第12話 ヒーローは遅れてやって来る、あと一歩早ければ⋯⋯
「死神ちゃんはどんな人が犯人だと思う?」
登校中、わたしにしか見えない死神ちゃんに話しかける。
理由は、暇だから。
『さあね。被害者霊の記憶とかもいじられてたし、わかんないや』
犯人が被害者霊の記憶をいじっていなかったら、簡単に犯人特定に繋がった。
だけど、さすがにそこまで甘くはなかった。
大雑把な情報は消去できなかったらしいが、細々としたのは消去されていた。
細かいほど小さな記憶ほど、消しやすい。
襲われた時間帯は昼⋯⋯それしかわかってない。
「⋯⋯そうだ。今日の体育はバトミントンだ。わーい! 楽できる〜」
『万年ダブルス戦犯、ソロでは簡単突破できる良きカモ⋯⋯中学の記憶が蘇るのじゃ』
「⋯⋯」
べ、別に打ち返せない訳じゃない。
ただ、動くのがめんどくさいだけだしっ。
勘違いすんなしっ!
時は流れ。
「はは。わたしとしたことが、ついつい本気を出してしまった」
「見事に捻ったわね」
『面白かったのじゃ』
打ち返そうと身体を捻ったら、勢いが強すぎて足を捻るとは⋯⋯。
しかも脆かったのかなんなのか、あっさりと折れたし。
既に回復したけどさ。
その後、顔面にシャトルは炸裂するし、後ろのコートでやっていた人が手を滑らせて、頭にラケットは炸裂するし。
散々だ。
死神ちゃんがやってくれたらこんなことにならなかったのに⋯⋯。
『我は無意識で魔力を使って身体強化するからの〜教師にバレて成績が下がるのがいやーって、運動で我を拒んだのはそっちじゃろ。面白いから何も言わんが』
はは。乾いた笑い。
「⋯⋯風音先生、そのプラモはなんですか?」
「プラモじゃないわよ。粘土で作ってみたの。スカルドラゴン」
完成度が高すぎて笑いが出ない。
え、普通にカッコイイ。
「花以外にもこう言うの置いたら、色んなタイプの人が楽しめるでしょ?」
「保健室に群がる虫はわたし一人で十分ですよ」
「コラっ」
先生に優しく叩かれた。
「紫菜々伊さん、君は虫じゃない人間よ。尊く美しい人間なの。それを否定したら、両親が可哀想よ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい」
わたしの身体⋯⋯魂は二つ存在する。
わたしと死神ちゃんの二つ。
魂が二つ同じ身体に健在する生物をわたしは知らない。
混ざりあったり、裏表違ったりはあるけど、二つは無い。
そんな『普通』から外れ、これまた『普通』から外れた両親を持つわたしは、普通じゃないし⋯⋯人間なのかも怪しい。
死という概念は操れるけどわたしには無いし、傷もにも何もかも、数分あれば回復する。
ミキサーにされても、魂が無事なからどこでも一日で回復できる。
「わたしは、人間ですかね?」
「どこからどう見ても人間よ。虫には虫の生き方があり尊いの。絶対に下に見てはいけない。だから、君は人間なんだよ。虫じゃない」
「はい。ありがとうございます」
「うん。治ったら、次の授業に行こうね」
次はなんだっけ?
『古文』
「古文⋯⋯嫌いなのでもう少し寝てます」
「ダメよ」
こ、こうなったらまた足を折るしかない。
『自ら折るなら我は全力で止めるからな!』
死神ちゃんが全力で止めると言うなら、わたしにできることは抵抗として布団に包まることだろう。
これぞ、『行きたくない』の陣。
「紫菜々伊さん大丈夫!」
親友登場。
「だ、だい、ぶ」
「良かったぁ。先生心配してるし、行こ」
「あ、ん」
『陣崩れるの早っ!』
くっ、親友(氷室さん)には勝てない。
五限目、誰よりも早くぼっち街道を突き進むわたしは化学室に来ていた。
「あ、せ、い」
「ん? どうしたのかな?」
「えと、その、風音、先生に⋯⋯」
わたしは保健室に居た時に風音先生に昔の話を聞いてみた。
教師で、風音先生は去年からわたしが入学のタイミングから来ている人だ。
なので、事件の学校と何らかの関わりがあるかもしれないと思ったのだ。
結果は当たりであり、その時の情報で七義先生の名前が出た。
なので、その事実確認と言うか新たな情報を得るために質問しようとしている。
「あぁ。三年前、確かに同じ高校に居たよ。別段会話した事はなかったけど⋯⋯そう言えば、その時からだったね。生徒の行方不明が続出したのは」
七義先生の声がさらに曇った気がする。
いつも陰キャっぽい感じの先生でギャル集団にいじられている。
だけど、今の七義先生は怒りを表に出した人であり、陰キャの暗さってよりも、悪魔の黒さを感じる。
「いつ消えたか分からないし、警察も発見できていない。警察は使えない税金泥棒⋯⋯昔も今も、ね」
七義先生に取り付いている女性の霊が揺れ動いた。
『この先生も難儀じゃな。もしやコイツが犯人だったりして⋯⋯』
「死神ちゃん。そう言うのは良くないよ。見ての通り、七義先生は違う」
結局、その後七義先生は気分を害してしまったのか、何も喋ってはくれなかった。
普段の気まづさが三倍になった気がする。
『次はどうする?』
「どうするって⋯⋯この学校で調べれることは教師に質問して、学校のことを調べるしかない」
『そんなメンタルも時間も無いな』
こ、この子、今絶対に『メンタル』を強調して言ったよ!
わ、わたしそこまで人と喋れないコミュ障陰キャ地味系芋女じゃないし!
ネット世界でしかイキれない可哀想な部類の人間じゃないし!
『な、なぁ。我そこまで悲観的なこと述べたつもりはないのじゃが⋯⋯』
その時々見せる『じゃ』の語尾は必要ですか!
六限目、数学。
嵯峨根先生だ。
イケメンに群がる女子郡を遠目に眺めるわたしと、嵯峨根先生を睨む可哀想な男子諸君。
余裕を見せるカップルが蔓延るこの教室で、質問できる勇気なんてわたしにはなかった。
帰ります!
『今日は誘われなかったな』
「氷室さんは部活だよ。明日は土曜日、死神探偵が本格的に動くよ」
『何するんじゃ? 暴れることはできるのか?』
「できないしさせないよ」
確かに最初は、被害者霊一号の学び校に侵入して情報集めしようかと考えたさ。
だけどさ、侵入するなら死神ちゃんに代わる訳なんだよ。
すると、魔力を使っての身体強化が勝手にされる。
外壁に仕込まれている魔力センサーが警報を鳴らすに決まってる。
それに三年前の情報を物だけで集めるのは結構骨が折れる。
「なんで、あの人に頼ろうと思う。あの人の力なら侵入及び情報収集も容易だからね」
『力は力でも権力じゃな』
「ダンケンよりも早く犯人を捕らえたい。ダンケンよりもわたし達の方が優位なのは、襲われた時間帯を知っていること」
それを生かすための情報も必要だ。
ダンケンの方は誘拐された時間は昼か夜かもわかってない⋯⋯はずだからね。
逆に言えば、それしか優位性が無いんだけどさ。
『で、ここはどこだ?』
「最近リニューアルしたカフェだよ。氷室さんに誘われるかもしれないし、調査しておかないと」
『それって、最近リニューアルしたんだよ、一緒に行こって誘われて、新鮮さを一緒に味わうのが醍醐味なんじゃないのか?』
「粗相をしないようにするのも、大事なことだよ。死神ちゃんにはわからないよ」
『そ、そうかな?』
いざ、参る!
『なんですぐに閉じた?』
え、嘘でしょ。
なんで誰も『一人』じゃないの?
誰か一人くらいはソロでカフェに挑戦している勇者が居るもんじゃないの?
ソロユーザーはわたし、たった一人?
唯一無二のユーザーがわたしなのか?
⋯⋯い、いや。
死神ちゃんを含めれば二名なのでは?
『ついに頭が逝ったか』
「あのー入りたいんですけど」
「あ、す、すみま、⋯⋯あ」
三人グループの人達が入って行く。
⋯⋯チラシが目に入る。
フルーツ山盛りジャンボパフェ。
絶対に食べたい。
『言い訳が多いことで。そら、目的に向かって進め、我が信者よ!』
「信者じゃ無い!」
わたしは中に入った。
問題ない。
わたしは唯一無二のユーザーじゃないのだ!
「一名様でよろしいですか?」
「い、いえ、あ、後からも、もう一人⋯⋯」
「かしこまりました。ただいま大変混雑しております。少々お待ちしていただきますが、よろしいでしょうか?」
「は、はい」
よし、待とう。
『⋯⋯』
この日この瞬間、死神ちゃんの目は死んでいた。
新たな来店者。
「一名様でよろしいでしょうか?」
「はい」
「カウンター席でもよろしいでしょうか?」
「構いません」
「一名様入ります」
⋯⋯
一番隅っこの空席の席に座った。
二時間ほど待機して、来るのに数十分待って、来たよ。
わたしが求めた物が。
『別に食事は必要ないのに』
「幸福感はエネルギー回復に繋がるの。いただきます」
うん。
甘くて美味しい。
フルーツの酸味も相まって、スプーンが止まらん。
『⋯⋯』
「死神ちゃん交代」
『なぜじゃ? べ、別に必要ない。記憶は共有しているのじゃぞ? そ、それに、我は主が幸せそうな顔をしているなら満足じゃ』
「自分で経験してみないと、真の良さはわからないよ。死神ちゃんが幸せそうな顔をしないと、わたしが幸せそうな顔はできない」
『幸せそうだけどね』
ご満悦です。
交代した。
「んっ! 美味いな、コレ」
でしょ?
自分で味わってみないと、真の美味しいさはわからないんだよ。
せっかく自由に会話できるようになったんだからさ、自分の気持ちをたくさん教えてね。
わたしの半身でもあるんだからさ、死神ちゃんは。
「うん。これからは⋯⋯そうする」
尚、一個で二千円近くのモノである。
「ありがとうございました(あの人⋯⋯待ち合わせしてたんじゃなかったのかな?)」
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