第四章 変わらない日常と変わる日常
第31話 手投げ爆弾の改良を考えよう
数日後、サキセル行政区内、テンプル騎士団内、ラボ。
「ほう、予想以上に爆発範囲が広いとな」
「味方のいるところでは使用できそうにないでありますな」
「そうなると、保存する魔力を抑え気味にするか?」
「いえ、実は問題がそれだけではなくてですね……」
そんな感じで持って帰った情報を元に、作成済みの武器の改善案を色々と意見を交わしていた。
爆発範囲が広すぎるので、団内でのじっっ県ができないため、サキセルの外に広くて秘匿しやすい実験場を作ってもらえるように上層部には掛け合っているところだ。
命の大樹を再現するためには、まず小さなものからしっかりと魔術体系を解読していく必要があったのだが、この爆弾の成功によりヒントが得られると言う機運が高まっているのだ。
そりゃ一時的とはいえ予算が潤沢な状態の科学者達は楽しくてたまらない瞬間だよな。
「ところで、おぬしはどう思う。クロウとやら」
「えっと、そうだな。俺は……」
ここにいるのはクロウ、もといポルフだ。
遺跡の地下にあった神器を彼女の物と言うことにして、監獄にぶち込まれる代わりに神器研究への協力をさせ、ついでにアイゼンバーグ隊の隊員としてスカウトした。
更生の余地があり、強ければ元犯罪者でも受け入れるというのが、この神器持ちスカウトシステムのいいところだなとは思う。
ちなみにポルフの毛の色であるが、以前の青みがかった毛から今は綺麗な緋色になっているから結構別人に見える。
真っ赤な狼だから、紅の狼で
クロウ達カードのない民が差別されている現状について、どうにかならないかと思って念のため管理人ちゃんに話しかけてみたところ、知らない神が出たので交渉してみた次第だ。
──
────
「どうした、移住者の方から話しかけてくるなんて珍しいね」
「初めまして……アナタがティアさんですか?」
「ん?あぁ、つまり僕が最後なんだね。初めまして、僕がティアだよ」
声が高く男性か女性かの判断がつかないが、ゆっくりとして少し眠そうな声であいさつをしてきた。
「それで、僕に話って何かな?」
管理人ちゃんの内のティアさんと交渉を行って、知的レベルが十分にあり、食人を積極的に行わない人間的行動のとれるものに関しては、カードを受け取れることになった。
「確かに意思の疎通ができて、完全な人間がメインかつ人間を主食にしないものを魔獣と呼ぶのはおかしいね。
システムの書き換えが終わったら教会にもお触れを出すから多分何とかしてくれるよ」
ということで、ポルフ以外にも条件を満たした善良な元魔獣が、カードを手にして人間として生きられる環境に変わった。
現在各地の行政区と教会が連携して、見落とされていた市民の受け入れと職業訓練や学校への転入にてんやわんやしているということだ。
スワンプについてだが、こいつは何故かカードが発行されなかった。
ティアさん曰く、「条件は満たすけど、根本的に生命としての条件が整っていない」とのことだった。
よくわからないが魔獣でもないが、人間ともいえないものらしいという事だけは確定しているのだ。
──
────
閑話休題
ポルフは犯人一味に居たということで難色を示されたが、嘘発見器のような神器を用いて検査したところ、本当に対盗賊団でのみ戦闘と強奪を行っており、民間人の被害がなかったとのことで、此度の減刑が叶った形である。
残念ながら、彼女の部下になっていた狼たちは一部民間人への被害が確認されたため、短期の懲役刑になっている。
彼女の仲間たちは数年の刑期明けに騎士団の新人として訓練所に送られることになっている。
「あ~、偶然神器ユーザーになっただけで、魔術式って奴に関しては全然詳しくないから勘でいいか?」
「もちろん構わんぞ」
「こう、こいつの爆発が周りの物を壊すなら、ちょっと分厚い石とか金属でこの爆弾?を包んでだな。
爆発力を筒の内部に抑えながら飛び散る破片で複数に攻撃する散弾にするんだ」
「ちょうどボクの考えていたアイデアと酷似していますね。クロウ、アナタも戦闘ではプロだ。武器開発においては十分センスがありますよ」
俺たち研究者だけでは考え付きにくい、戦闘職員側からの意見を貰うことにしている。
「さて、現行品の手投げ爆弾に関する改善案もまとまったことですし、実際に作ってみましょう。
さて、ここからは加工班の出番なので、トクサはノインさんを迎えに行ってください」
「行ってくるであります」
「それと、チェレステさん。
そろそろクロウの神器も戻ってくる頃合いじゃないですか?」
「あぁ、そうじゃな。アレが一体何なのか知らないが、オウトツ殿が直々に上層部に掛け合って秘匿にしたということは、それだけ重要なんじゃな?」
「あぁ、そういえば詳細は言っていませんでしたね。
簡単にいうとアセンブラ……物体に魔法式やそれ以外の情報を書き込める神器ですね」
「いまでも書きこみ自体は出来ていたと思うが?」
「実は仕組みが違うんですよ」
ということで、完全に伝えきれていなかった部分を補いつつ、書き散らしたメモを取り出し説明をすることにした。
「実は先日ティア様と話した記録なんですが、今までの書き込み手順は魔法式をそのまま書きこんでいるんじゃないそうなんです。
ボクが頭で考えて理解した魔法をメガネの能力で翻訳しながらメガネが書きこんでいるんです」
「頭で考えて理解した魔法を?」
「翻訳して書きこんでいるだと?」
「つまり、『みんなでこうしたいと考えた正しい事象』ではなく、『ボク個人の考えた現象』が再現される式になっているんです」
「すまんが、どういうことか例示は可能かね?」
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