第24話 遺跡攻略2・遺跡中層無双、そして

 順調に地上階、地下一階を制圧したが、問題はここからだった。


 地下二階。入口から数えて三階層目。

 ここを超えればようやく最下層に降りることができるが、降りた階段の先が三〇メートル四方、高さ五メートル程度の大部屋になっていた。

 ブリーフィングで見た推測図面のサイズからすれば、ここはこの一部屋でほぼ完結しているようだ。


 本格的に戦闘員と狼型の魔獣の捕獲されている区画のため、敵の数が単純に多く激戦となった。


 しかしながら、上は制圧済みのため後ろからの増援はない。

 後方確認を最低限とする陣形Aのまま本隊は通路に陣取り誰も逃がさないよう、階段に続く通路をふさぐ。

 その間に遊撃部隊のメンバーは部屋に踏み込み、麻痺毒ナイフで切りつけて敵の数を減らしていってもらう。

 僕たち本隊の半数は剣で近寄ってきた敵の排除、もう半数はショートボウやクロスボウを手に遠距離で敵の戦力を削っていった。


 僕も渡されたクロスボウのような形のパチンコに石をつがえて打ち出していく。

 精度のいい矢は高く矢も有限のため、そこら辺にある石を散弾のごとく打ち出してケプラー防具では減衰できない攻撃で蓄積ダメージを与えていく、連射ができないこと以外とても使い勝手がいいということだ。


 ただ、装填速度が遅いため街道で使うには向かないため、こういった追い込み戦で二段または三段撃ち──撃ってすぐ後方に下がり、交代要員が売っている間に装填する撃ち方──ができる状況じゃないと運用が難しいとのこと。


 部屋の中で待ち構えて倒そうとするものは自身の脇をすり抜けるヨシュア達の速度について行けず麻痺していく、通路に仁王立ちしている本隊を先に狙おうとする敵の多くは、遠距離攻撃により本隊に届く前にダメージを蓄積し、バタバタとその数を減らしていく。


「戦意を失っていてもとどめを刺してください。

何のきっかけで襲ってくるかわかりませんからね」

「イエス、マム」


 心苦しいが動かなくなってから剣で刺したり首を折ったりすれ、確実に敵を止められるのだ。

 復活する世界ならではの逮捕術だな……元の世界ではまねできない奴だ。


「復活の日がなかったら、ただの虐殺ですね」

「まぁ、そうですね。

でも、逮捕するより、殺した方が確実な安全性が確保できるから、騎士団的には復活ありきの環境は助かりますよ」


 ほとんど立っているものがいなくなったので、僕は他の隊員と一緒にとどめを刺した敵の遺体をアイテムポーチに収納している。


 僕が倒したグリーンゴブリンも、こうやって輸送すればよかったんじゃないかと思ったのだが、アイテムとして扱われるのは遺体復活する前の間だけらしく、二五日の復活の日を過ぎると自動的にポーチから排出されてしまう。


 そのため、日付が変わると生き返ることが確定している、村の集会所で捕まえた相手は縛り上げて檻に入れざるを得なかったとのことだ。

 あそこでもう一回殺すと、一ヶ月尋問が伸びてしまい、こんなに早くこの作戦に移れてはいないだろうとの話だ。


「これだけドンパチしているのに、下の階から救援が来ないのは不気味ですね」

「あぁ、このパターンは大体三パターンある。

一つ、最下層は宝物庫などにしていて人がいない。

一つ、下の階層に罠を張っていて、そこに誘い込みたい。

最後に……おっと来なすったぜ」


 部屋の半分が死体に覆われた状態で、下の階に続く階段からより強そうな魔獣が飛び出してきて、この階にいた魔獣やそこら辺に転がっている敵の死体を貪り始めた。


「今回は最後のパターンだ、『雑魚で疲れさせてから本隊が強襲する』隙を窺っていたケースだ」

「皆さん。

恐らくこれがラストでしょう。

陣形B!」


 数メートルだけ前に歩き、後方警戒のサリオ、通路をふさぐトレハを除く部隊全員が部屋の中で体制を立て直す。

 念のため、細かな傷のある隊員もポーションを飲んで回復しつつ、目の前の相手とにらみ合う形になった。


 まだ敵のボスらしき集団は遠い……手前のクマのようなサイズの狼型の魔獣から順次相手をするしかないのだが、魔獣たちは回収できずにフロアに残してしまった敵戦闘員の死体を平らげているため、この数分で力が数段上がっている。


 一瞬の膠着状態だったが、魔獣の食事終わりに大きな咆哮を放ったのを合図に、戦いが再開される。


「来ますよ。

総員、死んでも相手を倒せ」

「イエス、マム」


 まずは、定石通りトレハの投石攻撃で二体の魔獣を分断し、一体の魔獣に三人ずつ攻撃を開始した。

 魔獣同士が合流しないよう適度に石で牽制しながら、右を対処する三人と左を対処する僕たちの二班に別れて部屋の左右で二つの戦いが始まった。


 左サイドで一番パワーのある僕が大型の盾──本来は片手持ちのタワーシールドとかいうやつ──を両手で持ち魔獣の攻撃を誘って押さえつけ……うおぉ、重たい……。

 トロールのネルラの攻撃を受け慣れて、かなり鍛えられたと思っていたけど、それ以上の重さだ。


 ゴブリン遊撃隊並みの手数の多さと、たまに混じるトロール並みの強打。

 盾で受けるだけでも息が上がるし、ダメージが蓄積していく。

 しかし、戦闘訓練で何度も受けたおかげで、不完全だが受け流しができでいるお陰で全く対処できないわけではない。


 相手も盾にぶつかるたびに若干動きが止まる瞬間があり、その間にゴブリン部隊が魔獣の足を切りつけていた。


「随分と攻撃の速度とパワーが落ちてきた。

もう少しで倒せそうだ」

おう!」


 僕たちが攻防を行っている間も、オークのトレハは後方からソフトボールより大きめの手頃なサイズの石を投げて魔獣の動きを牽制していた。

 噛みつかれそうになったら石が邪魔をし、右側を攻撃するのを意識されないように左に岩を投げてあえて音を出したりしている。


 二面作戦なのに両方とも面倒を見ているトレハは本当に連度が高くてありがたい……。

 正直、一〇名ちょっとのこの部隊で突入は無謀だろうと思っていたが、この狭さであれば少数でガンガン走り回れる方が攻略には向いているのだとよくわかる。


 右の部隊が魔獣の首にナイフを刺して沈黙させたらしい。

 だが、まだ安心はできないとばかりに何本も毒ナイフを刺している。


 こちらサイドも魔獣の動きも力も鈍ってきて、そろそろ倒せそうな空気が漂っている。


「そろそろ僕も攻撃に加わります!」

おう!」


 直径五〇センチくらいのラウンドシールドとショートソードに持ち替えて、牙を盾で受けてその隙に魔獣の首を狙った。

 まだ切ることができないから基本は突き刺しで、偶然の致命傷を狙うことになる。

 俺が首に剣を突き刺そうとしたその時、魔獣が光に包まれて吹き飛んだ。


 謎の光に包まれた大型ウルフの魔獣は、後ろの壁まで吹き飛んでいた。

 五体は無事のようだが、痙攣をするほど大ダメージを受けたため、数時間ほど再起は不可能だろう。


「流石、音に聞くアイゼンバーグ隊だな。

このクラスの魔獣程度では時間稼ぎにしかならないか」

 声のする方を見ると砂煙の向こうに片手を突き出した人影が目に入った。

 先ほどの光は、その人影が放ったものらしい。


「今のはいったい……」

「全員集合!陣形Cに組み直してください!……さっきのは魔力球ですか。厄介な相手ですね」

 セレーネ隊長が歌うのを中断して直接指示をしてきた。

 ついにヒイロまで投入した最終決戦と言うわけだ。

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