第11話 カスミ特別三尉
夕食前に男性隊員がやってきて、腰縄に繋がれる。
そのまま夕食と入浴(男性隊員に腰縄で結ばれてのサウナであった)が終わると、セシュとセレーネの部屋に移送された。
二人が戻ったタイミングで外から鍵がかけられ、腰縄が外される。
部屋の中には隊長格が二人、部屋の外には夜警の隊員、近くの部屋も隊長格で占められており、仮に何かあれば即時討伐されて、来月の復活の日を暗い牢で待つことになる……らしい。
「それにしても、何故女性隊長の部屋なんですか?男性の部屋でも良かったのでは?」
「それはアイビー隊長の管轄で捕縛されたからですね。この行政区の騎士団は……地図で言うとここの当たり。西南部分の南半分が管轄です」
出された地図をよく見ると、ゲームコントローラーのような形の大陸が描かれていた。
最初にいた集落を持ち手の先端くらい(鹿児島で言うと枕崎だろうか)とすると、ここは左スティックとの中間(鹿児島市)くらいの位置になる。
そのほか、大きな行政区はだいたい各ボタンの位置に数個点在している。
完全な左右対称ではないが、西側が人間がメインで住む王国、中央の山岳地帯を挟んで東側が魔王領となっているようだ。
「元々は貴族領だったのですが、議会制への移行で行政区になってます。
各々の行政区の間に中小の集落が点在しているので、そこにも数人ずつ交代制で勤務しています。
通信用のアーティファクトも行政区の各拠点と、集落の駐在所と集会所にそれぞれある感じですね」
「それで、管轄内の事件の被疑者や参考人は、まずその隊が責任をもって調査し、報告をあげることになっている。
故に今回の調査は、隣の集落の捜査に当たったセレーネ隊長率いるアイゼンバーグ隊と貴殿の集落の調査をしたアイビー隊の合同調査と相成ったわけだ」
「赤の盗賊団は他の集落にも攻撃を分散させていたんです。
それで、援軍が先に連絡のあった集落に集中し、貴方のいた場所には少数しか手が回らなかった。
今回の敵には頭の回る指揮官でもいるのでしょうか」
通信があることの穴をついた陽動作戦か……。
騎士団に詳しいものがいるのだろうな。
「逃げたな犯人については、アルカさんとサリオさんが追ってますから、二、三日で特定はされると思います。
その後の調査等々含めて奪還は来月の上旬くらいから討伐などの対応になるでしょうね」
「作戦まで、貴殿は神器の研究などに付き合っていただく手筈となっている」
「研究はどちらで?」
「この建物の隣に研究所がある。そろそろ消灯の時間だから詳しくは明日だな」
廊下から大きな声で”消灯!”と聞こえてくる。セレーネ隊長は部屋についているランプの灯を消し、室内が暗くなる。
「起床はレイゴーサンマルだ。寝ておかないと明日がきついぞ」
「おやすみなさ~い」
五時半は早くないか……急いで寝ておこう。
こっちに来て初めてゆっくり休めるタイミングだ、疲れのせいもあり粗末なベッドでも一瞬で眠った。
けたたましいラッパの音が聞こえ、布団から飛び起きた。
アイビー隊長とセレーネ隊長は、既に鎧以外の隊服への着替えが済んでおり、ベッドを片付けている最中だった。
「おはようございます。変態さん。随分と寝坊助さんですね」
「前職は九時始業の二七時終了だったもので朝は弱いんれす」
「いや、それはまともな仕事なのか……?」
「まともではないけど、あの業界では割と普通の事でしたね」
そういえば自分の着替えはない。まずは布団をたたんで部屋の片隅に寄せておく。
「あの着替え持ってないですけど、どうすればいいですかね?」
「あとで手配しておく。取り敢えずは食堂で朝食だ」
夕食時にも思ったが、ここの食事はちょっとした博打だ。
最初に用意されているパンを好きな個数トレイにとり、おかずの列に並ぶ自衛隊スタイル。
遅れれば遅れるほどパンは減るし、前に取った人が最初に盛りすぎると好きなおかずも雀の涙となる。
が、追加で新しいおかずが来るので、そっちの方がよかったとなることもある。
しかし、ちょっとしか盛らずに足りなくなっても二度並びは禁止、お残しも禁止だ。
「分かりました。行きましょう」
……今日の順番は中盤から後半だった。
腹が減っているが、順番待ちをしなければならないこれは明日からはもっと早くに起きなければならないな。
今日はセレーネ隊長と腰縄でつながれての朝食となる。
俺は拳より小さめのパンを2個取った。バターは取り放題なのがうれしい。
仮に取り足りなくても、カロリーを油で補充できる。
セレーネ隊長はパン10個だった。
どこにそれだけ入るんだ……。
それだけ食ってほっそりしてるのもはや反則だが、訓練している騎士だからこその消費カロリーなのだろうか。
食事が終わり、手配されていた隊服に着替える。
「この腕章を使ってくれ。保護した一般人や事件被害者家族等が騎士団隊舎内で歩き回る際に必要となる」
「私たちは通常業務がありますので、ここからは軍備研究科のビロードさんに交代します」
「ご紹介に預かりました。カスミ=ビロード特別三尉であります。カスミと呼んでいただけると気が楽であります」
「初めまして……えっと……カスミ君?」
まるで少年のような緑髪の隊士に屈んで挨拶をする。
「失礼でありますな!小官は歴とした女の子であります!」
緑髪の少年にしか見えないショタショタ少女は可愛らしくぴょこぴょこ跳ねながら抗議する。
狙ってやっているなら相当にあざとい。
「それは失礼いたしました。カスミさん、よろしくお願いします」
「任されたであります。それでは研究塔へご案内であります」
聞けばカスミさんはいわゆるガジェットオタクで、偶然手にした神器をいじり倒していたところ世紀の発見をしたらしい。
詳細は研究塔外では話せないらしいが、その功績によって特別に三尉として勤めることになったとか。
正確にはラガーンなどのならず者誘拐される危険からの保護だろうな。
「若干ハタチにして三尉は大躍進なのであります。研究職での採用なので訓練も免除!朝から夜まで神器弄りまくりの天国でありますよ」
スキップしながら歩く姿は本当に子どもにしか見えない。
すれ違う隊員からも、「カスミちゃん今日もかわいいね~」「お仕事頑張ってね~」などとまるでマスコット扱いだ。
隊舎の階段を上がって屋上に出ると、そこに研究棟の入り口があった。
奥行きのあるコンクリート造の部屋の入り口には、巨大な木の門が建てつけてあり、とてもではないが二人で開けるのは難しそうだ。
「ここが我々の象牙の塔。……コンクリート造ではありますが、知の研究を行う場はそのように呼称するのが習わしであります。研究施設へようこそ」
……人が通れる程度の小さな木戸が取り付けられていた。
日本のお城みたいに通用門があったのか。
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