第25話 遺跡攻略3・遺跡下層 3人の人影
あの気弾みたいなのが魔力球と言う攻撃なのか。
「魔力球って何ですか」
「魔法が使えなくなった後に確立された技術です。
属性も何もない魔力の塊を相手にぶつけてダメージを与えます。
属性がないのでアーティファクトの魔力防御の付いた盾でもなければダメージが貫通してしまいますし、属性魔法防御なら一部貫通します」
そんな……今持ってきているのは普通の盾だぞ、防御貫通攻撃なんてどう防げばいいんだ。
「まぁ、無論弱点もあるぜ。
純粋な魔力には純粋な魔力をぶつければいいんだ。
こうやってな」
ヒイロが自身の持っている刀に魔力を付与したのか、白いオーラのようなものをまとった刀身が光っているかのように見える。
「魔力球自体を作り出すのは膨大な魔力と精密な制御を必要とする。
しかし、武器にまとわせるのであればそこまで精密な制御は不要だ。
あとはコイツで斬るか打ち返すだけでいい」
「斬れるものならな……」
もう一発小さな魔力球が飛んできたが、ヒイロは難なくそれを切断した。
「な、斬るだけだっつったろ」
部屋の砂埃が晴れたころ、敵のボスらしき男の顔が見えた。
緑髪のウルフカットのワイルドで上半身が裸のヒト族に見える男だった。
これまでここにいたのが、肌が緑で小人サイズのゴブリンと、同じく緑で俺と同じ一七〇センチくらいの筋肉質で少し顔の崩れた中型のオーク、あとはそれらが使役しているウルフばかりだったので、ボスがまさかヒト族だとは面食らってしまった。
「あとはあの三人で終わりのようですね」
「恐らくはな……全員回復は済んだか?
三つ数えたら行くぜ……一つ……ふたッ!」
「そこまでですよ」
飛び出すタイミングで歌うために待機していたセレーネ隊長の喉元にナイフが突き刺された。
後ろから不意打ちしたのは、後方支援をしていたはずのサリオであったが、次の瞬間トレハによって頭が潰されサリオは沈黙した。
「サリオ……なんで」
「トレハ、今の指揮官はお前だ。
気を取り直せ」
こういった場合、指揮系統は即座に第二位のトレハに委譲されることになっている。
ちなみに第三位のヒイロまでやられた場合は、即座に煙幕を焚いて撤退することになっている。
「総員!散開して敵に対処せよ!
グラスキー!貴方はセレーネ隊長の治療を!」
「「「了解!」」」
不測の事態でも歴戦の猛者は動揺することなく事態に対処してくれるが、セイレーンの加護無き今は先ほどまでの勢いはない。
それでも三方に別れて敵をまとめないように、的を絞られないようにと広そうに見えて狭い室内を駆け巡る。
「セレーネ隊長!大丈夫ですか?」
まずは首に指をあてて脈をとる、弱いがまだ脈がある!
俺はアイテムポーチから回復薬を取り出して首に空いた穴に掛けていく。
喉の前と首の後ろ……頸椎はギリギリ無事のようだ。
外側にある傷は無くなったが、まだ油断することはできない。
「グラスキー、回復薬を飲ませて内側からも治癒して!」
「はい!」
飲み口をセレーネの口に当てて少しずつ液体を流し込むが自発的には飲んでくれない。
それどころか弱々しい呼吸すら止めてしまいそうである。
「ダメです!飲みません!」
「自発的に飲まんのやったら口移しで良いから無理矢理飲まさんかい!」
「く、口移しですか!?」
投石中のトレハに指示を仰ぐ。
指示に援護にとやることがいっぱいいっぱいのため、いつもの優しい口調ではなく怒号だったが、答今やるべきことを的確に指示してくれた。
これが経験の差と言うやつなんだな。
「迷うな!あくまで救助やさかいに!……返事は!」
「はい!」
言われた通りもう一本の回復薬を開けて口に含むと、セレーネの口に自分の口を押し当てた。
セレーネの口いっぱいに回復薬を詰め込んだら、鼻をつまんで息を吹き込みながら回復薬を飲ませた。
顔色が良くなり、拍動も回復するが目を覚まさない。
「あとは息をいれ続けろ!じきに目覚める!」
「はいっ!」
俺は着ていたマントを脱いで丸めて、セレーネの肩の下に入れて気道確保を行ってから、鼻をつまんで息を入れ続けた。
心臓は動いているのだから、マッサージはしない。
あとは脳まで酸素が届けば目を覚ますのだと思われる。
一方でゴブリン遊撃隊は敵の二人の部下を抑えることに成功している。
しかし、決め手がないので一進一退の膠着状態である。
そして、ボスとタイマンを張るのがヒイロだ。
ここまでひたすら
何故なら、彼の剣技はチーム一……いや、サキセルの騎士団でも上から数えた方が早い程強いのだ。
もうちょっと頭が回るなら中隊長くらいにはなれていただろうと言われる実力者なのだが、セレーネ隊長の下で働きたいという希望で部下に甘んじていた。
セレーネに惚れ、彼女のために剣を振るうと決めてから全ての昇進を断り、少数精鋭のアイゼンバーグ隊を一から作り上げてきた立役者だそう。
また、両手で振るう超高速のナイフだけでも目で追うことは難しいのだが、指先が使えようにナイフを持っているため、切る動作に投げを混ぜることもできると言う、CQCのようなものを開発していた。
リザードマンの彼は、ファンデルワールス力によって指を離してもナイフが落ちにくく、瞬時につかみと切断を選択できるという他の種族にはない利点があった。
「厄介な攻撃だな……。掴みを避けようとすれば切られ、切断を警戒すればいつの間にか捕まれている」
「更にこういうこともできるぜ」
ヒイロは足でつかんだ砂を巻き上げて目つぶしを狙いつつ、敵の鎧を素足で蹴った。
その瞬間、後ろ向きに倒れ込んだかと思うとそのまま敵のリーダーを
敵が浮いた瞬間に葦からその体を離すと素早く体勢を立て直し、ナイフを持ち直し、逃げ場のない敵に対して刺突を繰り出した。
敵はそのナイフを……噛み砕いた。
「なんだと……」
「惜しかったなぁ……俺の本来の武器はこの牙なんだぜ……」
先ほどまで人のような顔から、若干ウルフのようなマズルのある顔に変わった男が号令をかける。
「野郎共!本気出すぜ!空を見ろ!」
そういって指を突き上げながら魔力球を作り上げる。
「ほぉら、月だぞ……」
「「ワォーーーン」」
残りの二人もその丸い月のような魔力球を見て、狼獣人──ウェアウルフへと姿を変える。
「まったく……そいつらまだまだ未熟でよぉ。
偽物でも月を見ないと変身すら出来ねぇ。
いい加減大人になってほしいよなぁ」
そういうとウェアウルフのボスは、チャックを開けてケプラーの袖と裾を切り離し、軽装に着替えたのだった。
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