第13話 ラボメンバーとの邂逅
自己紹介をしながら、記憶喪失などについても話した。
復活の日は体験したが、あれの原理が意味不明なため色々聞いておきたかったのだ。
「お、そうか君は復活の仕組みを知らんのか。
原則としては単純だ。復活できるのは四神に認められた種族だけだ」
「認められた種族ですか、具体的には?」
「俺たちと同じ言葉が使え、『カード』を持っていることだな。
魚や動物、虫、植物などのオーバ様達と言葉を交わせない種族は除外されている。
そして、復活できる者たちのことを我々は人類とまとめて呼んでおる。
エルフやオーク、セイレーン、ケットシー、ドワーフ、ヒト族などなども、もちろん復活できるので人類だ」
「つまり、僕が殺したゴブリンも」
「もちろん人類として認識されている」
何ということだ、モンスターを倒したと思ったらあれが人生で最初の殺人だったとは。
それも三人連続だ。
「しかし、気にやむことは無いぞ。
この国では死を経験したことの無い者の方が少ない。
大抵の場合、大怪我をしたら安楽死の投薬で"復活の日"まで寝ておる。
それがこの世界での重症の治療だからな」
そう話すのはチェレステさん。ドワーフとエルフのミックスらしい。
トクサ──カスミさんのラボネーム──は、バンブーエルフとケットシー、ヒト族のクォーターと言う複雑な血筋を持つのだとか。
セキュリティのため外部で僕とラボ以外の業務で関わらない編人達はラボネームでのみの挨拶となった。
魔術への知識や興味という意味で、なんだかんだドワーフやエルフ等の元々レリックを作っていた種族の末裔が多いとのこと。
「死に慣れているといってもまぁ、ほとんどの人は薬で痛みもなくぽっくりが多いんだ。
ラガーンや騎士団などでないと外傷での死に慣れているといったことはないだろうね」
「僕たちは免除されているけど、ブートキャンプだと三割くらいはキャンプ終了前に訓練死してるらしいであります。
研究職の我々は、過酷な訓練を免除されて助かったであります」
「さてさて、全員と顔合わせも済んだことだし、本題に行くとしようか」
「その前に、グラスキー殿のラボネームも決めるでありますよ。
これから記録や論文に描くときに必要になりますし」
「おぉ、そうじゃった。さてさて、ノクリア殿。どうされますかな」
いきなりラボネームを決めろと言われても、ノクリア自体元の名前である十郎丸三郎太と一文字もかすらない。
そもそも違和感しかないネームなのだ。
「ノクリアのままは駄目なんですよね」
「あぁ、それでは個人名を隠すことができないからね」
そういえば、アイビーさんがノクリアってところに引っかかってたな。
他の人もチェレステ──これは自転車のビアンキのカラーだったな──とか、トキワ……これも緑系の色だったか。
色に関わってるようなラボネームが多いから、まぁ透明になぞらえてこれでどうだろうか。
「『レンズ』でどうでしょうか」
「確か魔王領にレンズ博士がおったな」
「では、『オウトツ』でお願いします。
眼鏡のレンズに凹レンズと凸レンズがあるのでそこから」
「レンズの種類か……。オウトツか。良い名前だな」
「はい、なかなか良い名前であります」
良かった……のか?まぁいいや。
ここで協力している限り衣食住は保証されたようなもの。
異世界に来て一番難しいのは、身分証明だ。
大抵冒険者ギルドなど後ろ盾になってくれるが、戦闘スキルもないのにそういうところに頼れるほど甘いものではないはずだ。
働くなら誰でも良いってレベルまで文明が困窮しているのに、酒や飯は溢れる程にあるなんてそれこそ物語の世界だ。
「ではラボメンとして、最初の仕事だ」
チェレステから異世界ガイドを渡される。
「異世界ってなんだ?」
やっと築いたはずの衣食住……この問答次第では壊れかねない……。
「その前に皆さんは異世界についてどう思いますか?」
「山岳部を離れてこっちに来た時は、まさに異世界って感じだったな」
「それは別世界って言うんだよ。アレだろ、パラレルワールドみたいな」
「小官、図書館で読んだであります。
この世界で死んだと思ったら神様が魔法の無い科学世界って所に転生させてくれるであります」
「ストップ……トクサちゃん。それだよ」
「それ……でありますか?」
「異世界って言うのは、こことは違うルールで存在している世界のことなんだ」
「だが、オウトツ殿が持っていた『異世界ガイド』に書かれているのは、ここの周辺地図と観光情報みたいなものじゃないか」
全員の目を見ながら、人差し指を口につけ「静かに」というジェスチャーを行う。
「皆さん、これはここだけの秘密にして欲しいことがあります。
……難しければ、最悪騎士団内だけの秘密にして欲しいのですが、私は魔法の無い世界で死んで、この魔法のある世界に『転生』してきました。
僕にとって元の科学世界が普通の世界で、こっちが異世界です」
……
…………
あれ?騒ぎになるとか詰め寄られるとか否定されるとかそういうフェーズではないのか……?
「驚かないんですか?」
「いや、みんな理解の範囲を越えているから……今は自分の頭で情報を整理して噛み砕いているよ」
「はぁ……」
その後、ぶつぶつなにか言い始めるもの、紙に色々書き始めるもの、踊り始めるトクサなどを見ながらトキワの出した紅茶で喉を潤していた。
理系はここからが長いのを知っている。
組み立てた推論があってるかを確かめるために質問責めにされることは想像に難くない。
それが始まるまで、さほど時間はかからなかった。
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