第18話 問題が発生したよ
依頼人がバンバン魔物を倒してしまうので、死神ちゃんが少しばかり不満げである。
「吹雪いて来たな⋯⋯」
地黒さんが呟いた通り、雪が降り始め、その勢いは徐々に強くなっていた。
身体が冷えて動かなくなる事はわたしはないが、他の二人は違う。
依頼人は血を高速で動かして、体温を上げれば大丈夫かもしれない。
帰るにしても、この吹雪だとさすがに方向感覚が狂って、ゲートの方に戻れない。
どこか休めそうな場所を探すか。あるいは⋯⋯。
『暇じゃあ』
死神ちゃんのだるそうな叫びを無視しする。
「⋯⋯ッ!」
背後から強烈な殺気を感じて、わたし達は当時に背後を見る。
「大きいな」
巨大な赤い毛皮をしたイエティ⋯⋯5メートルはすると思う。
こんな魔物⋯⋯このレベルのダンジョンには居ない。
なぜなら、コイツから感じるエネルギーの量はレッサードラゴンを超える。
あ、イエティの隣に刀を持ったおじさんの霊が居るわ。
彼がきっと師匠なんだろうな。
なんか共鳴している感じがする。
さて、どうするかな。
「まずはアレをどうにかしないと」
『我の出番か! 我の出番か!』
どうしよう?
多分、依頼人が動くよね。
「私が行くよ!」
長ドスを抜いて、イエティに一瞬で接近した。
高速の斬撃で攻撃し、相手にダメージを与える。
すると、斬られた場所から再生して行く。
「再生能力か」
『我が戦いたい〜もう退屈なのじゃ〜!』
いや、このまま観察する事にする。
依頼人はイエティの攻撃を髪一重で躱し、血を長ドスの中に仕込まれていたパイプに流した。
それにより刀身が紅く発光する。
「はああああ!」
先程よりも速い攻撃だ。鋭さも上がっている。
だけど、イエティの再生能力を上回る事はできず、さらに言えばイエティの再生能力が上がっている。
同時に吹雪の勢いも強くなっている。
「この吹雪が奴の力を上げているのか」
イエティのスピードも速くなり、依頼人のスピードに追いつき始めた。
髪一重で避けて反撃していた依頼人も、余裕がなくなりある程度の余裕を持って躱していた。
そのため、反撃に動ける余力がないように見える。
「くっ」
イエティは氷魔法を使用して依頼人をさらに追い詰めていく。
相手の魔法の飛ばす系の攻撃は砕いているが、それ以外は避けている。
凍らせる魔法、わたしが得意とする魔法だが、イエティは相手の行動範囲を狭める為に使用している。
体力を削って追い詰める気なのか、イエティはその内に秘めているエネルギーよりも動きは激しくない。
ただ、依頼人に体力の概念があるかは不明だけどね。
「うぅ。なんか、目が霞むな」
盲目の依頼人がそんな事を呟く。
ふむ。
結構ピンチ?
「今回はイレギュラーか。俺も出よう」
お、地黒さんが動くのか。
珍しい。
地黒さんが魔力を解放する。
魔力には属性が存在する。
全てが判明している訳では無いので、一概にコレと言えるモノは無いけどね。
地黒さんの属性は『龍』だ。
「ふんっ!」
手足だけが龍の如く鱗に纏われたモノとなる。
半分の実力も解放してない地黒さんだが、この状態だけでも死神ちゃんと対等に渡り合える。
死神ちゃんと地黒さんの全力だと、勝負はつかない。
なぜなら、死神ちゃんを倒す方法は地黒さんにないし、死神ちゃんの力だと地黒さんは倒せない。
ま、戦う状況にはならないと思うけどね。
「龍波動!」
波動により氷を粉砕し、イエティに肉薄した地黒さん。
魔力を拳に纏わせて、強度を上げてイエティの腹に食い込ませる程の勢いで殴った。
吹き飛ぶイエティは体勢を直して、走る。
『ついに全力を出して来たな』
イエティが本気で動き出した。
「すまぬね。手助けを願う」
「問題ない」
依頼人のスピードに合わせて地黒さんが動く。
『グオオオオオ!』
イエティが白いオーラを身体が放ち、拳を突き出す。
その衝撃波はわたしを軽く浮かした。
「ちょっと楽しいかも⋯⋯」
『迷子になるからきちんと身体を止めなさいな』
死神ちゃんにド正論を言われたので、氷の魔法で身体を固定しておく。
地黒さんがイエティの攻撃を受け流し、その間に依頼人が高速の斬撃を浴びせる。
「再生能力がある限り倒せん。この吹雪が原因だろう。少しだけ火を出す」
おっと。
これはまずい事になったぞ。
何がまずいかと言うと、地黒さんの口から出す火は絶対に少しではすまないからだ。
「死神ちゃん、少しだけ距離を離して」
『へいへい』
死神ちゃんに切り替わり、依頼人を抱えて少しだけ距離を取った。
「き、君力持ちだね」
「集中しなさい」
「は、はい」
地黒さんが口から火を出して辺り一帯を焼き野原に変えた。
瞬時に依頼人を投げ飛ばす。
「せりゃ!」
再び斬撃の雨でイエティのダメージを加速させる。
『グオオオオオ!』
依頼人の動きに合わせて動くイエティ。
当然、その攻撃を避ける依頼人だが、予期せぬ事態に発展した。
遠くから大きな岩が出現し、依頼人の行動範囲を狭めた。
結果として、イエティの攻撃を諸に受けてしまった。
新手か。
でも、バグではなく普通のイエティか。
死神ちゃん、その辺暴れて良いよ。
「よし来た!」
わたしは地黒さん達の戦いを再び観察する。
「ふっ!」
炎を纏わせた拳をイエティに叩き込む、イエティは防御体勢を取った。
焼け跡は再生しないようだ。
弱点は火、通常のイエティとは変わらないけど、再生能力を阻害する効果もあるのか。
素の力が強力な分、弱点も普通のイエティよりも顕著に出やすいらしいな。
「はああああああ!」
高速の斬撃がさらに速度を増した。
イエティの攻撃を地黒さんが全力で受け止めている。
あ、血だ。
地黒さんが少しだけ血を出していた。
二人が加速しているので気づかなかったが、イエティが加速している。
地黒さん大丈夫⋯⋯だね。
心配するだけ無駄か。
地黒さんがダメージを受けている様には見えないけどね。
「あと、ちょっと。もっと、速く」
『グオオオオ!』
魔力を集中させて地黒さんを襲う。
防ぐが、軽くその血が依頼人の口に入った。
⋯⋯あ、やばい。
これは本当にやばい。
正直、今回のバグも普通の冒険者達なら危険だったと思う。
だけど、わたし達のような存在からしたら別段問題ないの無い相手だ。
それでもすぐにイエティを倒さないのは、依頼人を気遣ってだ。
下手に力を使って危害を与える訳にもいかない。
だって、六十万よ?
⋯⋯それで何がやばいかと言うと、依頼人が『人間』の血を飲んでしまった事だ。
このまま地道にやっていけばイエティは普通に倒せていたと思う。
こりゃあまずいな。
「ふひ。あははははは!」
依頼人が笑いだし、イエティは隙だらけの依頼人に向かって拳を伸ばす。
だが、その拳は届く事は無く切り裂かれる。
「⋯⋯」
地黒さんも警戒する程に上昇したスピードの斬撃である。
『グオ?』
イエティが切断された腕が再生されない事に疑問を持つ。
「腐食属性か。アンデッドらしい属性だな」
死神ちゃん終わったの?
「ああ。それにしても⋯⋯かなりの魔力量だな。これが真の力か」
制御できない力を真の力って言うのかね?
依頼人の背中から翼が生えて、目を隠していた布が解かれた。
その瞳には赤い瞳が浮かんでいる。
開眼した?
「元々盲目じゃない可能性は?」
それはないと思うけどね。
目の方に魔力行ってなかったから、機能してないと思うし。
「ひ、ひゃ」
赤い無数の斬撃がイエティを粉々にする。
先程までは切断もできなかったのに⋯⋯。
それだけ解放した力が強いのだろう。
「なんだあれ?」
「地黒じいさん気づいてなかったの?」
「死神か」
「依頼人、あの人は
傷も完全に再生している。
再生能力、破壊力が上がっている。
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