」


 「ほ、本当ですか?」


 「はい。あの世で娘さんと楽しく暮らして、輪廻転生を待つ事ができます。案内人であるわたしに依頼しますか? 娘の同じ場所に案内して欲しいと⋯⋯」


 「お願いします」


 即答⋯⋯だよね。


 わたしは両手を差し出す。


 カナエさんは両手を重ねる。


 「依頼料はアナタの魂半分です。転生に害は無いのでご安心ください。良い旅をボンボヤージュ


 結局、今回もクズな依頼者だったな。


 警察も全く動いてないだろう。


 この事件の被害者と加害者は闇に呑まれたのだ。


 「帰るか」


 「はい」


 「その、なんだ。今回は俺も悪かった。成功報酬って感じで受けてしまったから、報酬は無い」


 「⋯⋯そ、そうですか」


 べ、別に良いですし。


 ちゃんと案内人って言うかわたしの役目は果たせたと思っているので、全く問題ないですし!


 はぁ、本気で案内人わたしを求めている人はここまで辿り着かず、このような犯罪者クズ達は辿り着く。


 世の中は本当に不公平だと思う。


 「でも良かったのか? もしかしたら⋯⋯」


 「悪霊が取り付いたままでしたので、『奴ら』とは関係ないでしょう。関係あったとしても、目的に一歩近づいた事になります」


 「そうか」


 わたしは自分の家に帰り、ベットにダイブした。


 三分だけ睡眠は必要なので、寝た。


 起きて最新動画のコメント欄にいいね連打と確認を行う。


 「お?」


 それはとあるダンジョンで魔物の様子がおかしいと言うモノだった。


 冷やかしなら最悪だが、本当だった場合はすごく気になる。


 何よりも、わたし的にはどっちにしろ調査するべきだ。


 違うんだったら「騙さらたー」で終わりだからね。


 「これは明日、死神探偵の手番だね」


 わたしはダンジョン冒険系配信者、『死神探偵』である。


 主にダンジョンに関する謎を追い求める活動をしている。


 ま、さすがに学校があるので今すぐって訳にはいかないけどね。


 学校。


 「明日は土曜日、今日を乗り切れば楽園が待っている」


 校門を潜って進む。


 「おはよう紫菜々伊さん!」


 「あ、おは⋯⋯」


 我が親友氷室さんは他の友達の所へと向かってしまった。


 く、モブどもめ。


 あんたら氷室さんの『友達』であり、わたしは『親友』だからな?


 その辺をしっかりと理解したまえ。


 「ひむひむおっはー」


 「おはまる!」


 ⋯⋯普通の挨拶こそが親友の証である。


 五限目、わたしの苦手な化学の授業であり、移動教室と言う無駄を重ねる時間である。


 教室は南棟なのだが、化学室は北棟と言う真反対の場所にあるクソ設計の学園を強く憎む。


 貧血になったらどうするつもりだ。


 ま、貧血くらいならすぐに回復するこの体なんだけどね。


 「紫菜々伊さん一緒に行こ!」


 「あ、へへ、うん」


 あかん。


 キモイ笑みが自然に出てきまう。


 平常心、真顔をキープだ。


 「え、ひむひむ。紫菜々伊さんは一人で行きたいんじゃ⋯⋯」


 「え、そうなの? えっと、ごめん」


 「べ、別に、嫌、じゃない、⋯⋯です。って、言うか、うれ⋯⋯あた⋯⋯えっと」


 ⋯⋯わたしは逃亡した。


 氷室さんだけならともかく、その友達とも一緒とかはさすがに無理!


 ハードル高すぎるだろ!


 「結局いつも通り一番早くに移動して着いてしまった」


 後からぎゃあぎゃあ喋りながら来る連中を寝たフリアンド聞き耳で憎むしかないのか。


 憂鬱が気持ちになりながらスライドドアを開ける。


 「やぁ、紫菜々伊さん。おはよう」


 「おは、ます」


 メガネの地味系男子、クラスでも悪目立ちする様な見た目の化学の先生、七義ななぎ先生だ。


 「⋯⋯」


 わたしは自分の席へと座った。


 「紫菜々伊さんはいつも早いよね。授業に関心があって何よりだ」


 全く無い。


 ただ、誰かと合わせて行く必要性を感じないのと、そんな相手が居ないためだ。


 周りに合わせず我を通し、普通に行動していたら一番早いだけだ。


 ただ、その価値観を続けてしまうと、卒業式練習で一人だけ体育館に行き、みんなは整列して来るって言う事態に発展する可能性がある(中学時代の体験談)。


 椅子の位置のテープ貼り手伝わされたり、皆がぞろぞろ入って来るのを眺めたり。


 辛かったぜ。


 「紫菜々伊さんはどう思う? 人の部位を違う人の部位に取り付ける事をさ」


 人間の身体を観る人体模型をバラバラにして、組み立ながらそう言う七義先生。


 化学の先生がサイコパスだと色々と怖いし、見た目がそれにマッチしているので面白い。


 白衣暑そうだな。


 あと、七義先生。


 生徒と二人きりで気まづいのは分かりますが、それで話しかけるのは間違っていると思います。


 だって、なんて返事したら良いか分からないから。


 「再来週テストだけど、ちゃんと勉強してる」


 「は⋯⋯い」


 「関心関心」


 してる訳ねえええええええだろおおおおおおお!


 確かにここは有名私立で名門とまで呼ばれた凄い所だよ?


 だけどな、わたしみたいな人だって居るんだよ!


 目的が進学や就職じゃない人だって居るの!


 誰でも勉強するって勘違いしないで貰えますか?


 こっちは一夜漬けタイプなんだよ!


 だから凡ミスが多かったりするの!


 いつもテストの点数でヒヤヒヤするの!


 「だからね⋯⋯なんだよ」

 「なにそれやばー」


 くっ、ようやく他の連中が来たか。


 にしても、友達同士で来るのは悪いとは思わないけど、もう少し節度を守ったらどうだ?


 ぎゃあぎゃあうるさいんだよ。聞こえるんだよ。


 全く。どんな能天気野郎達なんだか。


 「それでね⋯⋯あ、七義先生おはようございます!」


 「はいおはよう」


 氷室さんだった!


 まじでごめんなさい!


 わ、わたしとした事がキチガイ共の声と氷室さんを間違えてしまうなんて。


 「紫菜々伊さんいつも早いね」


 「え、⋯⋯あ、うん」


 いきなり話しかけられると返事できません!


 わたしが逃亡してから数分経過していた事には目を瞑る事にした。




────

お読み下さりありがとうございます!

次も読んでくださると嬉しく思います。

応援よろしくお願いします。

次回、ようやく登場します

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