第21話 戦闘準備1 アイゼンバーグ隊との合流
アイゼンバーグ隊は組み手の最中だった。
だが、予想に反して真剣でガチの斬り合いをしている……。
セレーネ隊長はそれを中央の山車に乗って、歌を歌いながら観戦している。
山車の上部は水が溜まっているようで、今日は足が魚みたいなヒレになっていた。
初めて見るセイレーンらしい見た目だ。
「組み手って普通、木剣とかで怪我しないようにするもんじゃないんですか」
「今日は隊長も一緒だからな。
その時だけは実戦形式で真剣でぶん殴り合うんだ」
「隊長が一緒の時だけですか」
「お、そろそろ決着だぜ」
目の前で身の丈四メートルはありそうな大柄のトロールの隊員と、その膝にも満たない小柄なゴブリン、人間より少し大きい二メートル程度のオークのチームが斬り合っている。
腕だけで俺の胴回りくらいありそうな剛腕を、オークは全身で受け止める。
その隙をついて数人のゴブリンが足元を切りつける。
トロールは
ナイフを背中に突き刺して足場を作り、駆け上がりながら腰に携えた剣に持ち替えたゴブリンが、トロールの首筋をとらえ……その剣を延髄に突き刺し、トロールは地に伏せた。
「あれ死んでいませんか?これは訓練ですよね?
トロールの方は作戦には不参加のはずですがそれにしても死亡させるのは……」
「まぁ、慌てずに見てなさいって」
ゴブリンが首から真剣を引き抜いてオークと陣形を組みなおすと、倒れていたはずのトロールが立ち上がり、テーブルに用意されていた緑の液体を首にかけてから飲み干した。
血が止まり外傷が塞がっていくのが見て分かるが、完全には塞がっていない。
それでもトロールは立ち上がり、改めて構えを取ろうとしたその時、ヒイロが声をかける。
「アイゼン隊長~~~!打ち合わせ終わりましたよぉ」
その声でいったん休憩として、ブリーフィングの内容を共有していく。
「で、こいつは予定通り、作戦完了まではうちの隊で預かることになった」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。変態さん。
早速ですが、アイゼンバーグ隊の隊服に着替えてきてもらえますか」
そういって、今着ている服の色違いのものと簡易的な防具が手渡される。
案内されたテントで服を着替えると、眼前にスキル説明と言うアイテムを入手した旨のテキストが表示される。
「装備スキルについてか……ガイドに書いていた奴だな」
装備ごとに固有スキルがあるらしい、詳細は装備を手にした時に分かるらしいから、これまで手にした洋服には何もなかったのだろう。
アイゼンバーグ隊の装備についているスキルは、
・「ガッツ」一定以上HPがあれば瀕死の重傷を負っても致命傷を逃れられる
・「セイレーンの凶歌」契約したセイレーンの歌が流れている間、攻撃性能防御性能アップ
以上の二件らしい。
「さっきトロールが死ななかったのは、ガッツの効果か」
これがあるから本気で斬り合いができるんだろうな。
しかし、それなら隊長のいない日も真剣で訓練できるのではないだろうか。
「お、着替え終わったな」
「ヒイロさん、この服すごいですね。
ガッツに身体能力強化……シンプルだけど強い効果だ」
「ガッツに身体能力強化?何の話だ?」
そうか、装備の効果は全員が見えるわけではないのか……。
そうこうしているとセレーネ隊長がテントの外から話しかけてきた。
「あ、貴方やっぱり見えるんですね。装備スキル」
「装備スキル?なんですかい?ソイツァ」
「いい機会なんで説明しますね。皆さんここに集合してください」
全員が円陣を組んだ状態でセレーネが話し始める。
特定の魔物の素材を使い、特定の色に染めた防具や武器、衣装などにスキルを持つものが生まれること、自分の持つ魔眼や鑑定の道具があれば、装備品についているスキルが分かること、スキルは戦闘だけでなく、日常的な動作──例えば料理スキルや錬金術、調合成功率など──もあることなどが語られた。
「昔は魔獣の素材さえ揃えば服の色なんて関係なかったらしいんですけどね。今は色まで指定がありますよ」
などと漏らしていた。それも二〇〇年前の災禍に関わっているのだろうか。
魔獣の素材を使うため、こう言った装備は騎士団や貴族、ラガーンなどしか持ち合わせていないようだ。
「何故、ラガーンはそういった装備を持っているんですか?」
「いい質問ですね。
それはラガーン達が魔獣を使役していると言うことに起因します。
テイマー職で集めた魔獣の内、倒されたり老体になって使えなくなったりした魔獣から装備の素材を剥いでいるんですね。
戦闘職と素材供給が同時に適うこともあり、ラガーンの中にはテイマー職のゴブリンさんやオークさんがスカウトされやすくなります」
「テイマー自身は強くはないんだが、いかんせん飼い慣らされた魔獣は対人戦闘向きに鍛えてある。甘く見ると痛い目を見るぞ」
なるほどなぁ、魔獣は鍛え上げた隊員並みに強いんだな。
では次の疑問を投げてみよう。
「装備スキルについて、何故皆さん知らなかったのですか?」
「説明されなかったからな」
「強くなった気はしていたけど、セレーネ様への愛の力かと……」
「セレーネ様にいい所見せたいから強くなっているとばかり……」
誰も気にしていなかったのか。ここの隊員たちは対象への愛が異常に強いな……。
隊員がある程度話し終わった後に、セレーネ隊長が話し始める。
「本来は戦闘でスキルに頼りすぎないためですね。
ガッツがあると思うと雑に命賭けるじゃないですか。
ガッツで生き残っても、そのあとの回復が間に合わないと追撃でちゃんと死ぬんですよ?
過信しないでギリギリのラインで撤退するのが吉です」
それはそうだ。
食いしばりで耐えて余裕かましていたら起き攻めで負けてしまうなんて、ゲームでもよくやった。
ましてや、この世界ではゲームじゃなく現実の出来事、無敵時間などないのだから過信しない方がいいスキルなのは確かだ。
「なので、実践では私が山車に乗って歌いながら体力が減りすぎないように管理、ガッツが発動しかけたら回復薬を投げて無理矢理回復させます。
だから山車の周りに戦闘員が常に張り付いていて私を守っています」
「あ、たまに回復薬ぶっかけられるのは、体力減りすぎていたからなのか」
「俺たちのことを常に見ている……。愛だ……」
「死なない羊羹いただいている……。女神だ……」
……やっぱりアイゼンバーグ隊の面々隊長のこと好きすぎないか?
まぁ、彼女といるといつもより自分のスペックが上がっているのだから、勝利の女神としてあがめていてもおかしくはないが、偏愛が過ぎるぞ。
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