第二十八話 生き生きしとる
今日は留学生にはなるべく日本の文化に触れて貰おうっちゅうことで、休憩時間に花札や
辛うじてできるのが何人か。蕪月姉妹がお手玉や折り紙を(言うても折り紙はペネロペの方がようさん知っとった)、ユウヤが竹馬を、葛城が花札を教えたところで、名倉が丁半勝負を教えようとして太一郎が全力で止めとった。賭け事はあかんやろ。
ちゅーか。みんなの気合の入り方が普段とあまりにも違い過ぎや。朝いつもより早よう登校して張りぼてを作る人もおれば、衣装に細工する人もおった。もちろん昼休み返上でチャンバラの流れもさらっとる。こんなに熱心やったか、一年一組?
放課後になって宇部が「ちょっと聞いて!」と言った。
「今日は衣装も小道具も全部後回しだ。みんな外に出よう。教室じゃ狭くて怪我するかもしれない」
みんな納得して丸めた新聞紙を持って外に出たが、なにしろ七月だ、炎天下でやるのは逆に危険だということで日陰のあるピロティでやることにしたようだ。俺は猫だし呑気なもんだ。
「太一、まずはペネロペをどうにかしな」
いっや、簡単に言いよるわ。せやけど名倉の方はリアムチームの動きをつける気らしい。あっちは肉弾戦のせいか鬼も柔道部ばっかしやな。ちょっと心配になった俺は、太一郎の方に行ってみた。
「どうします? さすがにマキビシは使えませんよね」
太一郎が話を振るとペネロペが懐から何かを出して来よった。
「
いや、危険度は大して変わらんし!
「それだってぶつかったら危険ですよ。お客さんもいらっしゃいますし」
そこは太一郎の方が常識的な判断や。
「それなら、私は忍者らしく短刀で戦えばいいわ。明日にでも短刀作っちゃえばいいのよ。それで直接戦うよりは躱しながらたまに戦うみたいな」
「それなら行けそうかもしれません。昨日ユウヤ君がジェイコブを追い回したような感じでやればいいのですね」
「うん、それでやってみようよ」
太一郎がみんなの方を向いてパンパンと手を叩く。
「このチームは通路ですから往復しましょう。鬼は後ろの入り口からぞろぞろと入って来る、そこにペネロペがまっすぐ進む。ハイ、そっち側が後ろで、こっちがステージ側です。位置について」
鬼が後ろで新聞紙を構える。
「じゃ、なるべくドタドタと走って来てください」
鬼が思い思いに新聞紙を構えながらぞろぞろやって来る。ペネロペに接近したところで太一郎が止めた。
「先頭、
「OK」
すげえ。流れとる。カッコええ。カッコええけど……。
「次も上から。ぺネロべ、懐に入って手首を掴めますか。そのまま投げましょう」
「俺、受け身得意だから投げられる鬼やるわ」
「ああスバルくん、ありがとうございます。そうしてください」
スバルがクルンと前転してひっくり返る。うめえ。うめえんだけど……。
「次、振りかぶったところで蹴り入れて! 鬼は後ろに吹っ飛ぶ!」
なんやこのモヤモヤは。すげえカッコいいのに、なんやおかしい。
「ああ、違います。それじゃ金棒で殴られてます。いいですか、ここは鬼が振りかぶった時にもう蹴り入れてないと殴られちゃうんです」
太一郎がペネロペのかわりにそこに入る。
「
すげえ、すげえよ太一郎。お前本当に商人の子なんか?
太一郎が引っ込んでペネロペが入る。同じように流すと今度は見事にケリが入ったように見える。
「うわあ~」
丹矢部が上手くひっくり返った。
「丹矢部くん、もっと激しく大袈裟に倒れられますか?」
そこで俺はふと気づいた——太一郎が生き生きしとる。
そうや、太一郎が生き生きしとるんや。今から二百数十年前に掘割に落っこちて死んだ太一郎が、俺の体を使って生き生きと動いとるんや。
ほんで俺はこうして猫になった。猫は気楽でいい。勉強もせんでええし、めんどくさい体育からも解放された。高校受験も関係あらへん。
せやけど。もう猫シュミもできひんし、いくら蕪月やシラタマが可愛くても、あいつらから見たら俺はただの猫や。そして自分の体を使って太一郎が人気者になっていくのをただ眺めてるだけや。
かと言って体を返せってわけともちゃう。俺が体を返してもらうっちゅーことは、太一郎が死ぬことを意味する。いや、実際はもう死んどるわけやし、今がおかしいねんけど。それでもあいつは今を精一杯楽しく生きとる。俺みたいに惰性で生きとるんと違う。
でも……。
なんやいたたまれんようになって、俺は場所を移動した。リアムチームの方や。
こっちは動きが派手や。
「実際に当てないどくれよ。みんな死んじまう。いいかい、リアムが拳を突き出して来たら三寸以上離れていてもいいから後ろにひっくり返るんだ」
「三寸?」
「ああごめんよ、十センチだ。勢いがあれば離れていたって当たってるように見えるのさ。ああ、蕪月姉の金棒、掴んじまおうかね」
「わたし、どうしたらいいの?」
「掴まれたら適当に声上げてひっくり返ればいいよ。実際に殴られたりする動きが無いから安全だよ」
「うわあ、とか?」
「そうそう。宇部、その後ろから襲い掛かる! 蕪月姉が目の前でひっくり返るから、上手く避けるんだよ」
そっか、宇部はリアムチームか。大変だな。
「よし、大体流れがついたね。一度四チームいっぺんに流してみようか」
「よーしみんな、いっぺんにやるぞー」
宇部が声を上げるとみんなが集まって来る。
「この辺がステージ、こっちが下手通路、この辺りが中央通路、こっちが上手通路な。ステージにはジェイコブチーム、中央通路はゾーイチーム、上手通路はリアムチームで下手通路はペネロペチームだ。ジェイコブチームは少し全部倒されるまで時間がかかるようにしてあるから、他の三チームは流れが一通り終わって鬼が全部倒れたら三人はジェイコブの方に合流するようにステージに向かって。ジェイコブは三人がちょうどステージに到着する頃に全員倒すくらいのテンポで」
「しつもーん。倒された鬼はどうしたらいいですか」
「後ろのドアからはけて、舞台袖に戻ってすぐに村人の衣装を着て待機。ジェイコブたちが舟で鬼ヶ島から戻って来るまでに着替えが終わるように。スタートの合図は名倉が出して。俺、鬼やってるから」
「合点承知の助さ、任しときな」
名倉も生き生きしとる。もしかして一年一組には、名倉も俺も今の方がええのんちゃうか。
俺は無性に委員長に会いたくなった。
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