第14話 ボクの役割は「外乱」です

 我先にとラボメンバーが質問を投げかけてくる。

 記者会見を受ける政治家ってこんな感じなんだろうか……誰か司会をしてくれ。


「魔法がないってどういうことだ。魔法の代わりになる何かがあるのか?」

「先にこっちであります、その世界で死ぬってどんな感じでありますか?こっちみたいに気を失って、夢を見て、目を開けたら復活の日みたいなことでありますか」

「いやいや、待て。その前に彼の持ってる神器の説明をだな」

「異世界に行くときって、神様に会うんですか?」

「ところで君のカードがあるってことは、君はその年齢で生まれたのか?親は?それとも、こっちの世界に転生するときに、元からいたように世界が改ざんされたって事か?」

「魔素量保存の法則にしたがうと、君が顕現した際に相応の魔素が減るはずだ、魔力震等は計測されなかったが、一体どういうことだ」


 まぁ、予測通りだ。

 自分は元々機械系の大学で学んでから、情報系の企業に入るというそこそこ普通の就職をした。

 だから、この好奇心を刺激された研究者たちが子供のように戻る現象を何度も経験している。

 特に、新しい事象が発見されたときの行動はこっちでも変わらないのだ。


「一度には答えられませんので、答えやすいところから順に説明しますね」

 今あった質問から聞き取れたものを厳選して、順に答えていくことにした。

 とりあえず神様関連は話しやすいからね。

 話したら保護じゃなくて最悪研究対象としてここで飼われることになるけど。


「まず、私がこの世界で目覚めたときの話からです。前の世界のことは興奮が落ち着いてからじゃないと処理できないと思いますので先にこちらから。

目が覚めて最初に、脳内に管理人ちゃんの声が響きました。

彼女が言うには、前世で何らかの要因で死んで、この世界に転生させたこと、お約束である魔王を倒す冒険などはしなくてよいこと、そして私の役割はこの世界の『外乱』となることでした」

「外乱ってどういう事でありすか?」


 分かってないのはトクサだけみたいであった。


「例え話ですが、お鍋を火にかけたまま放置すると焦げますよね?」

「もちろん焦げることもあるな。だから火から下ろしたり、たまにかき混ぜたりするのだ」

「そのかき混ぜたり、加熱を止めたり、逆にもう一回火にかけたりすることを外乱と呼びます。

鍋の中と言う開いた系に対して、外から変化を加える事ですね」

「焦げを回避するのが外乱でありますか?」


「う~ん、ちょっと違うかな。焦げなかったのは外乱を与えた結果さ。

必要なのはかき混ぜると言う行為そのもの。

その鍋だけでは発生し無かったかき混ぜるという事象……『外から力を足して変化を生む』コト自体が外乱さ。

扉を開けると空気が中に入って対流が生まれる、箱を叩くと凹む等々『変わらないハズ』だった物に変化を与えることを外乱と言います。

勿論、平和な世界に起こる自然災害や争いなどもある意味『外乱』と言えるでしょう

──勿論、私自身で戦争などを起こす気は一切ありませんが。可能性として僕が持ち込んだ情報で争いが起ることもあり得ます」


 航海しておかないといけない部分は素直に明かしておかないと、彼らの推論が『自分で考えた』最悪の答えと最良の答えを導きだしてしまう。

 そうなると、猜疑心によってこちらの行動を制御されかねない。

 最悪の事態にならないために意志表明は明確にしておく必要があった。


「つまり、君はこういいたいのかい?

僕たちの生きているこの世界は『君という外乱を加えなければ変化することがない』と、四神が判断した──と」

 マリモ──オクトーのラボネームだ──は、既にその答えにたどり着いていた。


「断定はできませんが、恐らくその通りだと私は考えています。

この世界にたどり着いてから今までに聞いた情報では、『あと五〇年以内にレリックが失われ』、『神器の再現ができなければ、原始的な生活に戻る』と」

「まだ五〇年あるのでありましょう?

それまでに我々が何とかすれば……」

「トクサちゃん、この研究が始まってからどの位経つ?そして、得られた成果は?」

「それは──」

 チェレステさんが割り込んできた。

「それは、現リーダーのワシが答えよう。

この研究はすでに一〇〇年ほどの期間続けられておる。

しかし、現状では神器に含まれる魔法記述の取り出しまでは進んでいるが解読不能文字が混ざっており、完全な解読はできておらん。

完全に新作を作ったりするには、あと一〇〇年かかるという予測もある」


 ここまでは予想通り。ここからが重要なフェーズだ。

「私がここに転生してきた理由は、この膠着した魔法世界に波風を起こして『変革を与えること』ではないかと考えています。

パラダイムシフトを起こせえれば、恐らく数年以内に神器を複製できる道が開けるかもしれません。

それを達成するためならばいくらでもお力添えをしますよ」


 ──よし、決まった……のかな?取り敢えずはみんなが集まって会議をしている。

 信用を得るとまでは行かないだろうが、敵意無く協力的であることは理解して貰えたと思う。

 神器の貸し出しも、説明書の供出も、コピーも、転生の事も……本来はすべて隠しておいた方がいいリスキーな事柄ばかりだ。

 だがそれで協力的であると示すことができれば、十分なリターンにある。


 彼らが悪い側の組織である場合、拘束されてひたすら実験されてもおかしくはない。

 しかし、それならもう昨日の時点で拘束されてるだろうしな。


「分かった。このチェレステの権限に置いて、ラボ内ではトクサかマリモと一緒であれば、オウトツ本人の神器以外の実験研究への直接的介入を認めよう」

「最初はオウトツくんの神器以外は触らせない予定だったんだけどね。

協力してくれるなら許可取って全面的にやろう」

「あとで正式に申請を出しておく。

まぁ、数日以内に許可は下りるじゃろ。

取り敢えず、今日の昼からはオウトツの神器の研究を行う予定じゃ」


 ──キーンコーンカーンコーン


 ここで昼休憩終わりの合図が鳴ったらしい。

「ありゃ、また食堂の昼飯を食いそびれたな。いつもの店行くか」

「そういえば、このカードに二〇〇〇Dってお金が入っていたんですけど、これってどのくらいの価値なんですか?」

「お、二〇〇〇ディネーロか。そうだな。この辺の安宿なら飯込みで二泊くらいか?」


(たった二泊……ってことは、ビジネスホテル換算で約二万円といったところか。

一ディネーロが大体一〇円くらいとすれば計算はしやすいな。)


「まあ、安心してくれ。ここの内部食堂は福利厚生でタダだし、今から行く一般来客向け食堂も一食四〇ディネーロくらいで食べられる。

外の飯屋の半分くらいで食べられるから、金の心配はここにいる間は無用じゃ」

「それは助かりますね。

うちの世界も役所の食堂がそんな感じでした」


 市役所とか市民も食べられたから、仕事中に散歩がてらよく食べに行ったものだ。

「ほうほう、異世界も割とこっちと似ているんでありますなぁ」

「魔法があること以外に過ぎていて不気味なくらいですよ」

 取り合えず、腹が減ったこともあり、食堂に向かうこととなった。


 と言うか多分、管理人ちゃんが自分の世界を元に俺がいた世界もこの世界も作ったのだろう。

 似ていて当たり前ということなのだな。

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