第二十二話 ももたろう

「委員長、説明できるか?」

 先生のご指名に、当然とばかりに名倉が立ち上がる。

「おっと合点承知の助よ。心得タヌキの腹鼓はらつづみ、どうぞ任せて暮れの鐘」

 いやそれわかれへんって! 俺にもわかれへんって!

 ペネロペが早速「彼女は?」と先生に聞く。ちょっと予想はしたが、先生が答える前に名倉が口を開きよった。

「問われて名乗るもおこがましいが、知らざあ言って聞かせやしょう。一年一組の学級委員長、名倉一座の小梅太夫たぁ、あたしのことさぁ!」

「よっ、小梅太夫! 日本一!」

 って、なんで太一郎が言うねんな! 俺の体で拍手すんな! みんなポカーンやし。

「My name is Komomo Nagura. I am leader in the class。それじゃ、ユウヤだっけね、台本の説明しとくれよ」

 名倉の勢いに押されてユウヤが「は、はい」言うて慌てて席を立つ。それ以前にその英語、正しいんか?

「えーと、説明って言っても、基本的に桃太郎なんで、特に説明もないんですけど、一年一組らしさを組み込んでもいいかなと思ってるんですけど……。つまり、台本書いてて、フツーに桃太郎の話をなぞってるだけじゃんって気づいて」

「なあ、まずは四人に桃太郎の話をちゃんとおさらいした方が良くねえか?」

 さすがは宇部や。お前なんで委員長ちゃうんや?

「えっと、君らは桃太郎の話はちゃんと知ってるのか?」

 それにもペネロペが答える。

「お爺さんが山にシバカレに、お婆さんが川に洗濯に行くんだよね。そこで大きな桃が流れて来て、お爺さんが家に持ち帰る。食べようとすると中から男の子が出てくる」

「そうそう」

 そうそうちゃうやろ。シバカレに行くな。関西人やのにツッコまれへんの苦しいわ。

 それにしてもよう知っとるな。アメリカ人侮れん。桃太郎が侮れんのか?

「その子に桃太郎と名付けて育てるけど、桃太郎が大きくなるころに、鬼ヶ島からやって来た鬼たちが村の人達の金銀財宝を盗んで行ったりするのよね」

「なんでその村には金や銀があったんだ? 鉱山のある村だったのか?」

 とリアムが言う。さすがにゲームをやり込んでいるだけあって、発想がRPG的やな。

「いや、普通の農村」

 宇部が答えると、葛城が「じゃあさ」と続けた。

「金銀財宝やめて違うものにしようよ。商人の町にして、招き猫を神様として祀るとか」

「イヌ祀ったらいいんじゃない?」

 葛城の案を受けて蕪月どっちかが言い出した。俺か? 俺が祀られんのか? ええけど。

 俺は調子に乗って、太一郎の机の上で招き猫のポーズをとってみた。

「ねえ、イヌってあたしたちの言葉がわかるんじゃない?」

「やだ可愛い」

 シラタマに可愛い言われんのはちょっと嬉しいな。

「じゃ、そうしよう。」

 ユウヤがあっさりその案を受け入れると、今度は太一郎が手を挙げた。

「あのー、そうなりますとですね、招き猫を鬼が奪っていくというのはいかがでしょうか。ねえ、宇部君?」

「そうだな、商人の町ならそれこそお金がたくさんあるし、商品もいっぱいある。町の神様である招き猫を人質にとった鬼が、交換条件でお金や商品を要求してくるというのは?」

「犯罪小説みたいな桃太郎だね」と葛城。

「じゃあ、鬼もトレンチコートにグラサンで帽子とか被ってたら?」

 シラタマがノッてきた。けど設定がムチャクチャや。

「ロケランとかサブマシンガン持って町の人を脅しながら招き猫を持ってっちゃうってのも良くね?」

 おい、ユウヤ、調子に乗りすぎやで。そのサブマシンガンどっから持って来るんや。

 と思う間もなく再び葛城。

「鬼から身代金の要求が来るの。それで街の人達が身代金を用意していると、トレンチコートの鬼がそれを回収しに来るのね」

 ああもう鬼はトレンチコートにグラサンで決定しとるらしいわ。

「招き猫を持ち去られた町は、活気を失ってしまいますね。どうしても招き猫を返して欲しいから、なんとか鬼ヶ島へ行って招き猫を無事取り返してきて欲しいと長老が言うでしょう、そこで桃太郎が立ち上がるというのはいかがでしょうか?」

「いいじゃん、南雲。冴えてるね!」

 太一郎がシラタマに褒められとる。なんか悔しい。

「ナルホド、イイですね。せっかく商人の町なんですから、お団子屋のお婆さんが桃太郎にきび団子を持って行けと手渡すというのはどうですか?」

 ペネロペがノリノリや。せやけどゾーイも負けてへん

「ワタシ、思う。鬼ヶ島の行く途中。犬、猿、鳥servantになりたい。桃太郎welcomeキビダンゴ与える」

「鳥はキジな」とユウヤ。

 そして再びシラタマ。

「ねぇねぇ、犬と猿と雉は黍団子を食べたら二足歩行を始めるっていうのはどう? 猫シュミみたいにさ」

「猫シュミ!」

 リアムが叫ぶ。「猫シュミにしよう!」

 盛り上がってきたところで名倉が「はいはいはい」と手を叩いた。

「桃太郎と三匹の家来は鬼を倒して招き猫を持ちかえる。これでいいね? 監督は誰だい?」

 いきなり実務的な話に戻ったよって、みんな口を閉ざしてもーたがな。

「なんだい決まってないのかい。それじゃあたしが指名するよ。宇部君でいいね」

「待って、なんで俺?」

「この猫マトモに扱えるのあんたと南雲君くらいだろ。こいつがが肝心鹿島の要石なんだからね」

「まあ、そうだけど」

 そこに葛城が加勢する。

「それに宇部君、時代劇好きだったよね」

「よし。これで吉田の兼好だ、先生、決まりました!」

 名倉が本来の委員長の役割をしっかり果たしたところで、ぴったりとチャイムが鳴りよった。

 しかしこの江戸っ子な喋り方、どうにかならへんのんか……。

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