第33話 ノインとポルフ

「ここでありますよぉ~。ノインちゃんの明日からの職場であります」

「初めまして~。よろしくお願いします」


 天使がそこにいた。

 始めてくる場所だからと、決めすぎない程度にいい衣装でめかし込んできたのだろう。

 ヤマブキの名に恥じない赤みがかった黄色のボブカット、それと赤いなんだこれ……薄くて揺れる角みたいなもの、白いワンピースにモスグリーンのカーディガン、その手には大き目のトランクとつば広の帽子を手にもっていた。


 言葉にならないまるで絵にかいたような美しさ……それでいて一五〇センチ強と言う小さな彼女が、まるで母のように見えた。


「オウトツ、これオウトツ。しっかりせい」

「おーい、オウトツ殿~どうしたでありますか」

      あ~、結婚してぇ……ハッ……、お久しぶりです、ってほどの期間も開いてないですね。

ノインさん、ようこそラボへ」


 踏みとどまれていたはずだ。

 ボクは取り乱してなどいない。

 なんかカスミちゃんの機嫌がちょっと悪いけど大丈夫だったはずだ。

 多分。


「ノインさんはここで研究のお仕事をすることに了承したから、来てくれたってことでいいんですよね?」

「え?カスミちゃんからは、『ノクリアくんが大事な話をするから来てほしい』って言われていたから、てっきりプロポーズされるのかなって思っておめかししてきたんだけど?」


 んんんんんんん~~~~~~。

 可愛すぎる、と言うかプロポーズ?

 そんな話はしてないはずだけど、妄想爆裂にも程がああああ。


「それって、プロポーズしたら受けてくれるってことですか?」

「うん。そのつもりが無ければわざわざ特急馬車で来たりなんかしないよ」

「……スゥー……心の準備ができるまで待ってください」

「はい、お待ちしています」

「ちょっと待つであります。その婚約待つであります」


 結局その時はグダグダになったから、昼食後改めてラボのメンバーとノイン、ポルフの顔合わせをすることになった。

 あと、神器の研究に数学の力が必要なら、数学の地位向上のためにも是非手伝わせて欲しいということで、僕たちと同じ特別三尉として軍属になることを了承してくれた。

 さて、本格的に研究に参加するまでに落ち着かないとな。



 翌日、今日はポルフをアイゼンバーグ隊の訓練に参加させる日だ。

 一応まだ監視中で女性寮に近いボクがエスコート役に選ばれた。

 ボクはアイゼンバーグ隊の装備と、ポルフの希望した武器であるコンバットナイフ及び投げナイフとそれ用のレッグホルスターを寮の部屋に届けに来たのだ。


 ドアをコンコンと軽くノックする。

 ポルフが男っぽいとはとは言え、女性の部屋だからノックは欠かせない。

「は~い、お待ちくださ~い」


 ルームメイトの女性だろうか、ポルフとは違う高めの声が聞こえてきた。

 パタパタと足音が聞こえてドアが開かれた。

 一般隊士の服を着たノインさんだった。


「あ、えっと、おはようございます」

「あ~、今日はきっちりとした騎士さんの服だね。かっこいいね」

「はい、これから訓練ですので。ところで、ポルフはいますか?」

「あ、ポルフちゃん?ちょっと待ってね」

「あ、いえ。彼女は今から所属部隊の演習なので、一般隊士服からこちらの隊服に着替えてきてもらうように伝えてください」


 それから約一〇分、部屋の前で待っているとようやくポルフが出てきた。

 昨日までの男勝りなぼさぼさ髪ではない、少しストレート気味な髪を大き目のみつあみにして後ろで一本にまとめていた。


「よぉ、待たせたな……。俺はそのままで良いって言ったんだが、ノイン……さんが『女の子なんだからちょっとは可愛くしないと』って無理矢理な」

「相変わらずのお節介焼きで安心しますね」

「あぁ、まさか俺の毛がこんなにサラッさらになるとは。

すごいな、あのトリマーって言うアーティファクトは。

ザンバラの髪も整えてサラッさらになったぜ」

「彼女、そんなものを持っていたんですね。

いいじゃないですか、綺麗にしたからポルフもちゃんとして大人の女性に見えますよ」


 ちょっと恥じらいながらポルフが尋ねてきた。


「俺ってそこそこ女っぽいの見た目してのか」

「そうですね。私はそう思いますよ」

「そうか、お前がそういうなら……これからは気を付ける」

「えぇ、服装や髪が乱れてると精神衛生にもよくないですから」

「そういう意味じゃねぇよ」


 訓練場ではもうアイゼンバーグ隊の訓練が行われていた。

 ここからの流れは大体知っているが、ポルフには何も伝えていない。


「アイゼンバーグ隊長、新任のポルフを連れてきました」

「お久しぶりですポルフさん。

今回はあなたの戦闘能力を買って、本来の採用プロセスとは違う特別ルートで一般隊士からではなく、いきなりの隊配属となりました」

「ポルフだ。よろしくなって言ってもみんな知っているよな」

「まぁ、あの頃はそんなに紅くなかったですけどね」

「貴方は敵を傷つける技術にはけていることがわかっています。

それは逮捕の一助となるでしょう」


 そういってアイゼンバーグ隊長は剣を持ったままポルフに近づく。

 殺気を一切見せないように、あくまでも帯刀していると言う設定で。


「でも、アナタは近日迄カードも復活も持っていませんでした。

だからこそ経験できていないものがあります」


 その直後に金属音が響く。

 アイゼンバーグ隊長の剣を、コンバットナイフでポルフが抑えている。

 剣の加速前とは言えよくこの短いナイフで止められたものだ。

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