第22話 戦闘準備2 アイゼンバーグ隊との合同訓練

 狂信的なアイゼンバーグ隊の面々に交じって、スキルについての説明を大まかに受けた後は、組み手に参加することになった。

 今回の作戦では基本的に山車だしを担ぐらしいのだが、それでも初級の戦闘くらい出来た方がいいだろうと言う判断だそうだ。


「ところで、変態さんは人を殺めた経験は?」

「ここに来る前にラガーンのゴブリンを三人ほど」

「では……」


 そういうとセレーネ隊長は人魚のような姿から、人間形態に戻り自らの獲物であろう曲刀を手に取った。

「自分と肌の色が同じ、見た目の似た種族を殺めた経験は?」

「ありませ──」


 答える前に僕の胸にその曲刀が突き刺さっていた。

「でしょうね。

まぁ、その様子だと殺された経験もなさそうですね」


 そう言いながらセレーネ隊長は曲刀を引き抜き、傷口に回復薬を雑にぶっかけてきた。

「取り敢えず、今日のところは人を殺すことと、人に殺されることに慣れてください」

「マジですか……」

「大マジです。

回復薬は一日十本以上使うと効きが悪くなるので、上限までは使いません。

一人当たり八本……アナタ以外に十人いるのであと七回殺された後に、七九回殺してください」

「それ滅茶苦茶大変じゃないですか……」


 もはや笑顔が怖過ぎるし、なんならそれを笑顔で聞いている隊員たちも怖い。

 慣れているとはいえ今からド素人に今から斬られるんだぞ……。


「んじゃあ、さっさとやるか。とっとと回さねぇと日が暮れるぞ」


 セレーネ隊長の歌が始まるとともに、ヒイロさんに斬られる。

 痛みはあるがあえて浅く切っているのかダメージが少ない。

 うずくまっていると喉元に剣を叩きつけられて意識が消えた。


 意識が飛ぶたびに痛む傷口に回復薬を掛けられて強制的に目が覚める。

 刺突、打撃、全身骨折。

 あらゆる拷問のような痛みを受けること計七回。

 骨折に至っては意識が飛ぶまで順番に足から腕などを丁寧に折られた。

 回復薬が尽きたので、ここで殺される訓練はいったん終わった。


 心を整えること三〇分。

 憔悴している俺にヒイロは自分の青竜刀のような幅広い剣を持たせてくれる。

 ここから始まるのは、先ほどまでさんざん痛めつけてくれた人たちを……実戦形式とは言え実際は無抵抗な隊員たちを切りつける作業だ。


 武器の使い方などほとんど知らない俺は、腰に剣を当てて固定し、そのままの体制で体当たりした。

 ヒイロの腹部に深々と刺さる。


「初めてにしちゃ思いきりがいいな。だが、まだ致命傷じゃねぇ!」


 そう言いながらヒイロは俺を蹴飛ばして、傷口を確認する。


「だが、急所がわかってねぇ。だから、反撃を食らうんだ。まずは正中線。体の真ん中を狙え」

「押忍!」

「いい返事だ、ルーキー……もう一度来いッ!」


 回復薬を飲んでいないヒイロの腹に向けてもう一度剣を刺す。

「そうだ、それを覚えていけ」


 ヒイロはやっと回復薬を飲み始めた。


 これを後七八回だと……。勘弁してくれ。

 手に馴染む武器を探しながら、日暮れまでリザードマン、ゴブリン、オーク、トロールの隊員を時には刺し、時には斬り、時にはハンマーで潰してすりつぶす作業を行った。


 生々しい感覚に吐き気を催しながらも、「やり終わるまで終わらないぞ」と囃し立てる隊員に鼓舞されながら、無心になって斬り続けた。


 ……いや、斬り殺されてる側が応援するってなんだよ。

 死なないと分かっては居るが痛みだけは本物なんだぞ?


 休憩をはさみながら四時間、約半日の日程で七九回のノルマをこなした。

 最後に倒したのは、僕と同じ形の眼鏡をかけたヨシュア。

 腹に刺さったナイフを抜きながら、倒れ混んだ僕を支えてくれた。


「よく頑張ったぞな。初めてにしては上等だぞな。」

「初めてでここまで耐えられる人は珍しいのですわ」

「うちの隊に正式加入する気はないか?」


 なんかこの世界に来てからハードなトレーニングしかしてないな……神器研究が一番気楽で……。

 いや、あれもなんだかんだ慣れてるし、楽しいから勝手に働いてるし、なんだかんだ一六時間労働か……ハードワークしかしてないな。


 二日目の訓練は陣形を組んでの戦闘訓練だった。

 なんでもこの度の討伐では狭い通路での戦闘がメインであると想定されるため、こういった訓練が必要なのだそうだ。


 基本の陣形Aは連携攻撃が強力な遊撃部隊のヨシュア達ゴブリンが先頭、その後ろにオークのトレハ、セレーネの乗る山車を担ぐ部隊、後衛は単体戦闘力の高いリザードマンのヒイロ、今はいないが当日は後方警戒のための斥候のサリオ。


 前衛ゴブリンが何度か回復をしたら、オークのトレハが戦線を維持しながら中衛のお山車部隊にいるゴブリンと入れ替わる事になっている。

 そうやって順番に休みながら常に一定の戦力を維持し続けるのがアイゼンバーグ隊の特徴だ。


 陣形Bは広場などで戦う陣形。

 遺跡にも部屋があるためそこで戦うための陣形だ。

 オークのトレハが後衛に回り、アイテムポーチから石を取り出して遠距離狙撃を実施する。

 それとサリオとともに後方の通路を警戒も一緒に行う司令塔役だ。

 前衛はゴブリン半数とリザードマンのヒイロが縦横無尽に斬りかかり、相手の陣形が崩れたところに、遊撃隊のゴブリン部隊が各個撃破するといった感じだ。

 ここで暴れるため、通路ではヒイロは戦わない。


 外で戦う場合はオークのトレハの代わりに、トロールのネルラちゃんが固定砲台になって、トレハも大暴れする。

 ……ネルラちゃんは女の子だったのかよ。

 胸板に押し付けられ殺されかけたけど、アレ実はおっぱいなのか?

 いや、考えないようにしよう。


 そして、グラスキーの能力を活かすための陣形C。

 これが陣形Bの変形なのだが、御輿の前にオークのトレハ、その前に僕とリザードマンのヒイロ、その前はゴブリン遊撃隊、後ろはサリオのみの背水の陣で、僕が前に出る以外は相変わらずなのだ。


 この陣形は、僕の護衛を厚くしつつ、敵に狙われにくい位置からケプラーを剥がすことが主目的だ。

 全員剥がせたら役割は完遂、ヒイロとともに前衛の支援に向かうことになる。


 陣形訓練が終われば、また今日も斬りあいの実践練習。

 しかも、チーム戦だ。


 ゴブリンとオークと連携して、ヒイロと斬りあったり、その逆だったり、ネルラちゃんの投石を避けたりして日が暮れた。

 この日のセレーネは……ハルバートと言うのだろうか?

 ゲームで見た方天戟に近い突きと薙ぎを組み合わせられる長物の武器を出しの上で振るっていた。


 昨日と比べて意図的に殺されることはなく、事故で大ダメージを受けたときにだけ回復薬を使った程度ですんだ。


 明日からは基本の戦闘訓練と、陣形の再確認と実際の流れの確認だけとのことだったので、基本的に午前中はラボ、昼飯の後三時間の特訓、残りは日が暮れるまでラボで研究をすることになった。


 ついに最終日までサリオが合流することはなかったが、彼の役目はどの陣形でも最後方の警戒と挟み撃ち回避のためのトラップ設置だから変わらないとのことだ。


────


 二日ぶりにラボに顔を出したところ、チェレステたちが書き出した魔術式を色分けしているところに遭遇した。


「これは何をしているんですか?」

「オウトツ殿が魔術式が何かの言語に近いって言っていたので、似た単語を使っている部分ごとに切り分けてみたであります」

「あぁ、そしてすごいことを発見したんだ。これを見てくれ」


 そういって渡されたのは、既に色分けの終わった魔術式のメモだった。


「この赤いしるしの付いた単語……『INPUT』って書いてあるところと、その後ろの括弧書きで書いてある部分はセットになっているみたいなんだ。他にも色々とセットになっている括弧書きがあることに気づいた」


 お、ほとんどヒント出してなかったのにそこら辺に気づいてくれたか、流石研究職の人たちだ。

 これはヒント出しても良かったんだけど、ちょっと忙しくて忘れていたんだよね。


「なるほど、そうなってくると元の世界だとプログラミングの言語に本当に近いですね。括弧の前の部分がこれから行う処理の指示文で、括弧内が詳細な内容だったと思います。INPUTなら入力する内容の文となりますね。専門じゃないので詳しくないのが悔やまれます」

「そうなのか。似ているってだけでも十分に研究方針が決められるから一歩前進だが……君は専門じゃないのか……。専門ならもっと話しが早かったのに」


 多分よくわからなくて覚えられなかった奴だな……。

 確かそういう書き方する言語が有った気がする。


「まぁ、所詮は外乱ですからね。解決に直接つながらないかもしれませんが、研究が進んだなら求められている結果は残せているでしょう」


 あとはノインちゃん待ちかな。

 法則性さえ見つけてもらえば、色々と研究も進むだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る