第16話 説明書が説明になっていない

「では、午前中にコピーしておいたオウトツの神器を解析していくことにする」

「これが僕らが使っている解析用のレリックで、アナライザって言うんだ」


 ん?あれ?レリックで神器を解析している……。

「あの……すみません。アナライザの神器版は無いのですか?」

「ない」

「ない?」


 チェレステは簡単な言葉で否定してきた……。


「未だにアナライザの機能を持つ神器は見付かっておらん」

「だから、研究が遅々として進まないんですね」

「それなんだよ。一応これでも刻まれてる魔術式は確認できる。

でも、その先で正しい文言に復号できなくて詰んでいるんだ」


 それが一〇〇年の成果と。

 どうしようもないな。

 これじゃ発展性を期待できる文明とは言えないじゃないか。


「一応、分析された魔術式を再現して別の器に入れてみたこともあるんだ」

「ことごとく機能はしなかったのであります」

「でしょうね」

「だが!」


 マリモが変な躍りをしながら僕を指差してきた。

「君の神器が世界を変える……かもしれない」


 割と気持ち悪いくねくねしたダンスに思考が停止しているが、だいたいみんな同じ反応だ。

 その動きは何だというツッコミをすることすら面倒くさい。

 全員が見飽きるほどにこのキモい動きをしているのだ、


 いや待てよ、僕の神器が……世界を変える?

 これ攻撃用のビームが出るだけのアメコミ的な神器じゃないのか?


「君は気づいているだろうか。神器とレリックの違いについて……」

「神器とレリックの違いですか?

そうですね、今まで聞いている内容からだと、魔術式の書き込みが違う事、レリックは人が作り、神器は四神からもたらされることくらいでしょうか」

「それだけではないが、まぁ現時点で君に明かせるのはもう一点だけじゃな」


 もう一点だけということは、その他の情報にセキュリティクリアランスが掛けられているという事。

 まだそれを教えてもらえるまでに、信用は得られていないということなのだ。


「名前なんじゃよ。一番の違いは」

「名前ですか」


 意外な切り口だが、ジャンルが異なる製品で命名規則が違うのはありえなくはない。

 Windowsは数字だの年代だの割と不規則だったり、MacOSは数字とは別に動物の名前や自然公園などシリーズ名を付けているからだ。


「神器だろうと普通は手に入れた人間が名前を付けたりするんじゃないのか?」

「レリックは過去の偉人たちが作り上げた製品であり、元々この国にあった過去の言語で名前がついておる。

今まで見つかった神器には、すべて日本語で説明書が付いており、そこの製品名も示されている。

名前は基本的に数文字の漢字のみが使われておった」

「隊長たちが持っている捕縛レリックの『チェイン』や『アナライザ』などと、神器である『複製者』などでありますな。

神器であることを隠すために『シアー』、透き通った物質と名付けたでありますが」


 確かにそう言われると名前には結構特徴があるようだ。


「そして、その二つの特徴が含まれている神器が初めて見つかった。

君の『マルチ眼鏡』だよ。

漢字カナ混じり神器というのは今まで確認はされていない。

これは世紀の発見になりうるというわけさ」


 そう言い切るやいなや、マリモは部屋の奥においてあった黒板に高速で板書しつつ、自分の考えた考察ポイントを早口で語りだした。


 要約すると、マルチ眼鏡は攻撃だけの神器ではなく、色々使える神器であるという事、レリックと神器の両方の性質を持つ可能性ある事、他の神器の説明書に比べ簡素で初期の作品である可能性、機能制限が緩い可能性がある事等々の仮説を力説された。


「マリモ先輩は一回話し始めると長いんでありますよ。

しかし、しゃべっている仮説自体はお借りした説明書からラボメンで考察したあらゆる可能性であります」

「それを一つ一つ試すのが、僕がここにいる理由と言うわけだね」

「そういうことであります」


 ようやく落ち着いたマリモから説明書を取り返し、隅から隅まで読み直してみることにした。


「実はこれあんまり読んでなかったんですよね……ちょっと読み直してみます」


 そう、彼らの話を聞いたことで、普通に読んだら分からない違和感に気付けるかもしれない。

 ──駄目だなんだこれ。大学生が作ったパワーポイントかよ。


 子供が描いたみたいな雑なポンチ絵だし、使い方の説明が曖昧過ぎるし、『ダイアルで色を選択』と書いているけど実物はスライダーだったし、『工夫しだいで色々できる!』じゃあないよ。

 その『色々できる』の部分を書くべきだろう。

 ……いや、逆に考えろ。

 これこそがマリモ達の言った機能制限の緩さ、そして世界を変える可能性なのだろう。


「ざっと見た感じ先ほどの考察が現実味を帯びてきました」

「そうだろうそうだろう」


 念のためではあるが、他の神器の説明書も見せてもらうことにした。

 自分が見たことがある、シアーこと『複製者』と部屋に入った時の雪の神器『隠蔽者』だけ閲覧の許可が下りた。


 まずはシアーの説明書から読んでいくことにする。

 複製者は本体下部に液体をためるタンクがあり、自然のマナを吸収して液体を生成する。

 土台を液面に浸し、スキャンしたものを積層させることでコピー品を作成する。

 土台に乗るサイズで出力されるため、大きな物を複製するとミニサイズで複製される。

 逆に小さいものを大きく出力することも可能。

 内包する魔術式もコピーするため、コピー元と全く同じ機能が使える。

 ただし、耐久性は本物には劣るため大きな魔力を注ぎすぎないこと等が書かれている。

 イラストも細かく書いてあり、家電の取説並みに詳細に書かれていた。


 次に隠蔽者の説明書を読んでいく。

 ・使用者の魔力を消費することで、目くらまし用の映像を発生させる

 ・範囲を広げるほど魔力消費は大きい

 ・中心のダイアルで範囲を決めることができる

 ・範囲は半径五メートルから一五〇メートルまで

 ・付属の指輪を持たせることで視界が遮られない


 ──毛色が違いすぎる。

 三種類の神器は同一人物が用意したとは思えないほど多彩だ。

 いや、待てよ。俺はこれまでに二人の神と会話した。

 一人は能天気でつかみどころのない女神のオーバ。

 もう一人は割かしカッチリしてるが、たまに子供みたいになるウェリ。

 まだ見ぬ神ティア。


「アタチを忘れないでください!」

 脳内に新たな神の声がこだまする。


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