第9話 死神探偵の本領発揮である

 今日も特に問題が起こすことなく、平和で平凡で退屈な学校生活を終えて、帰り支度をする。


 この時間、さっさと終わらせて帰る者も居れば、友達と会話しながらダラダラ準備する者、放課後デートの話をする者だっている。


 中にはわたしのように敢えてゆっくり準備をして、周りに聞き耳を立てている人だっているのだ。


 「紫菜々伊さん一緒に帰ろ〜」


 我が親友氷室さん、彼女は今日も元気だ。


 この回答は決まっている。


 「うん」だ。


 たったこの一言でいつもの下校が何億倍にも楽しくなること間違いなしの、魔法の言葉。


 さぁ、返事をしろ。


 短くても自分の想いや考えが伝わるんだ。


 「う⋯⋯」


 「ひむひむ、紫菜々伊さん困ってるでしょ。帰り道真逆なんだからさ」


 「あっそか。電車通学だもんね。それじゃ、また明日ね!」


 「⋯⋯ん」


 たった二文字の短い間で、「うん」の意味が変わってしまった。


 いや、本質的にはどちらも肯定を意味しているのだが、『一緒に帰る』から『道が違うから遠慮』になってしまった。


 氷室さんの『友達』は目ざとい。


 しっかりとわたしの帰り道を把握している。


 いや、来る道的に何で帰っているのかおおよそ分かるのか⋯⋯定期もさらけ出しているし。


 「帰ろ」


 『お、恒例行事が終わったか』


 死神ちゃんを後で絶対⋯⋯。


 家に帰ったらやることがある。


 それはなにか、とても単純だ。


 両親に「ただいま」を言う。


 霊相手なら普通に話せるのにな⋯⋯いや、人間相手にも普通に話してるけどね?


 「あ、そう言えば被害者霊もいたんだった」


 頭の人の体がダンジョンにあるかもしれないので、向かうことにしよう。


 だけど、どうしたモンかな。


 どこのダンジョンにあるのか良く分からないや。


 しかし、死神探偵としては絶対にやらないといけない。


 「行ってきます」


 ダンジョンで受付を通して、さっさとゲートに向かう。


 更衣室で防具を着替えたり武器をセットする人が居るけど、わたしはそんなの無い。


 『ねぇ、君高校生だよね? なんで普通に通れるの?』


 「ランクが高いから」


 適当に嘘を言う。


 わたしのランクはC、ぶっちゃけ真ん中だ。

 

 FからS、ラノベ基準である。


 組織の内通者の手によってわたしのランクはここまで上がっている。


 ちなみにランクが高いからと言っても、引率者が要らない訳では無い。


 問題事を起こすのを防ぐ目的もあるため、絶対に引率者が必要な法律がある。


 年齢詐称してますって言って、蘇生後に言いふらされても困る。


 「どこのダンジョンか分かりますか?」


 『な、なんとなくは』


 「なら良かった」


 死神ちゃんと違って心での会話ができないら、傍から見たら独り言だ。


 しっかりと小さな声で喋る。


 被害者霊と魂の繋がりを作る。


 これにより引っ張られるので、霊がイメージしたダンジョンに一緒に入れるのだ。


 「⋯⋯前回と同じ場所だ」


 『えっと、こっちから感じます』


 指を向けられたので、そっちに向かうことにしよう。


 と、その前にスマホのカメラを回す。


 フードをしっかり被る。


 ゴホン。


 「やっほー信者達、死神探偵だよ! 今日はニュースにもなっていた、とある作品を追ってみようと思います! SNSは見てくれたかな?」


 耳を澄ますポーズ。


 演出だからさ、そんな微妙な目でわたしを見ないで欲しい。


 知らない?


 死神探偵?


 そこそこチャンネル登録者居るし、結構バズるよ、わたしのチャンネル。


 霊とかの力借りてダンジョンの謎を解明しているからね。


 死神ちゃん様々。


 「さて、既にどんな作品かは知っている人が多いと思います! 知らない人、心臓の弱い人は今すぐ高評価押してブラウザバック! また次回の動画でお会いしましょう! それじゃ、今死神ちゃんレーダーが捉えた作品がありそうな場所に向けて、出発しんこーう!」


 『相変わらずの別人すぎて笑える』


 死神ちゃんの笑いは無視して霊が感じる自分の体の場所に向かう。


 道中襲って来る魔物は魔法で倒す。


 死神ちゃんにより、わたしの体内には大量の魔力と邪気が存在する。


 その内、一回で使える総量はそこまでないけどわたしは合わせることができる。


 一方死神ちゃんは一回で使える総量が沢山あり、混ぜることができない。


 死神ちゃんは魔力で身体強化、邪気で攻撃と使い分けている。


 わたしは魔法的な攻撃しかできない。


 なぜかって?


 身体強化して動くと気持ち悪くなるからだ。


 『あ、かなり近い』


 「そうみたいだね。魔物が森に入ってから居なくなった」


 あの作品の周りには魔物が居ない。


 「なんか森を探索していたら、全然魔物に遭遇しない! これはもしかして⋯⋯作品の影響かもっ!」


 『演技くさっ!』


 『び、びっくりした』


 死神ちゃんにはツッコまれ、被害者霊からは驚かれた。


 裏声を出すのがそんなに驚くかね?


 これでも配信者ってことを忘れないでいただきたい。


 「あ、ありました」


 作品⋯⋯相変わらず奇妙な形をしている。


 なんで全ての部位を使ってツボ型の何かを作っているのに、その部位は全部違い人間の物を使っているんだ?


 不思議だな。


 霊の方は死神ちゃんに回収してもらい、霊どうして話し合って、仲間になってもらう。


 わたしは死神探偵の仕事をしよう。


 「発見しました! 死神ちゃんレーダーに外れ無し!」


 それじゃ、早速調査している風を装いながら予測を垂れ流して行こう。


 ⋯⋯作品の中心部に呪力を感じるので、これは呪いの類も含まれている。


 この呪いが霊を繋ぎ止めており、魔物を引き寄せないようにしている結界でもあるようだ。


 「魔物が近寄らない原因はこの、中心部に描かれた魔法陣が影響しているようです。一体なんの魔法なんでしょうか!」


 『わかってるくせに』


 死神ちゃんのツッコミを華麗に無視して、調査を続行する。


 霊に関する話はしない。


 死神教団に目を付けられて、襲われるなら良いのだが、警戒されるのは困る。


 「魔物が寄らない範囲は半径200メートルと言ったところでしょうか。かなりの広範囲です。もしも魔物が居ないな? と思ったら近くにこの作品があるかもしれません!」


 次に目を向けるべきは⋯⋯使われている人達だろうか?


 「若々しい肌ですね。綺麗に整えられた形跡があり⋯⋯犯人がやったのかもしれませんが、オシャレに気を使う人達だったのかもしれません。女子高生だけだったり? これは判断が難しいですね」


 頭に使われているのも顔立ちが良かったりで⋯⋯本当にその通りかもしれない。


 過去の事件で女子高生が居なくなったモノを探してみよう。


 何かしらの手がかかりになるかも。


 「それと犯人は医師関係かもしれせん。この繋ぎ目で縫われている糸、これはプロです」


 小さい頃、組織で地黒さんに面倒を見てもらった時に負傷した人を何人も見てきた。


 そこでプロの縫い方を見たことあるので、間違いない。


 「しかも丁寧です。何よりも肌色が良いのに血痕が一切ない。血抜きされた形跡は無くわかりませんが、血は抜かれたと思います」


 血が一切なく、それなのに肌色が良い。


 「すぐに殺されたって訳では無いと思いますね。それにしては丁寧な処置がされている⋯⋯長年かけて集めて、それをダンジョンに放置⋯⋯無くならないように魔除けを施して⋯⋯」


 そこから導かれる答え⋯⋯。


 「犯人は目立ちがり屋? 敢えて目立ち、それを世間に広めようとしている? 証拠が残るように魔物に食べられないように魔除けをしている⋯⋯ってところでしょうか?」


 そんなわたしの推理を録画に残す。


 あとはネットで調べて色々と特定していく。


 犯人がわたしの住んでいる近くに居れば直接会うけど、違う場合は張り込む。


 そのためにももっと情報が欲しい。


 犯人が選ぶダンジョンとかね。


 「ここは中心部だから、中級冒険者レベルの実力はある⋯⋯」


 まぁ、来るよね。


 ダンケンの皆様。


 「何しているのかな?」


 「⋯⋯」


 「関わるのは止めなさい。それと⋯⋯どうして女子高生が独りなのかな?」


 前のダンケンとは違う。


 違う支部かな?


 「えと、その、お、御手洗です!」


 わたしは走って逃げて、家に帰り編集して、公表した。


 高評価がうなぎ登り。


 あ、もちろん被害者霊は回収している。


 二人とも元女子高生らしい。


 『それで、これからどうするのじゃ?』


 「今日じっくり観察して手に入れた情報を元に、ここで調べてみるよ。まずは被害者候補を洗い出す。被害者二人はここにいてきちんと自分の名前とかは把握してるからね。過去の事件を漁って見つけれたら⋯⋯殺された時期は分かる」


 『霊と協力して犯人を追い詰める⋯⋯死神探偵の本領発揮か』


 「うん。それじゃ、いっちょやりますか」

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